太田述正コラム#979(2005.12.1)
<差別・ホロコースト問題をめぐる残された論点>
1 初めに
差別・ホロコースト問題をめぐって、一部の読者によるエキサイトした投稿がまだ続いています。
おかげさまで先週の週間ブログ・アクセス数は957名、と新記録を達成し、昨日は約23時間半にわたってブログへの新コラムのアップロードを行わなかった(行い得なかった)にもかかわらず、アクセス数は100名を超えています。
しかし、最近アクセスが多いのは、差別・ホロコースト問題を取り扱ったコラムではなく、フィリピンについてのコラムであること等から判断するに、読者の大部分は新しい話題を求めているように思われます。
しかし、余りにHPの掲示板への差別・ホロコースト問題に係る読者の投稿が多いため、その対応に時間をとられ、コラム執筆の時間がとれなくなってきています。
しかも、その読者の投稿の大部分は、典拠をつけない印象論を一方的に展開していること、論点の集約を図る努力を怠っていること等のため、対応させていただいている私の投下時間に見合った成果が生まれていません。(そうではない、きちんと成果を生み出した最近の模範例として、コラム#925とコラム#971をめぐる、(両コラムとも同じ)読者と私との掲示板上のやりとりをご参照下さい。)
そこで、この際、私が考えるところの残された三つの主要論点を提示させていただき、その主要論点に係るコラムのうち少なくとも一篇を、上記読者(複数)が執筆され、私宛送付されるまでの間、差別・ホロコースト問題の議論を凍結したいと思います。
2 差別問題について
差別問題についての残された論点は、「英国の少数民族差別はフランスと比較してどうなのか」です。
これをブレークダウンすると、「英国のアングロサクソンの少数民族差別意識はフランスよりひどいのか」、「これまでの英国における少数民族暴動がフランスより頻度も規模も小さかったのはなぜか」、「今後とも少数民族を低熟練・高リスクの職等に受け入れて行くことが英国人の多数意見であるのはなぜか」の三つくらいになります。
ぜひこの論点について、差別問題の議論を続けてこられた読者に、(例外的に匿名でもいいので(以下同じ))コラムを書いていただきたい。ただし、典拠を踏まえるべきことは当然です。(ただし、ご自分の体験を典拠としたい場合は、本名と肩書きをつけてコラムを書いていただく必要があります。)(やはり以下同じ。)
蛇足かもしれませんが、私自身、英国に他民族差別がないなどと主張しているわけではないことは、コラム#968の末尾で「英国の植民地統治も日本の植民地統治には及ばず、餓死や虐殺を伴うものであったこと、しかも、計算の仕方によっては1000年にわたって統治したアイルランドを英国はついに統合することに失敗したこと、かつまた故会田雄次をして、著書「アーロン収容所」で英国人の黄色人種差別を糾弾させたこと、はどうしてなのでしょうか。」と記したこと、また、コラム#356で「ビクトリア時代のイギリス人はおしなべて、「イギリス人は働き者で信頼が置けるがアイルランド人は怠け者で裏切り者、そしてイギリス人は大人で男性的だがアイルランド人は子供っぽくて女性的」である、と考えており、「女性的で子供っぽいのだから、アイルランド人は自治などできない」と結論づけていた」と記したこと等から、よくお分かりのはずです。
3 ホロコースト問題について
(1)ユダヤ人収容目的
私がコラム#977で申し上げたことの趣旨は、「1942年以降のナチスドイツによるユダヤ人収容目的について、ホロコースト否定論者が、(労働に耐え得ない者を除き)強制労働力として用いることだった、と主張をしている、などという話は、私が参照した二つのホロコースト否定論論駁サイトには出てこない」ということです。
それに対し依然、1942年以降のユダヤ人収容目的が強制労働力として用いることだったと主張されている読者がおられます。
そこで、このカギ括弧内の命題の誤りを証明するコラムを書いていただきたい。
なお、私の参照した二つのホロコースト否定論論駁サイトは、論駁サイト中の例外的存在であることを証明することで、私の論拠を弱めることは可能です。上記コラム内でぜひやってごらんになったらいかがか。
以下は付け足しです。
1942年まではユダヤ人収容目的が強制労働力として用いることであったことは私自身が指摘していることですし、1942年以降もアウシュビッツではユダヤ人が強制労働に従事させられたことも私は否定していません。ただし、後者は、殺戮計画を円滑に実施するためであり、強制労働力として用いることが目的ではなかった、と指摘したところです。
(2)ユダヤ人殺戮数
固いところで、510万人から590万人のユダヤ人がナチスドイツによって虐殺された、という数字は大きすぎる、と主張されている読者がおられますが、そのご主張には典拠が全く示されていません。
このご主張について、コラム執筆を求めることは、ご本人がフランス在住であるとおっしゃっていることから、しのびないものがあります。ぜひ、反ホロコースト否定法のない国または地域に在住のご友人にコラム執筆を依頼してください。(ただし、援用される典拠一つ一つについて、いかなる理由で信頼性のあるものと受けとめられたかについての説明が、このコラムについては必要です。)
さもないと、上記ご主張が、私や他の読者からの批判に晒されることなく、私のHPの掲示板上に残り続けることになってしまい、ご主張をうのみにする読者が出てくることが懸念されるからです。