太田述正コラム#1118(2006.3.11)
<無惨なるかな日本(その1)>
1 目も当てられない外務・経産両省
中共の李肇星外相が小泉首相の靖国神社参拝を「愚かで不道徳なことだ」と表現した問題で、8日に谷内正太郎外務次官が同国の王毅・駐日大使を外務省に招致して抗議しようとしたところ、同大使が招致に応じず、結局谷内次官が電話で王大使に抗議してお茶を濁したというニュースを聞いて、外務省の弱腰にあきれていたところ、翌9日、同次官が都内で非公式に王大使と会い、会談したと聞いて、開いた口が塞がりませんでした(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20060311AT3S1002F10032006.html、http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060310ia21.htm。3月11日アクセス)。
確かに日中間には石油ガス田問題(後述)もあり、外務次官と中共の大使が会談することはあってもいいのですが、よりにもよって、抗議らしい抗議もさせてもらえなかった翌日に、どうして外務省以外の場所で、「非公式」に、しかも抗議ではなくて「会談」を行わなければならなかったのでしょうか。
これでは、中共の大使は、日本の外務省による抗議目的の招致要請を拒否できるという先例をつくってやったに等しいではありませんか。
また、6、7日両日に北京で開かれた東シナ海での石油ガス田問題での日中局長級交渉の場で、中共側から共同開発提案があったところ、「一つは・・日中中間線の日本側で、日韓大陸棚協定に基づく日韓共同開発区域内」であり、「もう一つは尖閣諸島の北で領海(同島から12カイリ)すれすれの日本の排他的経済水域(EEZ)内だった」というのに、「外務省の佐々江賢一郎アジア大洋州局長ら日本側交渉団は、すぐには首相官邸に詳細を報告せず、中国側が提示した対象海域についても公表しないように求めた」(http://www.sankei.co.jp/news/morning/11iti001.htm。3月11日アクセス)ことを知って、またもや愕然としました。
そもそも、本件の所管官庁である経産省は、帝国石油に試掘権を与えただけで、いつまでたっても実際に試掘に踏み切る気配がありません(http://www.asahi.com/politics/update/0309/012.html。3月11日アクセス)。
こんなに日本側が弱腰なのは、経産省が、外務省に輪をかけたような経済至上主義的な中共寄りのスタンスをとっていること(注1)を考えれば必ずしも不思議ではありませんが、ひょっとして外務・経産両省とも、日本側の主張に自信がないのかもしれません(注2)。
(注1)コラム#721は、「宙に浮いてしまった依頼原稿」を流用したと当時記したが、実は、経産省の外郭団体である(財)貿易研修センターより、同センターの電子機関誌用に、テーマはご自由にということで執筆依頼があり、執筆したところ、テーマが不適切だ(中共を刺激する?)とボツになったものだ。これに代わって執筆して同誌に掲載されたのがコラム#741なのだが、これにも軍事礼讃だとしてクレームがつきかけたのを、私がそのまま押し切ったという経緯がある。
(注2)東シナ海での(資源開発などの権利が認められる)EEZに関し、日本は両国の海岸線から等距離地点を結んだ「中間線」を境界線と主張しているのに対し、中共は支那の大陸棚が続く「沖縄トラフ」までが自国のEEZと主張している(産経上掲)。 しかし、領土問題とは異なり、本件については、海洋法条約に基づき、2009年9月までに国連が両国の仲裁を行うことになっている(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4789072.stm。3月10日アクセス)。
それならそうと、政府は国民に対し、その旨をきちんと説明すべきですし、そうではなくて本当に日本側の主張の方に理があると思っているのであれば、まず海洋掘削装置などの安全を守る法を整備し(産経上掲)、海上保安庁や自衛隊による警備・対処要領を策定した上で、可及的速やかに試掘を開始し、中共側に対抗すべきでしょう。
(続く)