太田述正コラム#2783(2008.9.11)
<皆さんとディスカッション(続x243)>
<太田>
昨日のコラム#2782「金正日重病?」(未公開)の補足です。
、「20日前から金総書記の脳の右側に軽症あるいはそれ以上の脳卒中が起き、現在意識は回復して周りとの意思疎通にも問題がないと考えられる。但し左腕と左脚がまひあるいは硬直していることから動くのは困難で、まだ完全には回復しておらず症状も残っていると推測できる。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080911000023
。9月11日アクセス)
「ところが、北朝鮮は8月26日に外交部スポークスマンの声明を通じて核施設の 無能化作業を中断し、原状復旧を考慮しているという重大措置について発表した。北朝鮮は、こうした決定がすでに8月14日に下されていたことや、同日のうちに6カ国協議の参加国に向けて通達されていたという事実も共に公開した。・・・
金総書記が倒れているにもかかわらず、声明が出され、執行されたとすれば、これまで北朝鮮の核問題をめぐる交渉について“われわれだけが不利な状況へと追い込まれるのではないか”という不満を抱き続けてきた北朝鮮軍部が直接行動を起こし、無能化中断などの措置を下した可能性がある」(
http://www.chosunonline.com/article/20080911000028
。9月11日アクセス)
<バグってハニー >
1 ネタにマジレスカコワルイ
以前、海驢さんだったと思いますけど、米英のメディアのことを大本営発表と表現していたでしょう。あれものすごく違和感があったんですよね。
太田さんがいつも言っていることですけど、太田さんがいつも読んでいるガーディアン(英)、NYタイムズ(米)は明らかに左派・リベラルで、ワシントン・ポスト(米)は両者よりはやや右寄りですけどこれも左派・リベラルです。BBCも左。要するに日本で言えば全部朝日新聞みたいなもんです。
左派メディアとはどういうことかというと自国政府に批判的で鵜の目鷹の目で失政を探しているようなメディアのことです。イラク開戦の理由とされたWMDに関しては、米英両政府の情報以外情報が不足していたせいでこれら左派メディアも結果的に誤報してしまったのですが、その後の報道を読めば、どれだけ忸怩たる思いをしているのかよく分かるはずです。ですから大本営発表という表現はなじみません。
それで、この少女と叔母さんのインタビューを流しているFOXニュースというのはものすごく右寄りです。日本で例えれば、産経新聞の憂国愛国調のエキスを搾り出して煮詰めた感じです。過去にもその偏向した保守的な報道姿勢が何度も問題になっています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Fox_News_Channel_controversies
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040725
こういう放送局があること、それを見ている米国人がたくさんいることは確かに問題なのですが、まあ米国には表現・放送の自由が保障されていますから。左があれば右もあるのも仕方ないかなと。
だから、FOXニュースの問題点を指摘する人がいたとしても、太田さんのようなまともな知識人で典拠として肯定的に引用して何かを論じる人はいません。 FOXニュースがブッシュ政権のプロパガンダじみていることは誰もが知っているようなことだからです。つまり、大本営発表という綽名はFOXニュースこそふさわしいです。
この映像はFOXニュースがプロパガンダのつもりで、気付かずに間違ったキャスティングしてしまった“ハプニング”であって、笑うところです。田中宇氏もメルマガでこのFOXニュースの“ハプニング”をまじめくさった顔で論評しているのを読んで、私は笑い転げていました。
それで、この訳は全然正確じゃないのですが、私のほうから解説しておくと、ホストは冒頭、少女がカフェにいたとき突如攻撃が始まり、少女はロシア(北オセチア側)に逃げて、そこからサン・フランシスコに帰ってきた、と解説しています。ということは、この少女は南オセチア戦争が始まったとき、おそらく「首都」ツヒンバリのオセット系の親族を訪れていた、ということです。
前から説明してますけど、南オセチアでは多数派で親露のオセット系と少数派で親グルジアのグルジア系が反目していて、町や村落に分かれて住んでいました。グルジア軍が攻撃したツヒンバリはオセット系の町です。そこから逃げてきた人たちが、助けてくれたロシア軍に感謝したり、自分達の町を攻撃してきたサアカシビリ・グルジア大統領を非難するのは当然なことであって、アホでもちょっと考えたら気付くようなことです。
どうしてブッシュのプロパガンダ放送局であるFOXニュースがそんなことさえ気付かずに放映してしまったかって?それくらい彼らはアホだということですよ。まじめに見る価値なんてないんです。
2 「Google のNews検索で「georgia russia ethnic cleansing」で検索すると、記事が沢山ヒットしま<すよ>」とのPixyさんのご指摘(コラム#2779)について
ググって出てくる大半はグルジア政府がロシア政府を民族浄化の廉で国際司法裁判所に訴えた、という記事ですね。民族浄化だと言っているんはグルジア政府であって、それを西側メディア(ノーボスチも)報道しているということですね。例
http://www.asahi.com/international/update/0908/TKY200809080336.html?ref=rss
ちなみに、西側メディアでは、この逆で、ロシア政府がジェノサイドの廉でグルジア政府の捜査を開始したことも報じられています。例
http://mainichi.jp/select/world/europe/archive/news/2008/08/16/20080816ddm007030105000c.html
しかしながら、こういう記事もあります。
http://topics.blogs.nytimes.com/2008/08/15/ethnic-cleansing-in-south-ossetia/
南オセチア指導者のココイティ氏が南オセチアにおけるグルジア民族浄化を認めた、という記事です。(ココイティ氏の発言は正確には”his people and Russian forces behind them had driven the ethnic Georgians who had been living there out and would not allow them to return”私の部下と部下を手伝っているロシア軍は南オセチアに住んでいたグルジア民族を追い出したが、彼らが帰ってくることは許さない)
これはココイティ氏がコメルサント(ロシア紙)に寄せたコメントを英訳したものです。つまり、西側クオリティ・ペーパーNYタイムズ記者は南オセチアが民族浄化を行っていると言っているのであり、ロシアに関しては直接的な表現はしていないですが、それを手助けしている、と言っています。もう少し探せば、ロシアが民族浄化を行っていると主張する西側メディアは見つかりそうです。ということで、私の前のコメントは本当に「寡聞」でした。
しかしまあ、当事者が民族浄化を行ったことを認めているわけで、同じことを西側メディアが主張したところで何も問題はないと思いますが。
<海驢>
バグってハニーさん、え~と、どのへんが「ネタにマジレス」なのでしょうか?
当方がFOXニュースのネタを投稿したのは、「悪玉ロシア」のプロパガンダをかます気満々だったのに、ロシア側のプロパガンダか?というくらいの「証言」が飛び出して慌てふためくキャスターが愉快なのと、それを「西側メディアが正しい報道をしない」例として、『米CNN』のインタビューでプーチン首相に指摘される皮肉さが面白かったから、です。
ロイターの「やらせ」疑惑についてはコメントがないようですが、英ロイターが「ロシアの悪行」を報じ、ロシアの「ブロガー」が「ロイターのやらせ疑惑」を報じる、という所を指して(コラム#2781で)「虚々実々たるプロパガンダ戦を目の当たりにする、という感じですね。」と述べたのです。
田中宇さんは当方の情報収集の範囲外なので、何を仰っているのか存じませんが、一括りにされるのは迷惑ですよ。
>以前、海驢さんだったと思いますけど、米英のメディアのことを大本営発表と表現していたでしょう<掲示板No.1395 バグってハニー>
これは、ロイターの「やらせ写真」並みの歪曲ではありませんか?
以前(コラム#2744で)、当方は、英米メディアの報道を即・事実認定することの危険性を指摘する意味で、「「米英の報道が優れている」とバグってハニーさんの仰ること(コラム#2742)は分かります・・・しかし、その「英米の報道」ですら、大本営発表の御用報道をすることがある(直近ではボスニアやイラクで)、ということを当方は問題視しているわけです。」と述べたのです。
>あれものすごく違和感があったんですよね。・・・ガーディアン(英)、NYタイムズ(米)は明らかに左派・リベラルで、ワシントン・ポスト(米)は両者よりはやや右寄りですけどこれも左派・リベラルです。BBCも左。要するに日本で言えば全部朝日新聞みたいなもんです。左派メディアとはどういうことかというと自国政府に批判的で鵜の目鷹の目で失政を探しているようなメディアのことです。イラク開戦の理由とされたWMDに関しては、米英両政府の情報以外情報が不足していたせいでこれら左派メディアも結果的に誤報してしまったのですが、その後の報道を読めば、どれだけ忸怩たる思いをしているのかよく分かるはずです。ですから大本営発表という表現はなじみません。
メディアの左右など関係ありません。情報が不足しているのに政府の情報を丸呑みして報道したわけですから、後で「忸怩たる思い」をしようがしまいが、結局は大本営発表の御用報道をして「誤報」を流したという事実は動きません。
「違和感があった」とするならば、当方の表現力不足か、バグってハニーさんの読み違いでしょう。ちなみに、「大本営発表」は大本営(転じて政府・権力・体制側を指す)が行うものであって、メディアが行うのは大本営発表の「御用報道」です。
<バグってハニー>
海驢さんへのお返事です。
>「ネタにマジレス」
にやにやしながらこのFOXニュースの動画をご覧になったというのであれば、正しい鑑賞法だと思います。
>ロイターの「やらせ」疑惑
もうちょっと自分で調べてからコメントします。一般論でいうと、だいたいどんな戦争でも報道写真にやらせは混じるものではないでしょうか。第二次レバノン戦争でも爆発による煙をもっと黒くした写真とかありましたよね。
>田中宇
海驢さんが北野氏のメルマガを紹介したときに、太田さんが田中氏よりもひどいねと言った後で紹介した田中氏による米国陰謀論の中で、このFOXニュースの出来事が紹介されています。
米に乗せられたグルジアの惨敗/田中宇の国際ニュース解説 2008年8月19日
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/4cae82d67e3964061a7dfc0eacf492ff
フォックス・ニュースは開戦直後、ツヒンバリにいた米国人少女に電話をつないで放映したが、侵攻を現場で経験した少女が、グルジア軍の侵攻を非難し、ロシア軍に謝意を表明すると、早々に電話を切り、キャスターは「戦争には、いろいろグレーゾーンがあるものです」と、少女の意見の効力を打ち消すコメントで話をまとめた。オセチア人は皆、親露反グルジアなのだから、オセチア系と思われるこの少女が、親露反グルジア的な意見を言ったのは当然なのだが、反露プロパガンダ装置と化した米マスコミとしては、視聴者にその事実を知らせるのはまずいというわけだった。
―――
別にFOXニュースは戦争とは関係なく常に反露プロパガンダ装置なんですけどね。田中氏はそれにも関わらず「米マスコミは…全体としてのバランス感覚は残しつつ、微妙に反露的な姿勢となっている」という結論になるんだそうです。迷走していてなかなか愉快なくだりです。前後も合わせて読むことをお勧めします。
>大本営発表の御用報道
これはちゃんと読んでなかったです。失礼しました。「大本営発表の御用報道」というのは、「情報が不足しているのに政府の情報を丸呑みして報道した」「誤報」のことを指すのですね。
しかしながら、それがボスニアや南オセチアとどういう関係にあるのかわかりません。「情報が不足しているのに政府の情報を丸呑みして報道した」「誤報」とは具体的にどの記事を指しているのでしょうか。ボスニアや南オセチアでは情報不足のせいで米英政府の発表だけを報道していたわけではないですよね?西側メディアは実際、南オセチアに入って取材してますよね?ロシア軍にもインタビューしたり、帯同したり。イラクからはWMDは出てこなかったですけど、セルビア側が虐殺を行っていたこと、南オセチアからグルジア系住民が追い出されたことは事実であって誤報ではないし、特に米英政府の発表を基にした報道ということでもないですよね。コソボに関しては木村愛二氏に言及した箇所がありましたけど、読む気になれなかったです。
政府発表の報道を信じるな、という話でしたらなにも米英メディアに限った問題でもないと思うのですが。このCNNのインタビューも、ロシア政府の立場をその代表者であるプーチンが一方的に説明しているだけですよね。それで海驢さんはプーチンの主張が間違い・誤報である可能性等なんら指摘せず単に紹介しているだけですよね。米英メディアが報じる米英政府の発表は誤報の可能性があるというのに、米英メディアが報じるロシア政府の発表は特に留保を付けなくてよい、というのであれば著しく不公平だと思うのですが。
<太田>
プーチン前大統領の下で2000年から2004年までロシア首相を務めたカシヤノフ(Mikhail Kasyanov)氏が、完全に欧米側の視点に立った現ロシア政府のグルジア政策批判を行っています(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-kasyanov10-2008sep10,0,1557052,print.story
。9月10日アクセス)。
ご参考まで。
<コバ>
太田さんは小池議員が自民党に属していることについてはどう思いますか? 小池首相が誕生しても、やはり自民党系議員として、天下りや談合には目をつぶった官僚機構の走狗となるように思えますが…。(コラム#2761参照)
<太田>
女性政治家は、現在の日本においてはとりわけ大きなハンデを負っているのですから、小池氏のように、自分の存在を最もよくアピールできる政党を渡り歩くことも、私はやむをえないと考えています。
彼女が自民党で総裁選に立候補するところまで漕ぎつけることができたのは大したものです。
皆さんにも、女性政治家、特に小池氏ののように国際感覚の豊かな女性政治家は、暖かい目で見守っていただければと切に思います。
<ロスマク>
アメリカで産まれて今日でも多くの作品とファンが存在するハードボイルド小説における女性観についてはどう思われますか?
<太田>
コラム#2734で、「私は20代でフィクションを鑑賞するのを止めてしまった」と申し上げたところです。
一つその女性観とやらをご紹介いただけませんか。
<kobutan>
いつも楽しみに太田さまのブログを読ませていただいています。いつも読むだけなのですが、初めて書き込みをさせていただきます。
デザインが一新されしばらく経ちました。随分と新デザインに慣れては来たのですが、以前と比べて一行の文字数が少ないため改行が多く、とても目が疲れます。太田さまのブログはどれも読み応えがあるだけに、何度も読み直しているうちにぐったりすることが多くなりました。ちなみに私は41歳。まだそんなに年をとっているほうではないと思うのですが、もしできるのでしたら一行の文字数を増やしていただけましたら、とっても嬉しいです。無料読者の勝手なお願いですが、ご検討いただけましたら幸いです。
文字数が増えましたら、その時に銀行に振込みに行きます(笑)。
<太田>
最後のセンテンスの非論理性に笑っちゃいましたが、それにしても、タテジマさん、何とかなりませんか。
それから、そろそろブログの最初の頁での東村山事件への言及、止めにしましょうよ。
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太田述正コラム#2784(2008.9.11)
<マケインの逆襲(その1)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x243)
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