太田述正コラム#1886(2007.7.31)
<参院選の結果(続)>
 (本篇も即時公開します。)
1 始めに
 「参院選で自民党が惨敗したことについて、英マスコミの大半は「政治スキャンダルや年金問題などが安倍晋三首相にとって逆風になった」(30日付フィナンシャル・タイムズ紙、ガーディアン紙など)と分析しつつ、「与党が参院で過半数議席を占めなくても、衆院で圧倒的多数を保有している限り、政権運営は可能」(BBCテレビ)などと比較的冷静に受け止めている。」という時事通信社というクレジット入りの記事をMixi( 
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=263807&media_id=4
7月31日アクセス。以下同じ)で読んで目を剥きました。
 「英マスコミの大半は・・与党が参院で過半数議席を占めなくても、衆院で圧倒的多数を保有している限り、政権運営は可能」(BBCテレビ)などと比較的冷静に受け止めている。」という部分に関しては完全な誤報だからです。
 しかも、この時事の記事を鵜呑みにしたコメントが、自民党支持層を中心とする人々から多数投稿されているのでこれはいけないと思い、このコラムを書きました(注1)。
 (注1)Mixiへの書き込み(
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=515128726&owner_id=108926
)で注意を喚起しておいた。
2 検証
 (1)ファイナンシャルタイムス
 ファイナンシャルタイムスの30日付の記事とは
http://www.ft.com/cms/s/5f3464b2-3ecf-11dc-bfcf-0000779fd2ac.html 
でしょうが、「自民党総裁にして首相である安倍晋三は、より強力な下院で多数を制しているにもかかわらず、辞任を余儀なくされるかもしれない」とあります(注2)。
 (注2)なお、この記事は、小沢民主党代表が、圧勝が判明した日曜に姿を見せなかった異常さに言及しつつ、彼が健康問題を抱えていること、党内で不人気であること、下院で民主党が多数を制した場合に首相になることに意欲的でないことを指摘し、小沢氏は1993年に自民党を下野させることに成功したものの、それが短期間で終わったのと同様、今度自民党を下野させてもやはりそれが短期間で終わりかねない、とした上で、これを回避するためには、かつて自民党がやっていた地方にカネをばらまく政策で有権者を釣るのではなく、自民党と真に異なる明確なビジョン(idea)を打ち出さなければならない、と結論づけている。
 (2)ガーディアン
 ガーディアンの30日付の記事とは
http://www.guardian.co.uk/japan/story/0,,2137604,00.html
でしょうが、「<安倍首相>の党がより強力な下院で過半数を大きく超える議席を持っていることから、彼は首相を続けることはできるものの、多くの識者は連立政権が上院で多数を失ったことから、政治が停滞すると予想している。」とあります(注3)。
 (注3)30日付でもう一つ記事が電子版に載っているが、これはAP電を転載したもの(
http://www.guardian.co.uk/worldlatest/story/0,,-6814634,00.html
)であり、「英マスコミ」の記事であるとは言えない。ちなみに、この記事も、「政治的議論は活性化するだろうが、この敗北は自民党にとって法案をを通すことをより困難にするかもしれない」とある。
 (3)BBC
 BBCの30日付の記事とは
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6921730.stm
でしょうが、「連立政権は、首相を選ぶところの、より強力な下院で大きく過半数を超える議席を持っている。しかし、野党が上院を支配しているということは、安倍政権が法案を通そうと思ってもそれが極めて困難であることを発見するであろうことを意味する」とあります。
 (4)結論
 時事の記事は話が正反対であることがお分かりいただけたことと思います。
3 終わりに
 これでは、日本のメディアの外信記事だけを読んでいると、国際情勢が全く分からなくなりかねない、と言えそうですね。
 このような日本のメディアの劣化、そして日本のメディアの劣化に無頓着な大方の日本の人々、を見るにつけても、米国の保護国となって外交と安全保障を米国にぶんなげて60年以上経過したために、(日本政府と)日本の人々の、国際情勢をきちんと把握する能力と意欲が著しく減退しているという感を深くします。