太田述正コラム#1757(2007.5.5)
<ブレア政権の10年(その2)>(2007.6.7公開)
最後に文化政策面です。
ブレアは文化政策を中心的政策の一つとして推進しました(注)。
(注)ブレアはマッチーニ流ナショナリズム(Mazzinian nationalism)・・文化面での競争を最重視するナショナリズム・・の信奉者である、と評されることがある(
http://web.inter.nl.net/users/Paul.Treanor/blair.html
。5月5日アクセス)。マッチーニ(Giuseppe Mazzini。1805~72年)は、言わずと知れた、イタリア統一や究極的な欧州統一のイデオローグだ(
http://en.wikipedia.org/wiki/Giuseppe_Mazzini
。5月5日アクセス)。
国家遺産省を文化・メディア・スポーツ省へと改称し、文化政策を過去志向から未来志向へと転換し、英国を若い国のイメージへと衣替えさせようとしたのです。
そして、保守党政権時代に凍結されてきた文化予算の大増額に踏み切ったのです。ブレア政権下の10年間で文化予算は実質価格で85%も増えました。
これにより、博物館・美術館・劇場等が全て裨益しました。
まず、博物館の入場料が再びタダになり、内外からの観客が75%も増えました。
演劇も美術も活性化しました。
また、芸術団体と学校教育との連携も実現しました。
(以上、特に断っていない限り
http://arts.guardian.co.uk/art/visualart/story/0,,2070241,00.html
(5月2日アクセス)による。)
4 ブレア論
ブレア(Anthony Charles Lynton Blair。1953年~)は、大学時代を含め、全く目立たない青年時代を送りました。
彼は、オックスフォード大学でも、学生自治会(Oxford Union)会長になるわけでなし、雄弁家として鳴らすでなし、成績もまあまあよくできた、という程度でした。同大学の労働党クラブにも入っていませんでした。
1975年に労働党の党員になってからも、鳴かず飛ばずで、地方議会議員の候補者にすら指名されませんでした。
1982年に下院補選に出て落選した時が、ブレアが初めて演説をした時だといいます。
しかし、翌年の総選挙で、初当選してからは、労働党内でとんとん拍子の出世を遂げ、1994年には労働党首となり、1997年には首相に登り詰めます。
これは、リヴァプール卿が1812年に作った記録に次ぐ若さでの英首相就任です。
そして、労働党出身の首相としては、最長任期の10年を勤め上げたのです。
このようなブレアの変身の「秘密」を解き明かした本格的な評伝は、まだ現れていません。
現時点で分かっていることは次のとおりです。
ブレアの考え方は、英国の首相の中では前代未聞のことですが、キリスト教の強い影響下にあります。
ただしそれは、より正確には、キリスト教そのものと言うより、キリスト教哲学者のマクマレー(John Macmurray)(コラム#113、114)の考え方の影響下にあると言うべきでしょう。
それは、コミュニティー志向の考え方であり、協働精神・友情・兄弟愛を尊ぶ考え方です。
ここから、ブレア自身が言っているように、対立すると目されているところの、郷土愛(patriotism)と国際主義、自由主義と社会主義、市場と公共サービス、を調和(reconcile)させようとする発想が出てくる、というのです。
またここから、先進国(civilised nations)は、国境の外の諸懸案(suffering)に取り組む権利と義務があるとするグラッドストーン的自由介入主義が導き出される、というのです。ブレア自身の言によれば、(最先進国である)英国には、他の諸国を指導(lead)する使命(destiny)がある、というわけです。
ブレアは、労働党首でもありますが、党派を超えた大統領のような首相であると評されています。
つまり、ブレアには、労働党を彼の考え方で染め上げるといった発想がなく、また、労働党内の子飼いの郎党を増やす努力もしませんでした。
そのため、ブレアに私淑する労働党議員はほとんどいません。
ということは、このような変幻自在のブレア主義とでも言うべきものを受け継ぐべき次世代の政治家もまた育たなかったということです。
(以上、
http://books.guardian.co.uk/review/story/0,,2072443,00.html、
http://en.wikipedia.org/wiki/Tony_Blair
(5月5日アクセス)による。)
5 終わりに
日本の政党、とりわけ自民党からの政権奪取をねらっている民主党にとって、ブレア主義は大いに参考になると思います。
同党がブレア主義をよく勉強し、日本の顔をしたブレア主義の政権を樹立することを願ってやみません。(完)
ブレア政権の10年(その2)
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