太田述正コラム#14256(2024.6.5)
<板垣退助『立國の大本』を読む(その1)>(2024.8.31公開)

1 始めに

 また、新たにGHQ禁書のKindle版の表記を買いました。
 実は、今回のGHQ禁書シリーズ群を書き綴っている間に、長文をコピペすると、(今でも長ったらしいクレジットが表示されますが、)「概ね」一文字ずつ空けて表示されてしまい、空白部分をつぶすのに大変手間がかったのが、空けて表示されなくなるという大きな変化が起こり、これまで事実上できなかったところの、長文のコピペができるようになったことで、Kindle版電子本の使い勝手が格段に向上したことも、引き続いてのKindle版使用を私が決断した理由の一つです。
 なお、著者の板垣退助(1837~1919年)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BF%E5%9E%A3%E9%80%80%E5%8A%A9
については、改めて紹介する必要はないでしょうが、「西郷隆盛 -「今、20万の兵を率いて海外と勝負できる者は、板垣のほかにはおらぬ」川上操六(陸軍大将) – 「若(も)し板垣伯が、軍人たる道を全(まつた)うされたなら、必ず元帥となつてをられたでせう」 海音寺潮五郎 -「西郷隆盛をして『板垣さんは恐ろしいお人よ』と言わしめた稀代の<(調略を含む(太田)>軍略家」」という板垣評(上掲)、に、注意を喚起しておきたいと思います。
 で、なぜ、今回、板垣本を取り上げたかですが、現在執筆中の部外用講演原稿中で彼を登場させていること、と、1919(大正8)年という早い時期に亡くなっている人物の床中の口述筆記が死後上梓された、という古い本をGHQが禁書指定したことにも興味があったからです。

2 『立國の大本』を読む

 「・・・国家の目的は、・・・人間をして神の賦与したる自覚自動の能力を発揮し、其個人性と社会性とを調和して、充分に其発展を遂げしむる為めに、之を保護し助成するに在り。
 ・・・而して国家はこの目的を遂達せんが為めに、秩序と統一を保持するの必要あり。
 この秩序と統一を保持するの必要よりして、茲(ここ)にまた最高権を設定するの必要を生ず。
 即ち国家を代表し、国家の天職を以て自己の天職と為し、国家に代りて其秩序と統一を保持する所の、主権者別言すれば元首これ也。・・・

⇒元首はどこの国にもいます・・戦後日本のように元首が、対外的にはともかくとして、存在しないケースは例外中の例外です・・が、主権は、君主国でも、基本、国王にあるものの、イギリスのように議会にある場合もありますし、非君主国では国民にある、ということから、板垣の、元首=主権者、論は誤りです。(太田)

 主権者を設定するの方法は、・・・禅譲<もあれば、>・・・投票<の場合もあり、>・・・<また、>其在任の期間を定め<ない場合もあれば、在任について、>・・・一定の期間を限る<場合もある。>・・・
 君主国に在ては、或は征服によりて其地位を得たるものあり。
 或は人民が君主を擁立するの形式を執れるものあり。
 之に反して我が日本帝国の如きは、一個の民族を以て一個の国家を組織し、皇室は即ち民族の宗家として、先天的に其天職を行ひ、人民も亦た民族の族長として皇室を奉戴し、斯くて一個の家族的国家を現出し、其主権者は何人の推薦をも須(もち)ひず、建国の始めより歴史的に決定し、一君万民、両々相和して、世界に比類なき理想的君民同治の國體を鋳成せり。
 これ日本の國體の世界万邦と相異なる所以也。」(11~14)

⇒古事記や日本書紀における神話的記述ではそうなっているとはいえ、史実として、いかなる経緯で最初の天皇が即位に至ったかは不明であるところ、板垣が、神話的記述を史実だと信じていたのか、それとも、政治的配慮でこう表現したのか、定かではありません。(太田)

(続く)