太田述正コラム#0543(2004.11.24)
<韓国とキリスト教(その2)>
(2)布教への熱意
韓国のキリスト教の特徴の第二は、その過激なまでの布教への情熱です。
韓国のプロテスタント系の、かつ原理主義的な諸宗派の、イスラム世界や中国での特攻的な布教が最近英米で話題になっています。
イスラム教徒をキリスト教に改宗させるとその改宗した者は殺されかねないというのに、しかも韓国政府がイラクへの渡航に対して強く警告しているにもかかわらず、その上、イラクのキリスト教の教会が次々に爆弾をしかけられている状況下で、なおかつ彼らはバグダッドに神学校を開設する計画をあきらめていません。(彼らの唯一の拠り所は、中東で韓国が米英ほどは嫌われていないという点です。他方彼らは米英の宣教師ほど現地の文化に通暁しておらず、不必要に現地の人々の怒りをかうことがあるようです。)4月には8名の韓国人宣教師が一時ファルージャで誘拐され解放されましたが、そのうち2名は全く懲りずに、10月末に再び他の3名の韓国人宣教師とともにヨルダンから陸路モスル入りし、現地キリスト教徒達からお互いの命がねらわれかねないと追い払われ、バグダッドで在イラク韓国大使館の職員達とイラク軍兵士達に強制的に保護され、イラクを出国しました。
6月には、宣教師志望の金鮮一の誘拐首切り殺害事件が起きた(コラム#391、396、431)ところです。
また中国では、中国政府当局の意向に真っ向から逆らい、北朝鮮難民をキリスト教に改宗させた上で中国を脱出させてきました。ベトナムに脱出していた北朝鮮人難民約460名を7月に韓国に渡航させた(コラム#430)のも彼らでした。
更に彼らは、改宗させた上で韓国に連れてきた北朝鮮難民の一部を、北朝鮮で布教活動を行わせるために再び北朝鮮に送り返すという無謀な試みも行ってきています。
韓国のキリスト教宣教師の数は、1979年にはわずか93名に過ぎなかったのに、韓国人の海外渡航が解禁されてからはどんどん増えて、今や12,000名にのぼり、米国の46,000名に次いで世界第二位になっています。(ちなみに第三位は英国で6,000名。)最近では、「中国人が行ったところには中華料理屋ができ、日本人が行ったところには工場ができるが、韓国人が行ったところには教会ができる」という三題噺があるくらいです。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/11/01/international/asia/01missionaries.html?pagewanted=print&position=(11月2日アクセス)及び(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200411/200411020034.html(11月4日アクセス)による。)
(1999年、韓国の仏教の最大の宗派のソウル所在の総本山を舞台として、仏僧が主流派と反主流派に分かれて互いに暴力をふるい、更に消火器を振り回し機動隊と乱闘騒ぎを起こした(http://www.fujitv.co.jp/supernews/special/toku1026.html。11月19日アクセス)ことは覚えておられる方もあると思います。韓国のキリスト教も早晩、いまだ潜在的な暴力的要素が顕在化するのではないか、と私は懸念しています。)
(3)強い政治志向
特徴の第三は、強い政治志向です。
反日運動への関与については既に説明しました(コラム#539)。
原理主義的宗派を中心とする反北朝鮮運動については、上述した布教活動のほか、ノ・ムヒョン政権の国家保安法廃止の動きへの反対運動(http://japanese.donga.com/srv/service.php3?bicode=080000&biid=2004100508898。11月19日アクセス)、北の人権蹂躙を糾弾する運動、更には北の体制打倒運動が挙げられます。
遺憾ながら、韓国で北の人権蹂躙糾弾に取り組んでいるのは、キリスト教諸教団、就中原理主義的諸宗派だけだと言っても過言ではありません。
(以上、http://www.csmonitor.com/2003/0611/p01s02-woap.html(6月11日アクセス)による。)
まだまだ、韓国には人権思想も、従ってまた自由・民主主義も定着していない、とつくづく思います。
このほか、私立学校改革法案(http://www.sankei.co.jp/news/041027/morning/27int001.htm。11月19日アクセス)(注)にもキリスト教書協団は反対運動を行っています。
この法案は、私学経営において、学校財団など経営者側の支配権を制限し教職員や労組の発言権を拡大しようというものです。ノ政権は、私学の経営上の不祥事を防ぐためと主張していますが、左派主導の教員労組が決定権を握ることになるという批判があり、多くの学校を経営しているキリスト教諸教団もこの法案に反発しているのです。
(注)言論改革法案(コラム#535)、私立学校改革法案、過去清算法案(コラム#447)、国家保安法廃止法案の四つは、ノ政権が成立を狙っている四大法案とされているが、いずれも憲法違反の疑いがある。ちなみに、ノ政権が最大の目標にしてきた首都移転計画が、憲法裁判所によって先般「憲法違反」と判断された。韓国には基本法たる憲法を遵守しなければならないという観念、法の支配の観念もまだ定着していない、と言わざるをえない。
(完)