太田述正コラム#783(2005.7.8)
<似た者同士の日韓?(その2)>
この頃、日本の植民地であった朝鮮半島では、「身体髪膚父母よりこれ受く」という儒教的な規範から、いかなる自殺も厳しい批判の対象とされていました。
ところが、日本での自殺事件が盛んに報道されるうちに、変化が生じます。日本におけるような、近松門左衛門以来の心中・・恋愛関係にある男女の自殺・・を美化する価値観のなかった朝鮮半島において、1926年に朝鮮の男女の心中が発生した時、これを日本語からの直輸入の「情死」と呼んで美化する動きが出たのが最初の変化です。しかし、この段階では日本での親子心中の報道に対しては、朝鮮半島の人々は拒否反応を示していました。
それが興味深いことに、独立後の韓国は、段階を経て「近代」日本的な親子心中が発生する社会へと変貌を遂げて行くのです。
まず、1960年代に、「集団自殺」が出現します。これは「集団自殺」が許容されるようになったことを意味します。
「集団自殺」とは、親子だけでなく、祖父母という直系親族や、オジ(伯父・叔父)やオバ(伯母・叔母)といった拡大家族、あるいは他人である近隣住民を巻き込むケースを含めた自殺のことです。
これは、大家族(かつての日本のような疑似大家族を含まない)や地域社会が崩壊し始めたことが背景にあると考えられます。
次に1970年代に入ると、「同伴自殺」が出現します。
「同伴自殺」とは、「集団自殺」から「他人である近隣住民を巻き込むケース」を除いた概念です。これは地域社会の崩壊が進み、同じ地域社会の他人の子供の面倒をみる、という発想がなくなったことが背景にあると考えられます。
その後、大家族の崩壊の進展につれて、次第に「同伴自殺」は「親子自殺」へと「純化」して行きます。
しかしこの段階でも、日韓の「親子自殺」には大きな違いがありました。
日本の「親子自殺」は「母子自殺」が6?7割を占めているのに対して、当時の韓国の「親子自殺」は「父子自殺」が中心だったことです。これは、核家族化した韓国においても、なお儒教規範の名残で、家庭内において、夫たる父親の権威が妻たる母親よりはるかに優位にあったことの反映でしょう。
それが、2000年代に入ってから、韓国でも「母子自殺」の割合が増える傾向が出てきているのです(注5)。
(以上、東京大学助教授岩本通弥氏の論考(http://www.jkcf.or.jp/pub/news/no33/8.pdf。7月6日アクセス)による。ただし、この論考の上記要約に誤りがあるとすれば、それは私の責任だ。)
(注5)念のため繰り返すが、日韓両国の「親子自殺」のユニークさは、それが社会的に・・「法的に」ではない・・許容されているところにある。もちろん欧米にも「親子自殺」は存在するのけれど、強い社会的非難を受けるため、数が少ないわけだ。
ちなみに、台湾では、「親子自殺」率が米国の三倍にのぼり、しかも「母子自殺」が「父子自殺」の二倍にのぼる。台湾の自殺率そのものについても、日韓に比べると低いが世界的には高い方だ。日本のかつての植民地であった台湾の人々もまた、日韓の人々に近似したメンタリティーの持ち主らしい(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2004/09/07/2003201939。2004年9月7日)。
ネット集団自殺は、逆に韓国で始まり、それほど時間を置かずに日本でも出現した自殺形態です。
すなわちネット集団自殺は、韓国では2000年に初めて発生しています(http://archives.cnn.com/2000/TECH/computing/12/19/internet.suicide.ap/。7月8日アクセス)が、日本では2003年が初めてです(http://www.guardian.co.uk/japan/story/0,7369,1336686,00.html(2004年10月28日アクセス)、及びhttp://www.guardian.co.uk/japan/story/0,7369,1325808,00.html(7月6日アクセス))。
これは、日韓の人々のメンタリティーが近似していることと、韓国のインターネットの普及が日本に若干先行したこと、が背景にあると考えられます(注6)。
(注6)台湾では2005年にネット集団自殺が初めて発生している(http://news.monstersandcritics.com/asiapacific/article_1028997.php/Taiwan_reports_latest_case_of_internet_suicide。7月6日アクセス)。なお、この典拠は、ネット集団自殺は日本で始まり、それが、韓国・中共・台湾に伝播した、としている。
いずれにせよ、ネット集団自殺は欧米にはまず見られないユニークな自殺形態です(http://www.nytimes.com/2004/10/18/international/asia/18japan.html?pagewanted=print&、position=、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/talking_point/3737072.stm(どちらも2004年10月18日アクセス)。なお、BBC上掲には、欧米の読者のコメントが多数寄せられている。)。
ウ 少子化
日本では少子化が進行しており、2004年の合計特殊出生率(出生率)は、史上最低記録を更新して1.2888になっています。
韓国も同様なのですが、その進行ぶりは日本以上であり、、2000年から03年にかけて、出生率が1.47から1.19(2002年は1.17)へと急激に低下し、この間に日本を抜き去っていますhttp://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1550.html(7月7日アクセス)。
2003年のデータで国際比較してみると、アジアでは、(香港:0.94、)韓国:1.19、台湾:1.24、(シンガポール:1.25、)日本:1.29、中共:1.8・・カンボティア:4.8、の順であり((http://www.nihonkaigaku.org/ham/eacoex/100econ/110step/111pop/trp/trp.html。7月7日アクセス)。ただし、中共、カンボディアは2002年(http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1560.html(7月7日アクセス))、韓台日がここではアジアの1?3位を争っていることが分かります。
ここからも、日韓(と台湾)の人々のメンタリティーがいかに近似しているかが推し量れます。
ちなみに、韓国の少子化が日本よりも急激に進行した原因として、塾代を含めた教育費の私的負担が世界一重いことが指摘されています(http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/1550.html上掲)。
(続く)