太田述正コラム#2414(2008.3.10)
<「太田総理・・」ダブル収録記>(2008.3.15公開)
1 始めに
 寝不足気味で「太田総理・・」ダブル収録に出演したのですが、寝不足以上に不毛な議論に消耗しました。
2 「天下りする官僚は全ての退職金をなしにします」
 21日放送のこのマニフェストについての収録は、反対側が平沢勝栄議員、大村秀章議員、中山泰秀議員(外務大臣政務官)、中野雅至(元厚労省)、私、河辺啓二(元農水省・医師)、山本直治(元文部省・キャリアコンサルタント)、アントキの猪木、ケビン/クローン。賛成側が山本モナ、太田光総理、田中秘書、古川元久議員(元大蔵省。民主党)、前田武志議員(元建設省。民主党)、堤和馬(ジャーナリスト)、木下優樹菜、DAIGO、八田亜矢子、メッセンジャー黒田、若林亜紀。
 前にも天下り問題を同じ番組でやっているので、今イチ面白くありませんでした。
 私としては、天下りは所属官庁の人事当局が行う人事異動であって、天下る官僚の給与をカットするに等しい退職金カットをやるのは筋違いだ、という点を述べることができたので役割は果たしたと思います。
 これに対し、太田総理が、「太田さんの言うことはいつもマニアックだ」と言ったのにはガックリきました。
 なお、フリップの多くに私と似た人物のマンガが描かれており、フリップが用いられるたびに笑いを呼んでいました。
3 休憩時間
 服装はともかく、せめてネクタイくらいは変えようと思って二本目のネクタイを持参したのですが、そのことを忘れてしまい、結局同じネクタイのまま二本目の収録に向かいました。
 次の収録前に、元陸曹の須賀雅則さんと懇談。須賀さんは私の有料読者で、先般拙著も私から購入された由。著書の『自衛隊2500日失望記』(光文社。2008年2月)を贈呈されました。ただちに頁をパラパラめくってみたところ、私の物の考え方とほとんど同じでした。
4 「防衛予算を半分にします」
 14日放送のこのマニフェストについての収録は、反対が山本一太議員、秋元司議員(防衛省政務官)、品川祐、潮匡人(軍事評論家。元自衛官)、田中洋志(元自衛官)、福島和可菜(元自衛官)、羽野晶紀、武田テキサス(元自衛官(レンジャー))、松行オラキオ(武田テキサスの相方)、ケビン・クローン。賛成は森永卓郎、私、浅尾慶一郎議員(ネクスト防衛相)、渡辺周議員(民主)、木下優樹菜、安芸月ひろみ(元自衛官)、須賀雅則(元自衛官)。
 もともとの「脚本」では、私は元防衛庁、元自衛官の方々は元自衛隊員になっており、収録の冒頭、森「議長」が「6名の元自衛隊員と元防衛庁の太田さん」と紹介したことに、ちょっと経ってからクレームをつけました。防衛庁(省)と自衛隊はイコールであり、事務次官以下、全員が自衛隊員だからです。
 これはささいな、どうでもよいことと思われるかもしれませんが、一時が万事、議員やタレントの方々が余りにも防衛問題について基本的なことをご存じないので、議論は発散し続けました。
 まず、太田総理は、あたごの衝突事故を引き合いに出して、あんな自衛隊はいらない。どうせ自衛隊を持つのなら、米国とも戦えるような自衛隊にして、米国によって占領されないようにすべきであり、そうしないのなら、防衛予算をバッサリやるべきだと繰り返すのです。
 日本は既に米国に占領されている、と何度ものど元まで出かかったのですが、結局言えずじまいでした。
 本日の太田光は、いつもの生彩を欠いているように見えました。
 いや、最初の収録の天下り問題はともかくとして、日本の防衛問題について、初歩的な知識すら持っていない日本人が多く、また、勉強しようと思っても基本的なことについて情報開示がなされていないことから、太田光ほどのタレントにとってもなかなか手に負えない、ということなのでしょう。
 他方、山本一太議員は、北朝鮮のノドンの脅威を強調し、防衛予算を大幅に減らすなどもってのほかと繰り返し、他方浅尾議員は、自衛隊は、イージス艦等、守りの装備・部隊ばかり持っているところ、攻めの装備・部隊も併せ持つようにすれば、防衛予算を大幅に減らすことができると繰り返すのです。
 私はこれに対して、「(党こそ違えども、)両者とも日本の領域防衛のことしか念頭にないとは何たるレベルの低さだ。ソ連の脅威華やかりし時・・実はソ連の脅威なんてウソだったのだが・・現在の北朝鮮よりはるかに沢山のスカッド等の弾道弾を極東ソ連軍は持っていたが、これが脅威だという議論も、また、だから弾道弾発射基地を叩く攻めの装備・部隊を自衛隊は持つべきだという議論も当時なかった。要するに在来型弾頭搭載の弾道弾などさしたる脅威ではないのだ。そのソ連も今はない。領域防衛の観点からは、(核の脅威には米国の核抑止力を維持強化すれば足りることから、)現在対処すべきは北朝鮮によるテロリスト的攻撃だけだと言っても過言ではない。この脅威だけに対処するのであれば、防衛予算は半分どころか10分の1にだってできる」という趣旨の話をしておきました。
 こういった議論は、一般の視聴者には相当むつかしい議論だと思います。
 せめて、番組制作者はこういった議論だけに的をしぼるべきだったと思いますが、番組制作者は欲張りもいいところであり、出演した自衛官達それぞれに体験談を長々としゃべらせたため、話が散漫になった上、こちらの関係では、果たして自衛官は有事に命を捧げる決意があるのか、というもう一つの面白いテーマが浮上しつつも、やはり掘り下げた議論には至りませんでした。
 なお、採決の際、2回分のどちらにも出たのは私だけであったところ、勘違いしてしまって、反対の札を投じてしまいました。