太田述正コラム#1451(2006.10.15)
<パムクのノーベル文学賞受賞とアングロサクソン論>(有料)

 (本篇は、開店準備を開始した「情報屋台」(コラム#1447)への第一回目の出稿を兼ねています。)

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 オルハン・パムク(Orhan Pamuk。1952年??)にトルコ人としては初めてノーベル文学賞が授与されることになりました。
 このことに関し、英国の・・論評の一つに、「トルコはイスラムの東側世界(East)ないし中東と欧州・北米の西側世界(West)との交差路に位置する」というくだりが出てきます。
・・・「欧州・北米」ないし「西側世界」という表現・・が気になる方は、まずおられないのではないでしょうか。
 これが曲者なのです。
 というのは、英国人、より正確にはイギリス人は、「欧州・北米」ないし「西側世界」が、アングロサクソンと欧州という、全く異質の二つからなっていて、到底一括りにはできないことを百も承知の上で、あえて世界の人々の目をあざむくために、このような表現を用いているからです。
 更に申し上げれば、イギリス人は、世界を自分達アングロサクソンと自分達以外とに分け、自分達以外は、欧州人も含め、ことごとく野蛮人だと思っているのです。
・・・実は、パムクは、イギリス人にとって野蛮とは何かをわれわれが理解する手がかりを与えてくれるのです。
 パムクは、・・昨年・・インタビューを受け、「トルコ生まれのクルド人3万人とアルメニア人100万人が殺されたというのにトルコでは誰もそのことを語ろうとしない」と述べたことで、トルコ内で囂々たる非難を受け、その挙げ句、トルコを侮辱した廉・・で訴訟を提起された上に、ある地方高官は、パムクの著書の焚書を命じる、という散々な目にあったのです。
・・・トルコでは、パムクのノーベル文学賞受賞を素直に祝福する声は、作家仲間の一部からしか聞こえてこず、メディアや政治家はおしなべて、苦笑いをしています。
・・・傑作なのは、パムクの受賞が分かったのと同じ日に、フランスの国会が、トルコがアルメニア人のジェノサイドを行ったことを否定する者は1年の懲役と45,000ユーロの罰金が科せられるとした法律を成立させたことです。
・・・イギリス人から見れば、パムクの言論を封殺しようとするトルコ人の大部分も、そしてトルコという国そのものも野蛮だ、ということになるのです。
また、ホロコースト否定論やアルメニア人ジェノサイド否定論がいくら馬鹿げているにせよ、これらの見解を刑罰によって封殺しようとするのは言論の自由の否定であり、そんなことをするフランス人の大部分も、そしてフランスという国そのものも野蛮だ、ということになるのです。
 アングロサクソンを代表するイギリス人から見た、アングロサクソン以外の世界の野蛮さのイメージが何となくお分かりいただけたでしょうか?