太田述正コラム#10594(2019.6.3)
<日進月歩の人間科学(続x40)>(2019.8.22公開)
1 始めに
英国のLSEのポール・ドラン(Paul Dolan。1968年~)教授(行動科学)の新著、’Happy Ever After–Escaping the myth of the perfect life’
https://pauldolan.co.uk/
について、ガーディアンが、2本の記事を載せており、少子化問題や日本文明について更に考察する手がかりになりそうなので、久しぶりに表記シリーズにおいて取り上げることにしました。
なお、彼は、スワンシー大(Swansea University)卒、ヨーク大修士・博士、であり、時間が惜しいので小説を読んだことがないのだそうです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Dolan_(academic)
2 女性は結婚せず子供もいない方が幸せ
「・・・ドラン教授は<こう語った。>・・・
「もしあなたが男性だったら結婚にはメリットがありそうだが、女性だったらそうでもない。」・・・
男が結婚するメリットがあるのは、「落ち着くからだ」、と彼は述べた。
「男は危険を余り冒さないようになり、仕事でもっとカネを稼ぐようになり、寿命も少々延びる。
ところが、女性は、結婚生活に耐えなければならず、しかも、結婚しなかった場合よりも早く死ぬのだ。
<だから、>社会の中で最も健康で幸せな集団は、結婚したことがなく、子供もいない女性達なのだ。」・・・
ただし、とドランは付け加える。・・・
「・・・<そんな場合、>女性達は、独身で子供なしというライフスタイルのメリットを享受するにもかかわらず、定番の物語(narrative)が、結婚と子供達が成功の徴である、といったものであることから、この<徴を持っていないという>「汚点」によって、若干の独身女性達は不幸せへと導かれ得るけどね・・」、と。・・・」
https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2019/may/25/women-happier-without-children-or-a-spouse-happiness-expert
これに対し、子供の頃に、米国人の父親と英国人の母親が離婚したところの、女性イギリス人コラムニストのスザンヌ・ムーア(Suzanne Moore。1958年~)・・ミドルセックス工芸学校(Middlesex Polytechnic。現在のミドルセックス大)卒で何かと物議を醸してきたジャーナリスト・・
https://en.wikipedia.org/wiki/Suzanne_Moore
がコメントをしています。
「・・・<そもそも、>自己申告された幸せ感なんて信用できないわ。・・・
<また、>仏教徒なら誰でも言う・・・ことだけど、幸せって、目的じゃなく副産物でしょ。・・・
<なお、>こんなハナシ、調査研究するまでもないんじゃない?
事実上、女性達がストに訴えてる場所が何か所もあるわよ。
若い女性達が亭主の奴隷になりたくない、と、何代にもわたって、結婚もせず子供も持たないようになり、その結果、イタリアや日本ではとっても低い出生率になっているわよね・・・」、と。
https://www.theguardian.com/commentisfree/2019/may/27/marriage-children-women-happy-science-markers-success-paul-dolan
3 私の所感
ドランが、幸福の指標として平均寿命に着目しているのは我が意を得たりです。
で、ドランらの研究結果を信用するとして、社会が近代化して、結婚も子作りも両性の同意のみによって可能とされるに至ると、幸せを追求する、合理的な女性ならば、直感的に、結婚も子作りも忌避するものであることから、その社会は、少子化へ、そして、消滅へ、と向かうのは必至である、ということになりそうですね。
そうだとすると、人類の滅亡を防止するため、一日も早い、人工子宮の開発、優生的に問題のない卵子と精子の調達・保管方法/ルールの考案、子育てシステムの公私最適ミックス/バランスの制度の考案、等が喫緊の課題である、ということに・・。
ところで、ムーアの、イギリス人のホンネ剥き出しの、欧州や日本に対する野蛮視・・女性差別社会視・・に基づく「イタリア」と「日本」を一括りにした「低い出生率」の指摘ですが、この種の指摘は、イタリア(や韓国)にはあてはまっても、男性差別社会である日本にはストレートにはあてはまりません。
日本の女性の場合は、その多くが、「搾取」できる男性結婚相手が見つかるまでは父親の男性を「搾取」し続け、相手が見つからなかった場合はもちろんですが、相手が見つかって結婚した場合であっても子供は作らず、自分の負担を回避すると共に、できるだけ結婚相手に形成させた財産が目減りしないようにし、通常、自分よりも早く死ぬことになる結婚相手が死去した後は相手の遺産と寡婦年金で悠々自適の余生を送る、という幸福度極大化ライフスタイルを享受しているところ、男性差別社会であるが故に、男性達の大部分は、このような奴隷的境遇に唯々諾々と甘んじざるをえない、ということです。