太田述正コラム#1829(2007.6.23)
<安全保障をめぐる読者とのやりとり(続々)>
1 始めに
 引き続き、安全保障を中心とする読者とのやりとりをご紹介します。
 やはり、即時公開します。
2 読者とのやりとり
<有料読者θ>
 一週間ほど海外の学会に参加していまして、火曜日に帰国しました。ようやく書類やら何やらを片づけたところです。
 不在時のコラムもやっと目を通すことができました。あまりに多量すぎて旧掲示板の方はまだすべては読めておらず、よって論争自体には何も言うことはありませんが、安全保障の研究者(の卵)としてはただ一点、軍事愛好家の方々の知識量は羨ましいなあという感想を持ちました。あと,太田様がどこかで「遅筆を克服せよ」と書かれていたのには大いにうけました。あの言葉、まるで自分に向けられたような気がしてなりません。
(笑)
<Captain T>
 日本人に珍しい、すばらしい歴史観、世界観のBig Pictureをもった太田氏の論議を期待しています。瑣末な防衛装備論議はもう充分だと思います。
<太田>
 バグってハニー(BH)さんのような良質の軍事愛好家まで、「瑣末な防衛装備論議」にかなり入れ込んでおられる以上、お付き合いをさせていただくのは私のコラムニストとしての義務だと思っています。
 その結果として、拙著の改訂方針が固まれば、そして有料読者θさんのような日本の安全保障研究者の方々が軍事リテラシーを高めていただければ、また、日本の軍事愛好家の皆さんが安全保障リテラシーを高めていただければ、更には、日本の軍事ならぬ安全保障論議が一般の人々の間で活発化すれば、言うことはありません。
<BH>
 <コラム#1827に関してですが、まず、>保管機の取り扱い<についてです。>
 これはすでに私とJSFさんが何度か指摘したのですが、航空自衛隊に保管機がないことが問題なのではなくて、むしろ保管機があるのにもかからわずその数がミリタリーバランスでは分からないというのが問題なのです。
 これも断定的なことは言えませんが、それが防衛白書とミリタリーバランスの数の違いになっているのではないかと。
 先生の仰るとおり、潜在的な戦力比較ということで保管機込みの比較のほうが私もよいと思いますが、ミリタリーバランスを用いる限りそれはできないということです。
 そこで、次善の策として保管機抜きの配備数で比較することを私は提案しました。
<太田>
>潜在的な戦力比較ということで保管機込みの比較のほうが私もよいと思います 
 それを聞いて安心しました。
 しかし、
>航空自衛隊に保管機・・があるのにもかからわずその数がミリタリーバランスでは分からない
には事実誤認があります。
 コラム#1813に記したように、旧掲示板上で皆さんが指摘されたこととミリタリーバランス(ミリバラ)の記述からすると、航空自衛隊には保管機は存在せず、予備機等(私の命名)は存在するが、予備機等の数字がミリバラには掲載されていない、というのが正確なところです。
 いずれにせよ、2000~2001年版のミリバラは、この点に関しては日本の箇所の記載に穴があるわけであり、例外的にその穴を、ミリバラ以外の公刊資料、例えば防衛庁の公刊資料で埋める必要がある、と思います。
 乗りかかった船で軍事愛好家の皆さん。当時の航空自衛隊の戦闘用航空機の予備機等の数を調べていただけると助かります。
 それをやっていただけると、拙著の「戦闘機」の数を「戦闘用航空機」の数で代替し、しかも、英国は保管機(と予備機等?)込み、日本は予備機等込みの数字で比較することが可能になります。
<BH>
 ところで、<ホーク>T.1Aに関して次のような記述をWikipediaで見つけました。
http://en.wikipedia.org/wiki/BAe_Hawk#Hawk_T.1.2FT.1A
 英空軍には有事の際、レーダーの不備をトーネードF.3で補い、T.1Aを要撃戦闘機として用いる構想があったようです。これが、2000年度版でT.1Aが戦闘用航空機にカウントされている理由なのだと思います。しかし、冷戦終結後にはこのような任務はもはやなくなったとも書かれています。おそらくこれが少なくとも2002年度版以降ではT.1Aが戦闘用航空機扱いされなくなった理由なのでしょう。
 ですから、2001年の時点でT.1Aを戦闘機としてカウントすることには根拠があったと私は思います。しかし、このような改修を受けていないただのT.1は戦闘機とは呼べないでしょう。
 これは航空自衛隊でも同じです。JSFさんが少しだけ書いていましたが、航空自衛隊にはT-4というT.1と同等の練習機があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/T-4_(練習機)
 こちらはT.1と異なり、初めから武装することを諦めたようです。ですから、ミリタリーバランスでは戦闘用航空機とはみなされていません。一方の T-2には固定された武装があり、JSFさんによればT.1Aと同じように有事の際には空対空ミサイルが搭載される構想があったそうです。それが、ミリタリーバランスがT-2を戦闘用航空機として扱っている理由なのでしょう。
 以上まとめますと、英空軍でT.1Aを戦闘機扱いするのであれば航空自衛隊のT-2も戦闘機扱いするのが公平であり、その場合でもただのT.1とT-4は戦闘機扱いすべきでない、ということになると思います。
<太田>
 私は、旧掲示板上での議論の中で、
http://en.wikipedia.org/wiki/BAE_Hawk
 ここから、ホークT.1Aがかつて戦闘機であったことは確かですよね。
と指摘しています。
 このウィキペディアは、あなたの引用されたウィキペディア
http://en.wikipedia.org/wiki/BAe_Hawk#Hawk_T.1.2FT.1A
と中身的に同じもののようですが、ガゼルのケースといい、ホークのケースといい、英語版ウィキペディアの執筆者たる英国の軍事愛好家(?)は、軽々に「武装しなくなった」とか「邀撃任務はなくなった」とか断言する癖があるように思います。彼(彼ら?)もミリタリーバランスを読んでいないのでしょう。
 いずれにせよ、
>2001年の時点でT.1Aを戦闘機としてカウントすることには根拠があった
とお認めいただきありがとうございました。
>ミリタリーバランス<は、航空自衛隊の>T-2を戦闘用航空機として扱っている<が、>英空軍<の>T.1Aを戦闘機扱いするのであれば航空自衛隊のT-2も戦闘機扱いするのが公平であり、その場合でもただのT.1・・は戦闘機扱いすべきでない
 いや、ここでも、ミリバラが(恐らく)T.1Aを戦闘機扱い・・従ってもちろん戦闘用航空機扱い・・にし、T-2を(恐らく)戦闘機ではなくて(単なる)戦闘用航空機扱いにしていることにはそれぞれ理由がある、と考えるべきでしょう。
 ですから、依然私の疑問は解消されません。
 すなわち、T-2を戦闘用航空機扱いするのであれば、T.1も戦闘用航空機扱いにすべきように思われるがどうして当時のミリバラはそうしていないのか、という疑問です。
<BH>
 <最後に、>今日のコラム<#1828>に対するコメント<です。>
 これはScienceに出た論文を紹介した記事ですね。この論文をScience上で紹介した記事から二つだけ補足します。
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/316/5832/1711
>IQが3~4%違うことは、学校の成績が優になるのか良になるのか、大学入試で入学できるのか不合格になるのか、等の限界事例においてかなり大きな違いをもたらし
 ノルウェーには二つの大学しかなくIQが平均以上の学生はいい大学へ、そうでない学生は悪い大学へ入学するとします。するとIQでは平均してたった 2.3ポイントの違いしかなくても、長男長女がいい大学に入れる確率は相対危険度では13%、オッズ比では3割、次男次女よりも高くなるということを意味します。
>これは、一人っ子の私にとっても興味ある話なので、ご紹介することにしました。
 統計的には一人っ子のIQは兄弟姉妹のいる長男長女よりも低くなります。これは先生が紹介した二つの仮説で説明できます。
 まず、「弟妹ができると両親の子供に対する注意が拡散され、長男長女はこのためIQが伸びなくなる」という仮説です。一人っ子は兄弟姉妹がいる子どもよりも片親に育てられることが多いので、相対的に両親から受ける注意が減ることになります。これは伝統的な日本の家庭には当てはまらないかもしれないですが。
 次に、「長男長女が弟妹を教え諭す立場にあることから、次第に長男長女の知識が組織化されていく」という仮説です。一人っ子には教え諭すべき弟妹がいません。ですからIQは伸び悩むことになります。
<太田>
 解説していただき、ありがとうございました。
 しかし、
>一人っ子は兄弟姉妹がいる子どもよりも片親に育てられることが多いので、相対的に両親から受ける注意が減ることになります。
の意味が良く分かりません。