太田述正コラム#11292006.3.17

<無惨なるかな日本(その8)>

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<補足>

「陸海空軍ともに一律に大なたを振るわれた中で、海兵隊だけはほぼ無傷で残った」(コラム#1127)について:

 陸軍だけを見ても、冷戦終焉後、あれだけ師団の数や兵員数を減らしたにもかかわらず、陸海空軍の予算のシェアはとんど変化していません。

 米2005会計年度(200410月?2005年9月)予算では、陸軍32%、海軍(海兵隊を含む)34%、空軍34%ですが、クリントン政権が手がけた最初の予算である1994会計年度予算では、陸軍30%、海軍36%、空軍34%であり、それを、冷戦の終焉を挟んで更に10年遡った1984会計年度予算では、陸軍29%、海軍35%、空軍36%でした(http://slate.msn.com/id/2108400/20041020日アクセス)。

この点からも、この間、米国の防衛構想に大きな変化がなかったことがうかがわれます。

 しかし、ほとんど変化していないとはいえ、この間、陸軍のシェアがわずかながら海空軍のシェアを食う形で増えていることがお分かりでしょうか。海空軍力から地上兵力へ、わずかながら重点がシフトしたということでしょう。

 そうである以上、同じことが、恐らく海軍の総予算中の海兵隊のシェアについても起こっていて不思議ではありません。

 海兵隊は、予算を余り減らされなかったと思われる上に、日本というカネのなる木を持っていたのですから、ほとんど兵力を削減されなかった、ということなのではないでしょうか。

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 いずれにせよ、艦載機岩国移転話からうかがえるのは、片や(海兵隊を除く狭義の)米海軍の、空母の日本前方展開を堅持したいという強い意欲であり、片や日本政府のその場しのぎの退嬰的な対応ぶりです。

 (3)在日米軍再編私案

 批判だけで本稿を終えず、最後に私自身の在日米軍再編私案をご披露しておきます。

 この私案に盛り込まれている事業をすべて実施したとしても、3兆円もかからないでしょうし、いずれにせよ、使ったおカネが生きます。

一、まず日本政府が、憲法改正もしくは解釈改憲で5年以内に集団的自衛権の行使をできるようにする、と宣言した上で、思いやり予算を5年間でゼロにする、と米側に通報する。

二、陸上自衛隊の一個師団相当を海兵隊に改編することとする。(中共も台湾もフィリピンもロシア(極東)も海兵隊を持っているのに、日本にこれまでなかった方がおかしい。)

三、海兵隊物資の事前集積のための経費中、施設費は全面負担すると約束して、在日米海兵隊中、航空部隊以外の縮小ないし日本撤退を促す。(これは、日本側の公式要請ではないところがミソ。思いやり予算がなくなり、日本が海兵隊まで持てば、在日米海兵隊は、在沖縄の地上部隊を中心に大幅に縮小せざるをえない。西太平洋に米海兵隊の司令部機能はどうしても残したい、というのであれば、米側は自分のカネでグアムに新司令部を開設するだろう。)

四、在日米海兵隊の航空部隊中、沖縄の人口密集地に所在する普天間基地に配備されている分は、沖縄内の過疎地に移転させるのではなく、以前から在日米海兵隊の残りの航空部隊が配備されてきた岩国基地に移転させることとする。三と併せれば、沖縄県への米軍の集中状況は大幅に緩和されよう。

五、米空母(原子力空母)の母港と空母艦載機の母基地をともに首都圏から地方の過疎地へ移転させることとし、移転関連経費は日本側が負担する(注12)。

 (注12)私が仙台防衛施設局在勤中に、適地だと思ったのは、青森県の北東部だ。この一帯は原子力銀座と言っても良いほど、各種原子力関係施設が設置されている。

母港は、下北半島で陸奥湾と外洋に面するむつ市の外洋側がよかろう。ここには、廃船となった原子力船むつが、原子炉を下ろした上で船体をうかべている港があるが、その隣に新しい港をつくるわけだ。むつ市の陸奥湾側には海上自衛隊の大湊基地があるので、母港はこの基地の支援を受けることができる。(陸奥湾側に米原子力空母の母港をつくるのは、放射能が漏れた場合のことを考えると適当ではない。)

艦載機部隊の母基地は、自衛隊と共用している三沢米空軍基地の東側の太平洋沿いの一帯が、過疎地であって過疎化が進行しているので、ここに新しく滑走路をつくり、艦載機の基地にすればよい。

 この港は、日本の自衛隊が原子力推進艦艇(まずは潜水艦)を保有することになったあかつきには、米海軍と共用する含みだ。

六、米陸軍拠点司令部(UEX)が米軍座間基地に新設されることになっている(http://www.sankei.co.jp/news/morning/19iti003.htm。2月19日アクセス)ところ、座間基地は返還を求め、北海道の遊休自衛隊施設に移転させることとする。移転関連経費は日本側が負担する。(首都圏の座間基地跡地を売れば、七の分を併せて移転関連経費が確保できるのではないか。)

七、在日米軍司令部が横田基地に置かれているが、同基地の返還を求めることとし、同司令部は現在の三沢基地に移転させる。移転関連経費は日本側が負担する。これに伴い、米空軍が航空管制をしている関東空域も返還させる。

 (4)最後に

 在日米軍再編問題は、日本の安全保障の今後に決定的な影響を与える問題であり、かつ巨費が投じられようとしているのですから、もっと活発に国民的論議が戦わされるべきです。

 そのためにも、私のコラムの読者の間に多数おられる防衛庁関係者の皆さんが、忌憚のないご意見、ご批判をお寄せになることを期待しています。(率直に申し上げて、防衛庁関係者の皆さんの貢献が今まで少なすぎたと思います。)

 

(完)