太田述正コラム#14394(2024.8.12)
<杉浦重剛/白鳥庫吉/松宮春一郎『國體真義』を読む(その10)>(2024.11.7公開)
「・・・我が國の人々が、共同して事をなしがたいといふことは実に歎息すべきことである。
今その原因を調べてみるに、他にも種々あるであらうが、先づ第一に徳川幕府の政治の仕方に大きな影響を受けてゐるやうに思はれる。
徳川幕府の時分にはこの日本の国を出来るだけ多くに分割するやうにしてゐたから、人々の心が一つにまとまらず、その結果が今日に及んで来たのである。・・・
もう一つは人間に階級をつけて、士農工商とし、農工商に従事してゐる者はすべて一国の公事に関係することを許さず、公事はすべて士族がするといふことになつてゐたのが、明治維新以後になつてはさうでなくなつて、四民平等の世の中となり、すべての人は皆平等の権利義務をもつ、純粋な国民となつたが、今までの階級制度が今日の国民をして、急に協同一致せしむることの出来にくい原因をなしてゐるのである。・・・
⇒杉浦が、日本人を集団主義的でないとしたのは慧眼ですが、その原因を徳川幕府の政策にだけ求めたのはいかがなものかと思います。(太田)
つまり道徳心を養成するより外に仕方がない。
法律上の制裁を受けなければ、何をしてもかまはないといふやうな心を持たないやうにしなければならぬ。
これまでの日本の道徳は主に漢学と仏学とで維持せられてゐたが、今後は如何なるものを以つて道徳を維持したらよいか。
かの基督教も到底道徳を維持するやうな勢力を得ることは覚束ない。
然らばどうしたらよいか。
こゝに何か一つ拵へなくてはなるまい。・・・
⇒杉浦は、日本人の大部分に備わっているところの、人間主義なる本源的道徳性に気付いていません。(太田)
我が国の政体が、昔から所謂祭政一致であつて、如何にも単純に、如何にも平易に且つ国内を統べ治めるに便利なことは、世界にその比を見ない所である。・・・
昔からのヨーロッパの国々の歴史を調べて見ると、宗教の為に政治の上に大変乱が起つたことは、殆ど数ふるに遑まのない程であるが、幸に我が国では、開闢以来、宗教の為に国中が一般に大害を受けたといふ例はなかつた。
これは全く我が国が、大昔祭政一致と云ふ単純な制度を以つて、国を建てたその結果に外ならない。・・・
この我が国民がもつてゐる、一種特別の精神こそ、世間一般でいふ大和魂であつて、我が国風を形付る最も光輝ある最も必要な原素である。・・・
或人の歌に敷島の大和心を種として、よめや人々異国のふみ<(注3)>と云ふのがある。
(注3)この和歌と出だしが同じで、かつ有名な和歌に、本居宣長の「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」というのがある。
「歌の「大和心」というのは、広く「日本人の心」のことです。・・・「10月20日(注略)神風特別攻撃隊24機(うち特攻機は13機)は「敷島隊」「大和隊」「朝日隊」「山桜対」と名付けられた<は、>・・・<この歌>にちなんだものである<、>と大岡正平が記しています。」
https://tankanokoto.com/2021/11/motoori.html
全くこの心掛けが必要である。」(49~50、53~56)
⇒祭政一致がどうして大和心なのかはさっぱり分かりませんし、そもそも、杉浦は、大和心=大和魂=人間主義、であることに毛ほども気付いていなかったわけです。(太田)
(続く)