太田述正コラム#1653(2007.2.8)
<日本の新弥生時代の曙(その5)>(2007.3.12公開)

 ところが、原理主義イスラムの挑戦に対し、米英が苦戦を強いられているというのに、この米英両国を初めとして、世界の人々は、実は危機意識をほとんどと言ってよいほど持っていません。
 リスクヘッジ目的で用いられるS&P500 Index(Standard and Poor’s 500 stock index)オプション(注2)の購入価格が、実質価格で現在1986年以来の最も低い水準にあることがそのことを示しています。
 
 (注2)この意味については、以下を参照。翻訳の労を惜しんだ。
Indexing: Buying and holding a mix of stocks that match the performance of a broad stock-market barometer such as the Standard & Poor’s 500 stock index.
Index option: An agreement that gives an investor the right but not the obligation to buy or sell the basket of stocks represented by a stock-market index at a specific price on or before a specific date. Index options allow investors to trade in a particular market or industry group without having to buy all the stocks individually.
Index arbitrage: Buying or selling baskets of stocks while at the same time executing offsetting trades in stock-index futures. For example, if stocks are temporarily cheaper than futures an arbitrager will buy stocks and sell futures to capture a profit on the difference or spread between the two prices.
http://72.14.235.104/search?q=cache:urcIWomU1ScJ:online.wsj.com/documents/glos_i_.htm+Standard+and+Poor%27s+500+stock+index%3Boption&hl=ja&ct=clnk&cd=11
。2月8日アクセス)

 それもそのはずです。
 現在われわれは、主要国が互いに戦争をすることが考えられない、という史上かつてない時代に生きているだけでなく、世界経済もまた力強い成長を続けており、しかも、発展途上国の成長率は先進国よりも高く、総じて世界の国々の経済格差は縮まりつつあるからです。
 世界1位と2位の人口を抱える中共とインドは、それぞれ近年10%と9%近い経済成長を続けていますし、東南アジア諸国も1997??98年の金融危機以降、かつての高度成長に戻っています。前に中南米のスターリニズムがかった国々の話をしましたが、中南米諸国だって全体として、このところ4??5%成長を続けています。
 また、サハラ以南のアフリカ諸国ですら、長期にわたる停滞の後、ここ数年は5%を超える成長をとげているのです。
 ロシアも石油と天然ガスの輸出が、その値上がりもあって好調であるおかげで、GDPが一昨年は世界14位だったところ、昨年にはブラジル・韓国・インドを抜いて10位に浮上し、2年後にはイタリア・フランス・イギリスを抜いて世界6位になると見られています。また、ロシアの外貨準備高は、既に中共、日本に次ぐ世界3位になっています。(
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200701/200701310026.html
。1月14日アクセス)
 そして、唯一の覇権国たる米国の経済は、この10年間、景気後退を経験していない、ときています。
 冴えない欧州諸国もこののところ失業率が下がっていますし、これまた冴えない中東(アラブ)諸国だってマイナス成長であるわけではありません。
 最後に、日本経済もまた、バブル崩壊後の長いトンネルを抜け出して史上最長の好景気下にあることはご承知の通りです。

 こういう次第ですから、イスラム世界でどれほど原理主義イスラム勢力が猛威を振るおうと、また、かつまた、散発的に主要国内で彼らによるテロが起きようと、近代に背を向けているところの原理主義イスラム勢力など、政治・経済的には吹けば飛ぶような存在であって、アングロサクソン文明に対する深刻な脅威にはなりえていないのです(注3)。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/IB06Ak01.html、及び
http://www.latimes.com/news/opinion/la-op-fukuyama4feb04,0,5856062,print.story?coll=la-opinion-rightrail
(どちらも2月6日アクセス)による。)

 (注3)そもそも、イスラム世界の中心的存在であるところの人口2億8,000万人(
http://theseoultimes.com/ST/?url=/ST/db/read.php?idx=860
。2月8日アクセス)のアラブ世界の総輸出額は、石油を除けば、人口520万人のフィンランド並でしかない。

 (5)現在の外からの脅威2:中共
 アングロサクソン文明にとっての最大の脅威は中共です。
 人口超大国である中共が、アングロサクソン文明から、その経済システムである資本主義だけをつまみ食いして高度成長を続ける一方で、アングロサクソン文明の自由民主主義の導入を頑なに拒んでいるからです。
 これは、中共がマルクスレーニン主義を捨て去った現在においては、ネオ支那文明の脅威と言ってもよいかもしれません。
 
(続く)