太田述正コラム#2289(2008.1.8)
<KBS用Q&A>(2008.2.9公開)
 (本篇は、1月9日夕刻まで公開しません。)
1 始めに
 明9日午後、予定通りKBS京都ラジオの番組に午後2時33分~43分の10分間電話生出演します。
 Q&Aをつくったのでご披露しておきます。
 内容は、耳タコでしょうが、ご容赦下さい。
2 Q&A
 (1)太田さんの経歴をお聞かせ下さい。
 1971年に当時の防衛庁に入庁、防衛大学校総務部長、官房審議官、仙台防衛施設局長などの役職を歴任し、2001年に退職。この間防衛白書の編纂に2度携わりました。その後、『防衛庁再生宣言』を出版するなど、国際問題や安全保障の専門家として活動しています。
 (2)山田洋行の収賄事件について、どう感じておられますか?
 検察は、私の同期の守屋前防衛事務次官が接待を受けたりカネをもらったりした見返りに山田洋行や山田洋行から分離独立した会社に便宜供与を行ったことを立証しようとしていますが、かなり無理があるのではないでしょうか。
そもそも私は、各省庁の幹部に安くゴルフをさせるゴルフ場があってもいいと思っていますし、官僚が業者と飲み食いを共にすること自体も必ずしも悪いことだとは思っていません。公務員倫理法が厳しくなりすぎているのです。
 とはいえ、守屋が長年にわたり特定の業者ばかりとしかも高頻度でつきあったことは脇が甘かったと言わざるをえませんし、次官就任祝い等、カネをもらったことなどは言語道断です。
 ただ、カネの大部分は奥さんがもらっていたようで、守屋が奥さんをかばおうとしているフシもうかがえます。
 いずれにせよ、時効にかかっていないここ5年間のトータルで、守屋が受け取ったとされる「賄賂」の総額が1000万円になるかならないか程度であることに注目すべきでしょう。
 これは山田洋行への天下り10数名のうちのわずか1名の、しかもたった一年間のヤミ年金額相当でしかありません。
 山田洋行に限らず、防衛関係企業への天下りの人数に応じてその企業の防衛省からの受注額が決まる、ということをご存じでしょうか。
 この天下りの問題に比べれば、守屋の受けた接待やもらったカネなど、大した話ではない、と私は言いたいのです。
 守屋自身そう思っていたはずです。
 第一、彼や彼の奥さんは山田洋行や新会社の首脳と友達づきあいをしているつもりだったのですよ。
 ですから客観的にはともかく、守屋は主観的には山田洋行や新会社に何ら便宜供与など図っていない、と私は相当の確信を持って言えるのです。
 (3)ご在庁の時代から、接待攻勢はありましたか?
 私や守屋が役所に入った頃は、接待なんて当たり前でした。
 しかし、公務員倫理法ができ、その規定が次第に厳しくなって来るにつれ、個別の業者による官僚の接待はほとんどなくなったのではないでしょうか。
 これでは官僚が関係業界や業者のホンネに接することができないので、特定の人や団体が様々な官庁の関係業者からカネを集め、これら業者と様々な官庁の官僚が一同に会して飲み食いを伴う会合を開くといったことがその後も続けられています。会合に出てみたらたまたま関係業者がいた、という体裁をとるわけです。個々の官僚も会費を出すのですが、それが全経費の一部でしかないことは言うまでもありません。 
 何のことはない。これは公務員倫理法の脱法行為です。
 それなりの必要性がある以上、このような脱法行為を根絶することは不可能です。
 私は、業者との飲み食いを伴う会合を合法化し、各官庁の交際費も増やし、その代わり全面的に情報開示させることを推奨しています。
 (4)どうすれば、このような事件がなくなると思われますか?
 以上縷々申し上げたように、接待を受けること自体はさしたる問題ではありません。まともに仕事をしていない官庁が多いことこそが問題なのです。
 日本は米国の属国であり、外交・安全保障の基本を米国にぶんなげているので、本来の仕事をやらせてもらえない外務・防衛両省から退廃・腐敗が始まり、深刻化し、それが厚労省等全省庁に波及している、という認識を持っていただきたいと思います。
 地方議員じゃあるまいし、国会議員だって外交・安全保障が本来の仕事なのですが、彼らもこの本来の仕事に携われないので退廃・腐敗しがちです。
 国家の存立や大勢の人間の生死に関わる仕事に携わっていれば、人間自ずから粛然とするものなのですがね・・。
 このように官僚や政治家が退廃・腐敗しているので、政府に関わりの深い業界・業者も退廃・腐敗するに至っています。
 そして、この政・官・業が三位一体的癒着構造の下にあるのです。
 癒着構造における最大の問題は、繰り返しで恐縮ですが、接待などではなく官の業への天下りなのです。
 自分の能力・知識・経験だけで再就職できる官僚なんて100人に1人いるかどうかです。天下りをしている人の大部分は、実質的な仕事をせずに多額のヤミ年金をもらっているのです。
 そのカネは、官庁が、購入する財・サービスの価格を水増ししたり、規制を手加減したりして捻出されています。
 そして、この天下りシステムのいわば用心棒代を政治資金等の形で政治家がせしめている。
 これが諸悪の根源なのです。
 この問題を解消するには、恩給制度を復活させることを見返りに天下りを全廃する必要があります。
 そのためにはまずもって政治を変えなければなりません。
 退廃・腐敗議員を排除するような形での抜本的な政権交代ないし政界再編をなしとげることです。
 これができるのは、政治家でも政党でもマスコミでもありません。
 国民の皆さんです。
 (5)出版のご予定はありますか?
 2冊目の本を、株式会社金曜日からこの春に出版予定で企画を進めているところです。