太田述正コラム#11282006.3.16

<無惨なるかな日本(その7)>

 在日米軍再編に係る日本側経費負担総額は3兆円とも言われています(http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060312AT3S1100P11032006.html。3月12日アクセス)が、米側は、海兵隊のグアム移転経費は100億ドル(1兆1,800億円)で、その75%(施設整備費全額?)を日本側に負担するよう要求しているようですから、これだけで日本側は、9,000億円弱の負担、ということになります。気前の良いことに、外務・防衛両省庁は、「こちらからお願いしてグアムに移転してもらうんだ。日本国内に基地を移す場合は日本がカネを出すんだから、グアムだからといって出さない理由はない」という考えのようです。(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20060316k0000m010116000c.html。3月16日アクセス)

 しかし、国内での移転ならば、日本側の要請で行われた場合は、地位協定上、日本側が施設整備費全額を負担することになっているところ、これは整備された施設が、仮に米軍が撤退しても日本に残るからこそ、このような取り決めになっているのであって、グアム移転の場合は、整備された施設が米国のものになってしまうので極めて問題です。こんなことをやれば、(「思いやり」予算で名実ともに米国の保護国に転落した)日本が、ついに名実ともに米国の植民地にまで成り下がってしまったと諸外国から受け止められるでしょう。その上前述したように、このグアム移転は、米側の都合で行われる疑いが濃厚なのですから、何をかいわんやです。

ですからグアム移転には、びた一文も日本政府はカネを出すべきではありません。日本国民は米側のずうずうしい要求に対し、もっと怒るべきだし、こういう話しに反対を唱えない民主党であれば、解党した方がよろしい。

 米空母艦載機部隊(57機・1,600人)の厚木から岩国への移転も問題です。

 3月12日に岩国市で実施された、艦載機部隊受け入れの是非を問う住民投票の結果は、投票率58%で、9割近い反対票が投じられました。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4798086.stm。3月13日アクセス)

 このような案件が住民投票になじむのか、という思いはするものの、私自身、こんな移転はナンセンスだと思います。

 というのは、空母艦載機部隊は、空母と一体となって運用されることから、平素から艦艇要員と航空要員が交流を深めることが望ましく、そのためには空母の母港と艦載機部隊の母基地は近い方が良いに決まっているからです。それに、艦載機部隊は、空母が出港してからは、空母の指揮下に入るのですから、空母の司令部要員が、入港期間中、実戦部隊たる艦載機部隊の隊員達と接することができた方が良いに決まっている(注10)からでもあります。

 (注10)空母のような末端部隊の中ともなれば、いくらネットワーク・セントリックな運用が今後米軍でなされるようになったとしても、フェース・トゥー・フェース・コンタクトの重要性がなくなることはあるまい。

今現在は、空母は横須賀、艦載機部隊は厚木、と両者は目と鼻の先にありますが、艦載機部隊が岩国に移転してしまえば700kmも離れてしまい、艦艇・航空要員の相互交流も、司令部要員と航空要員の接触も極めて困難になってしまいます。

もう一つ、空母が出港すると、東京湾を出てから太平洋上で、(母基地から飛び立った)艦載機部隊の航空機が空母に着艦し収容されるのですが、700kmも離れていると、とりわけ空母が北上する場合、艦載機にはプロペラ機もあるだけに、全機着艦完了までに時間がかかりすぎる上、航空燃料を空費することになってしまう、という問題もあります(注11)。

(注11)米軍は現在、もっぱらインド洋や中東方面に目が向いているのだろうが、ロシアがらみの緊急事態が起きることだって、ありうる。その場合には、空母は北上しなければならない。

 確かに、厚木は人口密集地のど真ん中であり、騒音をまき散らすNLPの実施がほとんどできないだけでなく、航空機事故が起こったら大変なことになるので、米空母艦載機部隊をより適地へ移転させることは必要ですが、そのためにも、私の持論である、空母母港ともどもの移転を図る必要があるのです。

 ですから、そもそも米空母・・次期米空母は原子力空母・・の母港を呉に移転できないのであれば、艦載機部隊もまた、岩国に移転すべきではないのです。

(続く)