太田述正コラム#1094(2006.2.25)
<荒川さんの金メダル(その1)>
1 始めに
荒川静香さんが、トリノ(Turin)冬季五輪の女子フィギュア・スケートで金メダルをとったわけですが、各国の報道ぶりを、もともなものとまともでないものとに大きく分けてご紹介しましょう。
2 まともな報道
(1)ガーディアン
ガーディアンはかなり大きな扱いで、荒川さんがショートプログラム上位三人中ただ一人ころばなかったこと、ノーミスであったこと、イナバウアー(gliding lean-back move)が特に素晴らしかったこと、を指摘しています(http://sport.guardian.co.uk/turin2006/story/0,,1716859,00.html。2月25日アクセス)。
英国の選手がからんでいないということもあるのでしょうが、いつものガーディアンらしい、良い記事でした。
(2)ワシントンポスト
ワシントンポストは電子版で一面でとりあげているものの、米国のコーエンが銀メダルに終わったことを報じた中で荒川の金に触れただけであり、冬季五輪のTV視聴率の低さ、米国陣の不振や不協和音がコーエンが金をとることで挽回できると期待されたがそうはいかなかったと指摘しています(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/02/23/AR2006022301333.html。2月24日アクセス)。
いつものワシントンポストらしからぬ米国中心主義丸出しの記事でしたが、これはこれで理解はできます。
(3)ニューヨークタイムス
これに対しニューヨークタイムスは、女子フィギュアを電子版の一面で大きく取り上げ、荒川さんを中心に報じています。
「荒川は美しく演じた。スピンやスパイラルを何の苦もなくやってのけた印象を与え、高い芸術点を得た。大きなミスを犯さなかった。・・彼女はかすかに光る薄い青の衣装で、プッチーニのバイオリン幻想曲を滑らかに演じた」と。
(以上、http://www.nytimes.com/2006/02/23/sports/olympics/24cnd-skate.html?ei=5094&en=15460351c9426554&hp=&ex=1140757200&partner=homepage&pagewanted=print(2月24日アクセス)による。
ニューヨークタイムスの電子版は、何とその翌日も本件を一面で取り上げました。
まず冒頭で、「オリンピックにおける最大の名誉は、一番重荷を感じなかったフィギュアスケート選手に与えられた。米国のサーシャ・コーエンは、自分の内なる鬼(demons)に負けてしまい、最初のジャンプで倒れてしまい、結局立ち直れずに銀メダルを持ち帰ることになった。ロシアのイリーナ・スルツカヤは、尻餅をついてしまってせっかくの機会を台無しにし、ロッカーに銅メダルを投げ捨てた。日本の荒川静香だけがじたばたしなかった。自国にとっての初メダルを期待されていたが、金メダルをこの二人から、易々とかっさらってしまった。荒川は、プッチーニの「トゥーランドットのバイオリン幻想曲」に乗って、素晴らしいスパイラルを沢山含むエレガントな演技を行ったが、それは決してオリンピックがしばしば生み出す傑出した金メダルではなかった。だから今回の勝負は、金メダルを取りに行った者が取りに行かなかった者に敗れた、というものとして歴史に残ることになろう」と記した上で、敗れた二人の人間ドラマを詳述する、という構成の記事です(http://www.nytimes.com/2006/02/24/sports/olympics/24skate.html?pagewanted=print。2月25日アクセス)。
(4)ロサンゼルスタイムス
ロサンゼルスタイムスは、やはり荒川さんを中心にかなり詳細に報じています。
荒川は、2004年の世界選手権で優勝して一旦は引退を考えたが、しなくて良かった、プッチーニのツーランドットで見事に演じた、伊藤みどりの銀に次いで日本人で二番目の女子フィギュアでのメダルを獲得した、ミントグリーンと青のぴったりの衣装で上手なスピンを含む演技で観衆のスタンディングオベーションを受けた、日本人ファンから日章旗が多数振られた、と(http://www.latimes.com/sports/olympics/la-sp-olyfigs24feb24,1,522250.story?coll=la-olympics-center。2月24日アクセス)。
(5)その他
地元のイタリアについては、スポーツ紙「ガゼッタ・デロ・スポルト」は、1面で「パラベラの氷が新たな女神を生んだ。日本語を話す東洋の女神だ・・タンチョウのようにエレガント。調和があると同時に正確。青とロイヤルブルーの優美で控えめな衣装は彼女の性格に合っていた」と書き、ミラノ拠点の有力紙「コリエーレ・デラ・セラ」は、「日本の小さなロボットたち。村主章枝と荒川静香。荒川はコンピューターのような正確さで金」と書き、トリノ拠点の有力紙「ラ・スタンパ」は、「日本人の荒川優勝」との見出しで1面トップの扱いでした(http://www.yomiuri.co.jp/torino/news/20060224i514.htm?from=main5。2月24日アクセス)。
3 まともでない報道
(1)始めに
ところが、日本の周辺諸国については、台湾・中共・韓国の新聞のいずれも、首をかしげざるをえない報道ぶりです。何かが狂っています。
(続く)