太田述正コラム#14308(2024.7.1)
<大川周明『大東亜秩序建設/新亜細亜小論』を読む(その15)>(2024.9.26公開)
「・・・この戦争に従軍し、最初に日本に上陸せるロシア捕虜を見るために雲集せる日本人の態度を目撃せる一フランス記者<の>・・・ルネ・ピノン・・・は、その著『太平洋の争覇権』<(注27)>の中<で、>・・・下の如き警告を・・・与えている。
(注26)René Pinon(1870~1958年)。[famous French publicist, lawyer, historian, journalist and Armenophile<.>] ‘ author of numerous books and chronicles on international relations between the early twentieth century and the Second World War.’
http://www.genocide-museum.am/eng/Rene_Pinon.php ([]内)
https://fr.wikipedia.org/wiki/Ren%C3%A9_Pinon 仏→英(Google翻訳)
(注27)La Lutte pour le Pacifique – Origines et résultats de la guerre russo-japonaise, Paris, éd. Perrin, 1906(上掲)
–『現代ヨーロッパは、日露戦争の教訓を学ぶ用意なく、またこれを理解もしない。その日暮らしの政策に満足し、総合的識見即ち精神主義を無視し、目前の利益に安心し、遠大の計画を樹て得ないのが、現代ヨーロッパの本質よりくる当然の結果である。今日のヨーロッパにおいて、何処に協同の原理を求め、何に協力の基礎を置くことが出来るか。余りに多くの異なれる利害関係、余りに多くの相容れざる野心、余りに根強き嫉妬憎悪、余りに跋扈する魂なき人間、これらのものが相結んでヨーロッパ精神の真個の声を葬る。日本の実力は、その連隊と軍艦とに存せず、実にヨーロッパの不和に存する。然り、ヨーロッパ諸国に眼前の利害を超越せる一個の理想なきこと、共同の感情にその胸を躍らしめ得ざることに存する。まことの黄禍は実に潜んで吾らの衷〔心の中〕にある』
⇒ピノンの念頭にあった「ヨーロッパ」はロシア亜文明、欧州文明、アングロサクソン文明、米国文明、から構成されている地域であったと想像されるところ、その最大公約数は人々の大部分がキリスト教徒であることとゲルマン系が支配層であること、という二点くらいなので、ラテンアメリカ亜文明もつけ加えてもよいわけですが、これら地域に「眼前の利害を超越せる一個の理想<とか>・・・共同の感情<とか>」がある筈がないのであって、土台、ピノンの書いたことはナンセンスです。(太田)
日露戦争以後のヨーロッパは、まさしく<彼>が憂えたる方向をとりて進み、遂にその後10年ならずしてヨーロッパ大戦の勃発を見るに至った。・・・
⇒地理的意味での西欧(含ロシア)に話を限定するとして、この地域において、ヨーロッパ協調下で(普仏戦争等はあったものの)、ウィーン会議以後第一次世界大戦まで、100年弱にわたって比較的平和が保たれてきた
https://kotobank.jp/word/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E5%8D%94%E8%AA%BF-1214276
ことの方が奇跡に近かったのであり、このような大川の総括の仕方は間違いです。(太田)
ヨーロッパ大戦は実にヨーロッパ覇権没落の前提となった。・・・
ヨーロッパの前途を悲観する幾多の著書が、相次いで公けにされるに至った。
試みにその二三を挙ぐればストッダード<(注28)>の『有色人の昂潮』<(注29)>、ミュレの『白人の黄昏』、グレゴリの『有色人の脅威』、ドマンジョン<(注30)>の『ヨーロッパの衰頽』<(注31)>、ライスの『アジアの挑戦』、ラパートの『黄禍論』、シュペングラーの『西洋の没落』<(注32)>」等がある。」(26~28)
(注28)Theodore Lothrop Stoddard(1883~1950年)。「アメリカの歴史家、ジャーナリスト、政治学者、陰謀論者、白人至上主義者、白人民族主義者<、>・・・クー・クラックス・クランのメンバー<、>・・・アメリカ優生学協会のメンバーであり、アメリカ出生コントロール連盟の創設メンバー(マーガレット・サンガーとともに)、理事であった。・・・<また>、ドイツのナチス政権に影響を与えた。彼の著書『文明に対する反乱』。The Menace of the Under-man (1922) は、Untermensch・・・という言葉をナチスの人種に関する概念に導入した。」
https://navymule9.sakura.ne.jp/Lothrop_Stoddard.html
(注29)The Rising Tide of Color Against White World-Supremacy<,>・・・1920(上掲)
(注30)Albert Demangeon(1872~1940年)。’<A> Professor of social geography at the Sorbonne in Paris for many years. He was an educator, a prolific author, and in the 1930s was the leading French academic in the field of human geography. He was a pioneer in the use of surveys to collect information on social questions.’
https://en.wikipedia.org/wiki/Albert_Demangeon
(注31)Le déclin de l’Europe<,>・・・1920
https://archive.org/details/ledclindeleuro00demauoft/page/n9/mode/2up
(注32)「ドイツの哲学者シュペングラーの歴史哲学論<。>2巻からなり,第1巻は1918年,第2巻は1922年刊。1911年の第2次モロッコ事件のとき,世界大戦を予想して書いたといわれる。世界文明を8〜9に分類・対比し,それらがたどる段階(生成 → 成長 → 成熟 → 老衰 → 消滅)を調べて,その文明の住置づけをした。その中で,西洋のキリスト教文明はすでに終末に近づいていると指摘し,大きな反響をひき起こした。」
https://kotobank.jp/word/%E8%A5%BF%E6%B4%8B%E3%81%AE%E6%B2%A1%E8%90%BD-86568
(続く)