太田述正コラム#0676(2005.3.31)
<ライブドア・フジサンケイグループ「抗争」(その2)>
(3)文明の衝突
ア リスク選好度
イギリス人の生業が戦争であるとすれば、米国人の生業は博打である、という趣旨のことを以前(コラム#307で)指摘したことがあります。
要するにアングロサクソンはリスク選好度の高い人々(risk taker)だということです。
それに対して、日本人はアングロサクソン以外の大方の人々同様、リスク選好度の低い人々(risk evader)です。
米国産牛肉輸入問題は、アングロサクソンと日本人の選好度の違いが生んだ紛争・・文明の衝突・・であると言えるでしょう。米国人はある程度小さいリスクであればそのリスクは甘受しますが、日本人はどんな小さいリスクでも回避しようとします。
もちろん日本人でも、交通事故による死者が毎年一万人出ても、代用品がない以上、車を廃止せよとは言いませんが、米国産牛肉のように、第三国からの輸入がある程度可能で、しかも豚等といった代用品があるようなものであれば、BSEのリスクゼロを求めます。
米国産牛肉の輸入再開を米国http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050331k0000m050107000c.htmlが強く求めているにもかかわらず、ごく最近の日本の世論調査においても、輸入「再開を急ぐべきではない」71%、「早期に再開すべきだ」17%という結果が出ています(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050328k0000m040098000c.html。3月28日アクセス)。
対米協調路線の読売新聞はいたたまれない思いなのでしょう、社説で早期の輸入再開を訴え、日本政府に世論の説得を促しています(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050328ig90.htm。3月29日アクセス)。
私の見るところ、ライブドアの堀江社長はアングロサクソン的人物であり、これに対してフジサンケイグループは、余りにも日本人的な人々の集合体です。
高いコストのカネを借りて、自分達に比べればはるかに規模の小さい会社が、社運を賭してグループの支配に乗り出してくる、というようなことは、フジサンケイグループの総帥日枝フジTV会長にとっては、宇宙人の襲来に等しい、青天の霹靂であったに違いありません。
イ 企業観
文明の衝突と言えば、ライブドア・フジサンケイグループ「抗争」を通じて露呈したのは、ライブドアとフジサンケイグループそれぞれの企業観の衝突です。
ライブドアはアングロサクソン的企業観を抱いているのに対し、フジサンケイグループは日本型経済体制下の企業観を依然当然視しているように見受けられます。
日本型経済体制とは、先の大戦に至る過程で構築され、日本の戦後の高度成長を支えた経済体制であり、その最大の特徴は、「市場」や「計画」に比した「エージェンシー関係の重層構造」の優位にあります。
私が何を言っているのかさっぱり分からない方は、ずっと以前のコラム(#40、42、43)をご参照いただくとして、一般的な用語でごくごく単純化して申し上げれば、アングロサクソン的企業観とは、企業を財・・株主が所有する財・・ととらえる企業観であるのに対し、日本型経済体制下の企業観とは、人間関係の束として企業をとらえる企業観なのです。注意すべきことは、その人間関係の束が、当然社内でこそ最も密ではあるけれども、財・サービス提供者、顧客、株主、政府にも濃淡はあっても広がっていることです。
その証拠に、ニッポン放送への有力出演者から、もしライブドアがニッポン放送を支配するようなことになれば、出演を拒否するという意向を明らかにする人が続出しましたし、フジTVの番組の提供を受けている日本全国の系列局は、フジTV株を購入してフジTVの買収防止に協力する姿勢を示したところです。また政界からも経済界からも、ライブドアに不快感を表明する声ばかりが聞こえてきます。
日本型経済体制は、企業内においては「計画」優位、企業外においては「市場」優位のアングロサクソン型経済体制の浸食を受けて崩壊しつつあるという見方がもっぱらですが、前者の企業観は意外にも依然健在であったようですね。
海外のメディアの中にも、「堀江は、株主間の透明性ある議論よりも、内輪の人間関係に依存するという牢固とした日本的な経営姿勢を揺さぶった(Horie has shaken deep-rooted Japanese management policies that rely on cozy personal relations rather than transparent shareholder debate.)」という見方を紹介しているもの(http://www.atimes.com/atimes/Japan/GC29Dh01.html。3月29日アクセス)があります。
(続く)