太田述正コラム#1488(2006.11.5)
<身長と人間心理>
1 始めに
日本人の平均身長は、世界の中ではかなり低い方です。
また、白人の平均身長は、有色人種をかなり上回っています(注1)。(以上、
http://web.archive.org/web/20050306160309/http://www.kurabe.net/average_height/
(11月5日アクセス)による。)
(注1)世界で一番平均身長が低いのは北朝鮮だ。これは民族的特性でも何でもなく、北朝鮮の栄養水準の反映だ。
身長をめぐる人間心理を取り上げた本、Stephen S. Hall, SIZE MATTERS How Height Affects the Health, Happiness, and Success of Boys ? and the Men They Become が出たので、この本の書評(
。11月5日アクセス)をてがかりに、この問題に迫ってみました。
2 身長と人間心理
古代ローマの歴史家のタキトゥス(Cornelius Tacitus。55年???120年?)は、紀元1世紀に、身長が高いほど力・徳が増すと論じました。
また、プロイセン国王のフリードリッヒ・ヴィルヘルム(Frederick William。1688??1740年)1世は、1700年代初期に、ポツダム巨人連隊(Potsdam Giants regiment)という、身長6フィート以上の者だけを集めた連隊をつくり、欧州中でこのマネをすることがはやりました。確かに、身長の高い兵士は、歩幅が大きいし、銃剣を遠くまで突き出すことができるし、小銃の再装填も楽にできたことは事実です。
そもそも、英語のstature(器量・名声)という言葉は狭義には身長の意味です。
目を米国に転じましょう。
これまでの43人の米大統領のうち、5フィート7インチ未満の人は3人しかいませんし、大統領選挙で二人が争った場合、ほとんど背の高い方が勝利を収めてきました。
また、1980年の調査によれば、フォーチュン500社のCEOの半分以上は6フィート以上でしたし、ペンシルバニア大学とミシガン大学の経済学者達は、2004年の共同研究で、11歳から16歳にかけて相対的に高い身長であった者が社会に出てから高い所得を得る相関度が高いことを明らかにしました(注2)。
(注2)興味深いことに、成人後の相対的な身長の高さと所得の高さとの相関度は下がるという。
更にごく最近の、プリンストン大学の二人の経済学者は研究で、平均的に見て、背の高い者の方が背の低い者より知的能力が高いことを明らかにしたのです。
背の低い人にとっての慰めは、かのダーウィン(Charles Robert Darwin。1809??82年)の、「進化上は体の大きい方が有利だが、人間は他の霊長類より小さかったからこそ、知能が発達したのではないか」という言葉以外には、最近のラトガース大学での研究で明らかになった、女性は男性の背の高さよりむしろダンスの能力(注3)の方に惹かれる、という事実くらいしかありません。
(注3)ダンスの能力は、平衡ないし対称感覚、ひいては知覚能力ないし心的能力、そして敏捷性に関わると考えられる。
3 コメント
地理的意味における欧州で、北欧の人々の方が南欧の人々より背が高い(archive.org前掲)し、支配的地位に就いている人が一般的に庶民より背が高いことは歴然としています。
体が大きく戦闘に強かったからこそ、ゲルマン人が欧州を席巻し、各地で支配者になったのだろうし、その名残が現在も消えていない、とかねてから私は考えています。
だから、アングロサクソンにしても、欧州の人々にしても、背の低い人々を見下す観念があります。この観念と、白人の非白人に対する人種差別意識はオーバーラップしています。
この意味からも、背の低い日本人が、白人の中では背が低い方ではあれ、ロシア人を打ち破った日露戦争の意義は大きかったと言うべきでしょう。