太田述正コラム#10331(2019.1.23)
<中華人民共和国憲法と軍(その2)>(2019.4.14公開)

3 人民解放軍の位置付け

 人民解放軍は、現憲法中、一個所だけに登場します。
 前文中の、下掲の箇所です。↓

 「・・・中国人民及び中国人民解放軍は、帝国主義と覇権主義の侵略、破壊及び武力挑発に打ち勝ち、国家の独立と安全を守り、国防を強化した。・・・」

 しかし、これは、歴史記述の中での登場であり、それ以上の意味はなさそうです。
 これを除き、軍に関わる規定自体は、下掲↓のように結構たくさん出てくる・・それぞれを「」に入れて見つけ易いようにしてあります・・けれど、人民解放軍は、他には登場しません。

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第3章 国家機構

第1節 全国人民代表大会・・・
 第59条:全国人民代表大会は省、自治区、直轄市、特別行政区、「軍隊」の選出する代表によって構成される。いずれの少数民族も、全て適当数の代表を持つべきである。・・・
 第62条:全国人民代表大会は、次の職権を行使する。・・・
 「中央軍事委員会」主席を選挙し、及び中央軍事委員会主席の指名に基づいて、中央軍事委員会のその他の構成員を選定すること。・・・
 「戦争と平和」の問題を決定すること。・・・
 第67条:全国人民代表大会常務委員会は、次の職権を行使する。・・・
 「軍人」及び外務職員の職級制度その他の特別の職級制度を規定すること。・・・
 全国人民代表大会閉会中の期間において、「国家が武力侵犯を受け、又は侵略に対する共同防衛」についての国際間の条約を履行しなければならない事態が生じた場合に、「戦争状態の宣言」を決定すること。
 「全国の総動員又は局部的動員」を決定すること。・・・
第2節 中華人民共和国主席・・・
 第80条:中華人民共和国主席は、全国人民代表大会の決定又は全国人民代表大会常務委員会の決定に基づいて、法律を公布し、国務院の総理、副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長及び秘書長を任免し、国家の勲章及び栄誉称号を授与し、特赦令を発布し、緊急事態への突入を宣布し、「戦争状態を宣言」し、並びに「動員令」を発布する。・・・
第3節 国務院・・・
 第89条:国務院は、次の職権を行使する。・・・
  10 「国防建設事業」を指導し、及び管理すること。・・・
第4節 「中央軍事委員会」
 第93条:「中央軍事委員会」は、全国の「武装力」を指導する。
 「中央軍事委員会」は、次に掲げる者によって構成される。
  主席
  副主席 若干名
  委員 若干名
 「中央軍事委員会」は、主席責任制を実施する。
 「中央軍事委員会」の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とする。
 第94条:「中央軍事委員会主席」は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。・・・

第4章 国旗、国歌、国徽、首都

 第136条:・・・
     中華人民共和国の国歌は、「義勇軍」行進曲である。・・・
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 上掲↑に登場する「軍隊」、「武装力」、「義勇軍」のうち、「義勇軍」は広義の歴史記述ということなのかもしれませんが、「軍隊」は人民解放軍のことを指しているとしか考えられません。
 しかし、「武装力」の方は、わざわざ「軍隊」とは異なる言葉を用いているのですから、人民解放軍以外の武装力、或いは、人民解放軍を含む武装力、を指しているのでしょうが、そのどちらであるかは、憲法だけでは・・恐らくは法律を含めても・・分からないけれど、「「中国共産党中央軍事委員会」の構成員がそのまま「中華人民共和国中央軍事委員会」の構成員として選ばれるため、選出の時期によって多少のズレは存在するものの、基本的には両中央軍事委員会の構成員は同一である」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
こと、と、この「中国共産党中央軍事委員会は、中国人民解放軍および中国人民武装警察部隊、中国民兵を指導する」(上掲)こと、から、武装力=人民解放軍を含む武装力、であって、具体的には、武装力=人民解放軍+人民武装警察部隊+民兵、であるということになります。
 このように、憲法の軍に関わる諸規定を解釈することが、党の内規を参照しなければ不可能であること、かつまた、憲法(や恐らくは法律)では、軍に関わる周辺的な事柄ばかりが規定されていて、軍そのものについては規定していないこと、から、人民解放軍は、憲法外・・令外官!・・的存在であって、他方で、それが党に所属していることが、党中央軍事委員会に係る内規から明らかであることから、党の軍隊・・私の言う幕府の軍隊・・である、と言って間違いはなさそうです。

(蛇足的参考)

 最初の方で書き忘れたが、下掲↓から、中共が形式的な意味での憲法を持っていることは明らかだ。
 憲法第64条:この憲法の改正は、全国人民代表大会常務委員会又は5分の1以上全国人民代表大会代表がこれを提議し、かつ、全国人民代表大会が全代表の3分の2以上の賛成によって、これを採択する。
 法律その他の議案は、全国人民代表大会が全代表の過半数の賛成によって、これを採択する。

(完)