太田述正コラム#1372(2006.8.11)
<現在進行形の中東紛争の深刻さ(その2)>

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 06/07/11 00:00:00 – 06/08/10 23:59:59の太田HPへの訪問者数は、29,860人でした。先月06/06/11 00:00:28 – 06/07/10 11:22:35の32,631人(史上最高)よりかなり減りましたが、部分有料化とコラム上梓頻度の約半分への低下を考えると、健闘したと言えるのではないのでしょうか。(HPへの累計訪問者数は、777,461人です。)
 太田ブログの方ですが、アクセス数のほか、訪問者数も分かるようになりました。上記と同じ一ヶ月間のブログ訪問者数は5,388人(アクセス数は9,566名)でした。
 合計すると、月間訪問者数は35,248人、ということになります。
 なお、太田述正コラムの講読者数は現在、無料読者が570(HP)+691(まぐまぐ)+75(E-Magazine)=1336名、有料読者は127名で、計1463名であり、前月より4名減りました。(HP上の読者の幽霊メルアドあぶり出しを行えば、更に減る可能性があります。)
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 読者からのご指摘があり、長年の勘違いに気がつきました。
 「レパント(Lepanto)」と申し上げてきたのは、「レバント(Levant)」の誤りです。訂正させていただきます。
 「レバント紛争」と名付ければ、Levantがシリアから旧パレスティナ(現在のヨルダンが含まれる)あたりの地域を指しているので、レバノンとイスラエル、及びガザ地区(部分的にはヨルダン川西部)、将来的には(?)シリアにまたがる今次紛争の呼称としてぴったりではないでしょうか。
 ちなみにLevantは、語源的にはイタリア半島より東の地中海地域を指す言葉であり、そういう広義においては、Lepanto(ギリシャ本土とペロポネソス半島を区切るコリントス湾に面したギリシャ本土側の町。1571年のレパントの海戦で有名)もLevantの一環です。
私はこれまで、Levant(英語表記)=Lepanto(ラテン語表記?)だと誤って思いこんでいたのです。
 (レパント(の海戦)については、http://jp.encarta.msn.com/encyclopedia_761564639/content.htmlを、レバントについては、http://en.wikipedia.org/wiki/Levant(どちらも)8月11日アクセス)を参照。)
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2 ヒズボラ

 (1)始めに
 イラン・ヒズボラ・ハマスに共通しているのは、いずれもがイラン型とも言うべきファシスト国家ないし集団であることです。
 中東諸国は、伝統的独裁国家とファシスト国家ばかりであり、イランやフセインのイラクやシリアは後者であると申し上げてきた(コラム#1357)ところですが、イラン型ファシスト国家/集団においては、反自由主義と過激な反ユダヤ主義は共通であるものの、フセインのイラクとシリアでは選挙が形骸化し、腐敗しているけれど世俗的であるのに対し、イランでは選挙が機能し、宗教(イデオロギー)原理主義的であって中東の中では相対的に腐敗していない、という違いが見られます。
 このほか、ファシスト的なテロリスト集団であるアルカーイダがあります。

 (2)ヒズボラと政治
  ア 民主主義志向
 イランの息のかかっているレバノンのヒズボラやパレスティナのハマスやイラクのサドル派は、イラン型のファシスト集団(政党)です。欧州のファシスト政党は、ナチスがそうであったように、選挙等を通じて政治に参画しつつも、私兵を抱え、テロ行為を厭わないのが通例です(典拠省略)が、ヒズボラ・ハマス・サドル派はまさにそのようなファシスト集団です。
 ヒズボラは、かねてからレバノンの宗派別選挙におけるシーア派の選挙に参加してきており、現在レバノン議会の総議席128中25を占めて二つの省をコントロールしていますし、ハマスは今年の選挙に始めて参加し、パレスティナ議会の議席の過半数を占め、パレスティナ当局政府をコントロールしています(但し、得票率においては過半数を占めてはいない(典拠失念))
http://www.slate.com/id/2145895/ 
、及びhttp://www.slate.com/id/2145892/
(どちらも7月18日アクセス))。

  イ 住民福祉重視
 ヒズボラは、レバノンの最底辺のシーア派一般住民110万人に対し、レバノン政府が手抜きをしてきたところの、道路・インフラ・学校・病院・ゴミ収集・地方議会・保健/医療の提供を行ってきました。例えば、4つの大病院・12の学校・農業訓練所・医療保険制度を整備・運営してきたのです。
 (ハマスも、パレスティナ当局を牛耳ってきたファタが顧みなかったパレスティナ一般住民の福祉の向上に、ガザ地区中心に努めてきたところです。)
(以上、
http://blog.washingtonpost.com/postglobal/ali_ettefagh/2006/08/the_hardened_path_ahead.html
(8月8日アクセス)による。

  ウ ホロコースト追求
 ヒズボラは、南レバノンを占領していたイスラエルと通謀していたレバノンのキリスト教徒の政党であるファランジスト(Phalangist)の民兵によってパレスティナ難民キャンプであるサブラとシャティラ(Sabra and Chatila)が襲われ、パレスティナ人達が虐殺された1982年の事件を契機に、レバノンをイスラエル軍とイスラエル通謀勢力から解放するためにイランによって創設された集団です(ワシントンポスト上掲)。
 ところが、その後2,000年にイスラエルは南レバノンから撤兵し、ファランジストは現在ヒズボラと提携関係にある(典拠失念)、という具合に状況は様変わりしています。
 にもかからわず、ヒズボラはイスラエルとの国境を挟んでイスラエル軍との軋轢を繰り返してきましたし、国連安保理決議に逆らって武装解除を行わないまま現在に至っています。
 ヒズボラは、イスラエルが依然レバノンの10平方km未満の土地(Shebaa Farms)を占領していることを武装解除をしない理由として挙げていますが、国連安保理は、このヒズボラの主張を否定し(注3)、イスラエル軍は2,000年にレバノンから完全に撤退したことを認めています。
(以上、
http://www.nytimes.com/2006/08/02/opinion/02soderberg.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
(8月3日アクセス)による。ただし、Shebaa Farmsについては、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/763504.stm
(8月11日アクセス)も参照した。)

 (注3)シリアは、ヒズボラの主張に同調している。

 要は、ヒズボラはファシスト集団にふさわしく(?)、過激な反ユダヤ主義者集団であり(注4)、イスラエル国家の抹殺/イスラエルのユダヤ人の一掃・・つまりはホロコースト・・を追求しており、そのために武装解除を拒否し、イスラエル軍との軋轢を繰り返してきたのです。
 (ハマスもまた同様です。)

 (注4)イラン・ヒズボラ・ハマスのホロコースト志向は、欧州のファシズムからの直輸入であると同時に、イスラム世界と並ぶ欧州の外縁たるロシアのスターリニズムからの、その虐殺・(シベリア)追放等による異端弾圧の翻案輸入であるとも言える。つまり、イラン等は、マルクスレーニン主義をイスラム原理主義と読み替え、一神教の異端たるユダヤ教徒の弾圧を追求している、という見方もできよう。
http://www.slate.com/id/2146654/entry/0/以下
(8月10日アクセス)を参考にした。)

(続く)