消印所沢通信8:伝染(うつ)るんです
「イスラエルとヒズボラ,パレスチナとの紛争が一応終結してから久しいですが,
パレスチナでは思い出したようにハマスとファタハが撃ち合っては休戦,撃ち
合っては休戦,という状況が繰り返されています.
 例えば最近でも,1月25日から30日までの間に30人が死亡,2月8日、
ファタハとハマスが「挙国一致内閣」設立で停戦合意したものの,24日には
双方のメンバーら計3人が死亡、約15人が負傷する銃撃戦が再び起きています.
 さらに時代をさかのぼってみれば,インティファーダ末期にもパレスチナ人
同士の殺し合いが行われています.
 なぜパレスチナでは,誰も彼もが互いに殺し合わずには
いられないのでしょうか?
 今日はこの問題を医学の面から研究しておられます,テルアビブ大学
ホロコースト学部収容所衛生学科のアンネ・フランク博士に
おいでいただきました.
 フランク博士はこのたび,パレスチナ人同士を殺し合いに駆り立てる
『同士討ちウィルス』を発見することに成功したとのことです.
 博士,これはどういうウィルスなのですか?」
「はい,これは,人間の脳のニューロン細胞に感染し,特定の思考以外の
神経を遮断してしまうというおそるべきウィルスです.
 これに感染してしまうと,複眼的思考を持ったり自分を客観視するという
ことができなくなり,少しでも自分とは異なる意見を持つ人間が許せなく
なり.攻撃的になります」
「恐ろしいウィルスですね.
 どのようなきっかけで博士はこれを発見なされたのですか?」
「ヒントとなったのはJ.G.バラードの小説『戦争熱』ですね.
 この小説はまさに,同士討ちウィルスの存在を予言しています.
 次にヒントとなったのは,次のこの文章でした.
以下引用———————————————————
 一つだけ指摘しておきたい.
 エジプトのイスラーム・テロ組織に過激性を持ち込んだ要因の一つは,
エジプト中南部に位置する上ナイル地方に古くから伝わる「血の復讐」の
社会慣習である.
 (中略)
 他にも,テロリズムが先鋭化する地方には,似たような好戦的部族慣習が
残されている場所が少なくない.
 例えば,フィリピンのアブ・サヤフを構成するタウスグ族という部族は,その
戦闘性から,近隣の他のイスラーム系住民からも恐れられている.
 チェチェンの戦闘的氏族集団は,ゲリラとなる以前,既にチェチェン・
マフィアとしてロシア裏社会に君臨していた.
 ビン・ラーデンの下に集結したイスラーム義勇兵達が出会ったのは,
アフ【ガ】ーニスタンのパシュトゥン人という,これまた「血の復讐」で
知られる戦闘的部族である.
 こうした出会いが,アラブ人イスラーム義勇兵達に何らかの精神的影響を
与えたと言うことはなかっただろうか?
 筆者〔黒田〕は,何も人種差別の考えに与するものではないが,ある
民族社会には独特の好戦的慣習があり,それが紛争の底流に息づいている
ケースを,実際の取材現場を通してしばしば目撃してきている.
黒井文太郎著「イスラムのテロリスト」,講談社,2001/10/20),p.189-191
———————————————————以上引用
 これを読んだ私は,感染性は低いが感染した場合には極めて強力に症状が
出る,このウィルスの存在を確信したのです.
 そこでモサドに頼んで,死に立てほやほやの新鮮なテロリストの死体を何体も
送ってもらい,それを片っ端から切り刻んで電子顕微鏡にかけ,ようやく
発見したという次第です」
「この発見で,テロは減らすことができるでしょうか?」
「そうですね.
 現在,このウィルスの毒性を強める研究を始めておりますので,それに
成功すれば,テロの撲滅に繋がるでしょう」
「えっ? 弱めるのではなくてですか?」
「はい,毒性をとことん高めたハイパー同士討ちウィルスを培養して,
アル・カーイダなどの連中に感染させれば,彼らも勝手に同士討ちを始めて
くれるでしょうから.
 そもそも,アル・カーイダなどはサウディアラビアのワッハーブ派をさらに
過激にした,イスラーム系カルト宗教であるという見方さえあります.
 こうしたカルト宗教は教団内部で内ゲバを起こして自滅するのが常です.
 そこで,ちょいとハイパー同士討ちウィルスを感染させてやれば,彼らは
アメリカそっちのけで身内で殺しあうことでしょう.
 もちろんハマス,ヒズボラなどにも同様の効果が期待できます」
「しかし,その過程で,今のハマスやヒズボラよりも過激な組織が生まれて
しまったりはしませんか?」
「その可能性はあるかもしれません.
 そこで,その可能性の備えて,我々はハイパー同士討ちウィルスをさらに
強めたメガ同士討ちウィルスを……」
「ふつーにワクチン開発しろよ」 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 もうそろそろ誤解は生じないと思いますが、以上は、私が執筆したものではなく、消印
所沢さん執筆です。(太田述正)