太田述正コラム#1111(2006.3.7)
<ブッシュ三題噺(その5)>
(5)英国はどう見ている?
英国民は、米国でのこのドタバタ劇にほとんど関心を示していません。
そもそもP&Oは英国の企業であるわけですが、その会社がドバイの会社であるDPWによって買収されたことが何の話題にもなっていないお国柄なのですから・・。
これに対し、ガーディアン紙上でコラムニストのハットン(Will Hutton)が苦言を呈しています。
ハットンは、企業の合併や買収の結果は思わしくないことが多いとし、それは、二つの企業の企業文化・・社員が共有するプライド、夢、仕事観・紐帯等々・・が違い、その違いが一方が外国の企業である場合は非常に大きいため、期待したほどの財務的利得やシナジー効果が得られないからだ、というのです。
そして最近の、P&Oの買収やピルキングトン(Pilkington 。板ガラス製造会社。日本板硝子による買収決定(http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nb20060228a2.html。3月7日アクセス)、更に、英国空港管理局(British Airports Authority)のスペイン当局による買収話、ロンドン証券取引所(London Stock Exchange)の買収話、100年以上にわたってアジアで金融ネットワークを形成してきたスタンダード・チャータード銀行(Standard Chartered Bank)の米国の銀行による買収話、1300万家庭に都市ガスを供給しているセントリカ(Centrica)へのロシアの国営ガス会社のガズプロム(Gazprom)のアプローチ、産業用ガスの最大手の製造会社であるBOCへのドイツの化学企業のアプローチに言及し、英国民は、それがあたかも成熟の証であるかのように、これらの買収にほとんど関心を示そうとしないが、これらの英国企業はいずれも長い伝統を有するだけに惜しまれてならない、と嘆いています。
更にハットンは、英国の企業だって外国の企業の買収を行っているのは確かだが、英国ほど外国の企業による国内企業の買収が自由な国は世界でないのであって、米・独・仏・伊・スペイン等の国民は、いずれも、外国企業によって自国企業が買収されることにもっと警戒心を持っている、と指摘しています。
その上でハットンは、英国も、そして米国も国内企業が国際競争力のある製品を生み出す力が不足しており、構造的な貿易赤字が続いているため、外国企業による国内企業の買収を含め、外国からの直接投資を受け入れざるをえない面がある、と弱音を吐いています。
いずれにせよ、ハットンは、英国では孤立無援のようです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,1708143,00.html(2月12日アクセス)、及びhttp://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,1723587,00.html)(3月6日アクセス)による。)
英国は進みすぎている(?)としても、ハットンが引き合いに出した米国やEUの主要国の外国の直接投資に対する開放度と受け入れ実績に比べても、わが日本はまだ鎖国を続けているに等しい、という感を深くします。
ひょっとしたら日本に、その港湾管理や空港管理が外国の企業に開放されるような時代は未来永劫やってこないのではないでしょうか。
3 カトリーナ来襲前夜のブッシュの「失態」
(1)FEMA前長官の反撃
(続く)