太田述正コラム#10457(2019.3.27)
<八幡市市民講座・福岡オフ会での質疑応答(その4)>(2019.6.14公開)
ところで、帝国陸軍の俊秀達がいかにスゴかったかは、日米交渉に片手間で携わっていただけの岩畔にハル国務長官がぞっこん惚れ込み、自分の部下には岩畔みたいに優秀な奴はいない、部下にしたいくらいだ、と言ったことからも分かる。
当時も今も、米国なんて、官僚の日本で言うところの指定職クラス以上は、大統領が代わると政治的任命で、殆ど全員、入れ替えられるところ、もとより、超優秀な人物が充てられる場合もあるものの、多くは、大統領との個人的な関係で必ずしも超優秀でない人物が就任するし、彼らの部下のその他大勢の連邦公務員達に至っては、給料が安く、(しかも、上の方の職位は政治任命者が殆ど独占していると来れば、)俊秀が就職するワケがないのであり、この点でも日本等とは事情が異なる。
そもそも、大統領にトランプのような、飛び切り優秀とは到底思えない人物が、直接選挙制なるが故に就任するようなことが起きるのだから・・。
(なお、日本でも、最近、歴代首相にとびきり優秀とは到底思えない諸人物が就いているところ、それが極めて特殊な理由によるものであることはご承知の通りだ。)
こういう次第で、米国は、杉山らにいとも簡単に騙され、物の見事に利用されてしまい、いまだにそのことに気付いてすらいない、というわけだ。
e:斉彬のような人物が、幕末に現れたことは奇跡だったと言っていいのか。
O:俊秀を集めた帝国陸軍とは違って、世襲だった江戸時代の殿様達はピンからキリまで玉石混交だったというのに、重豪と斉彬というあり得ない絶妙ピン・コンビが薩摩藩に出現したわけだから、確かに奇跡だったと言えるのではないか。
a:中共建国後、毛沢東が随分たくさんの人々を死に至らしめてしまったが・・。
O:建国時には、既に毛沢東は神格化されており、彼の言うことならみんなが無条件で従うようになっていたことが、累次の悲劇をもたらした。
大躍進というのは、毛沢東が、飛躍的な生産力向上(1958~61年)を、マルクス・レーニン主義方式を借りて行おうとしたものだが、大失敗に終わり、それに対して、(1966年から10年間にわたって続いた)文化大革命は、私見では、(1963年に毛が始めた雷鋒同志に学ぼう運動の延長線上において、)人間改造・・人民の人間主義者化・・の一挙実現を目指したものだ。(注)
(注)「1966年6月1日に『人民日報』は「横掃一切牛鬼蛇神」(一切の牛鬼蛇神を撲滅せよ)という社説を発表し<、>この社説の中で「人民を毒する旧思想・旧文化・旧風俗・旧習慣を徹底的に除かねばならない」(これを「破四旧」と呼ぶ)と主張した」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E5%8C%96%E5%A4%A7%E9%9D%A9%E5%91%BD
が、これはまさに、支那に依然蔓延する、非人間主義と非人間主義者、への攻撃、排除、を促したものであり、これこそが文化大革命における毛の核心的意図であった、と、私は見るに至っている。
問題は、文化大革命で、攻撃、排除対象となった共産党幹部達は確かに非人間主義者達ではあったけれど、彼らを攻撃、排除した人民の側だって、非人間主義者ばかりだったことだ。
そんなことで、人間改造などできやしない。
だから、文化大革命は失敗すべくして失敗した、と言うべきだろう。
(その後、鄧小平は、生産力向上も人間改造も、日本文明総体継受によって行うことを毛に提案し、それを毛が認めたからこそ、毛は鄧を復権させた、と、私は見ている。
これを受け、)鄧は、まず、日本型経済体制継受による生産力向上から着手することとした、と。
そして、習は、日本を絶賛し、人民に対し、その日本を実際に自分の眼で見て来るように促すキャンペーン始め、改めて、(実見聞のショックによる)人民の人間改造を目指しているわけだ。
a:(毛が批判した)儒教が復権したのは?
O:そして、孔子学院を世界中の大学に作った。
(これは、胡錦濤が始めたこと
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%94%E5%AD%90%E5%AD%A6%E9%99%A2
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%A1%E9%8C%A6%E6%BF%A4
だが、)儒教とは言っても、(少なくとも)習近平の念頭にあるのは、陽明学だけだ。
a:太田さんは、この会で5年前に初めて会った時よりも、大病後だというのに、ずっと元気そうだ。(他の出席者達も一様に頷く。)
b:自分はIT関係の仕事をしているが、太田さんがアマゾン・エコーを買ったので注目している。
O:合わせ買いをすれば、3000円ナンボと、とにかく安いので、買ってみることをお薦めする。
ところで、ごく最近のことなのだが、私はかなり不愉快な気分になっている。
というのも、杉山らが、様々な蛮行を指示したことが否定できなくなったからだ。
柳川に南京事件を起こさせたり、その前には、支那に送り込まれた新兵に「捕虜」刺殺「訓練」をやらせたり、731部隊に生体解剖をやらせたり、シンガポールで華僑虐殺事件を起こさせたり・・。
a:しかし、例えば、刺殺「訓練」については、縄文人的新兵達を弥生人に仕立て上げるのに有効だった、と太田さんは指摘していたのではなかったか。
O:その通り。
全て、二重三重の目的があったことが恐ろしいのだ。
(強姦・略奪お構いなし、を餌にすれば、部隊は勇み立って南京に向けて突進していくので南京を早く陥落させられるし、)生体解剖等といった、平時ならやりたくてもできない研究を医師達に行わせれば、医学は大いに進むからだ。
(現に、それでもって、東大で博士号を取得した731部隊隊員たる医官がいた。(コラム#10408))
(一応完)