太田述正コラム#10471(2019.4.3)
<2019.3.30東京オフ会次第(続)(その1)>(2019.6.21公開)

1 杉山構想について

 人間主義についてそうだったように、杉山構想について、これまで、まとまった形で定義したことがないのを思い出したので、東京オフ会等での私の関連諸発言を繋ぎ合わせることで、定義めいたものをひねり出しておくことにしました。

             –杉山構想–

I  島津斉彬コンセンサスの前倒し実現のため、杉山元の帝国陸軍在籍中に、以下を実現する。

 一、英国の在アジア植民地等統治のハード・ソフト・インフラに政治・軍事的痛撃を加え、その衝撃でもって、欧米列強のアジア植民地等を解放する目途をつけることで、これら諸国の、独立、更には将来における復興、の基盤を構築する。
 (それには、その前段たる、ブロック経済の打破を含む。)

 二、対ソ(露)抑止に米国を引きずり込むことで、抑止を万全なものにすることによって、将来においてソ連(ロシア)の脅威を解消する(=横井小楠コンセンサスの目的)ための基盤を構築する。

II  そのための狭義、広義の手段として、以下を実施する。 

 一、対英米戦争を決行する。
 (このことは、対ソのみ戦争(いわゆる北進論)や対英のみ戦争はあえて行わないことを意味する。)
 なお、この戦争開戦前から開戦後しばらくにかけての間、「Iの一」の目的達成の目途がつくまでの間、ソ連を対日参戦させないために予防戦争を行ってソ連を叩き、「Iの一」の目的達成の目途がついた後に、一転、ソ連を対日参戦へと誘導する。
 支那に関しては、通ソ・腐敗の中国国民党政権を打倒し、中国共産党(毛沢東派)政権に承継させるべく、中国共産党と提携しつつ、国民党政権に戦争を仕掛けることとすると共に、同政権を生かさず殺さずの状態にとどめ続けることで、英米に国民党政権支援及びその継続を余儀なくさせ、そのことを通じ、対日戦争が不可避であるとの観念を、英米・・それぞれの国民では必ずしもない・・に、抱かせ、日本に対する非難や経済制裁を強い、それによって、日本国民を対英米戦へと誘導する。
 その上で、最終的に、米軍に日本の本州以南を占領させると共に、ソ連には北海道以北を占領(割譲)させることにより、米ソを準接壌状態にし、米国を覚醒させ、親ソから反ソへと回心させる。

 二、軍事力の整備・維持は、海軍力も含め、Iの実施のために特化したところの、必要最小限のものにとどめる。
 それだけに、対英米開戦前に英国がアジアにおける軍事力を基本的に増強させないことが不可欠であることから、ドイツ等、欧州勢力と同盟関係を取り結び、それによって、英国をして、そのアジア以外における軍事力の大部分を本国防衛のために控置することを余儀なくさせる。

 三、日本を取り巻く国際情勢の緊迫化、そしてそれに引き続く、支那における日本軍がからむ形での戦争状態の継続、等に藉口して、(江戸時代の政治経済体制を産業社会に適合的な形に再構成したところの、)日本型政治経済体制の構築について、経済体制、社会体制、政治体制の順に着手し、概成させ、人口増政策とも相俟って、終戦後の日本の経済高度成長の基盤を構築することによって、予想される日本の大きな戦争被害を「過剰」補償すると共に、戦後日本をアジアの旧植民地等諸国の復興のモデルたらしめる。

 四、この杉山構想は、原則として、帝国陸軍の上層部の一部だけに開示することとし、終戦後においても、同構想の存在を秘匿すべく、あらかじめ若干の公私資料を「偽造」しておくと共に、終戦時に、他省庁も巻き込み、(「偽造」公的資料以外の)あらゆる政府資料を破棄する。
 また、中国共産党との提携については、完全に秘匿するため、以上に加えて、対中国国民党政権との戦争の過程で、支那人民に反日意識を植え付けると共に、来るべき中国共産党政権に対日非難の材料を提供する、という目的を併せ持ったところの、(麻薬栽培・販売促進、「捕虜」刺殺訓練実施、南京事件生起、731部隊による生体実験実施、シンガポール華僑大量殺害、等の)非道にして残虐な諸行為を、帝国陸軍の諸部隊に行わせる。
 (日中提携を完全に秘匿しないと、黄禍論が復活し、欧米勢力とソ連(ロシア)が結束して、日中潰しに乗り出す恐れがある。)

(続く)