太田述正コラム#11482006.3.27

<ペシミズム溢れる米国(その3)>

 またジョンソンは、メーカーの集約化が進んだ結果、米国には現在、主要な武器メーカーとしては、ボーイング・ロッキードマーチン・ノースロップグラマン・ジェネラルダイナミックス、の4社しかなくなってしまったけれど、この4社はそれぞれ、国防省からの受注によって、できるだけ多くの州や下院の選挙区が潤うように配慮している、と指摘します。たった4社が国防省の天文学的な額の受注にあずかり、それによって米国経済が下支えされ、完全雇用が実現されている、というのだから、これは軍事ケインズ主義であり、一種の国家社会主義であって、ナチスが1933年に政権をとった後のドイツの経済システムを思い起こさせるとした上で、9.11同時多発テロ以降、ブッシュ政権は、国防省Department of Defenseが既にあるというのに屋上屋を架する国土安全保障省(Department of Homeland Security)までつくり、かてて加えてイラクで湯水のように戦費を垂れ流しており、その一方で諜報事項だとか戦時だからとか言って「国家機密」が肥大化しており米議会による政権のコントロールはどんどん形骸化しつつある、しかも米国の軍事費は、海外からの借金によって賄われているため、そもそも財政的節度が失われてしまっている、とジョンソンは警鐘を鳴らすのです。

更にジョンソンは、米国は、リンカーンによる人身保護令状(habeas corpus)の停止、そして米国が軍事帝国主義国家に変貌した後は、セオドア・ローズベルトによる大統領命令(executive order)の乱発、ウッドロー・ウィルソンによる宣教師的外交、フランクリン・ローズベルトによる日系人迫害、といった行きすぎを経験しつつも、その都度大衆の良識によって行きすぎが是正されてきたものだが、もはや現在の行きすぎが是正されることはないのではないか、それどころか、米国が再び9.11同時多発テロのような攻撃を受けた暁には、ブッシュ政権のような無能な政権に嫌気がさした米軍が、クーデターを起こす懼れすら絶無ではない、と不吉な予言を口にするのです。

ジョンソンは、ソ連という帝国が、執拗に繰り返された東欧諸国の帝国離脱の動きを必要条件とし、ミハイル・ゴルバチョフという、帝国維持にこだわらない指導者の出現を十分条件として瓦解した前例に照らし、日本の沖縄を始めとする外国の軍事基地から米軍を撤退させる動きが高まることで、米軍事帝国瓦解の必要条件が整うことを期待しています。

 しかし、日本政府のこのていたらくでは、少なくとも日本はジョンソンの期待する役割を演じるそうにもありませんし、それどころか、つい最近も、ルーマニアに次いで、ブルガリアまで米軍基地の提供を決定したという有様です(http://www.asahi.com/international/update/0325/002.html。3月25日アクセス)。

 このままでは、米軍時帝国主義の暴走は行き着くところまで行きそうです。

4 政策変更を促す論者

 (1)始めに

 フィリップスやジョンソンほど悲観的ではないが、政策変更をしないと米国は衰亡する、とそれぞれの最近刊の著書・・"America at the CrossroadsDemocracy, Power, and the Neoconservative Legacy""The World Turned Upside Down: The Impact of the Return of India and China to Their Historical Global Weight."で主張している論者にジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(School of Advanced International Studies at Johns Hopkins University)教授のフランシス・フクシマ(Francis Fukuyama)(注3と経済戦略研究所(Economic Strategy Institute)所長のクライド・プレストウィッツ(Clyde Prestowitz)(注4)がいます。

 この際、この両名の主張も紹介しておきましょう。

 (注3)言わずと知れた、「歴史の終わり」(邦訳:三笠書房 1992年)(コラム#1332112235877427471096)の著者。なお、コラム#747では、フクシマのトランスヒューマニズム批判に対する批判を記したので、トランスヒューマニズムまたはフクシマに関心のある方は参照されたい。)

 (注4)ジャパン・バッシングの本として名高い、「日米逆転」(邦訳:ダイヤモンド社 1988年)の著者。

(続く)