太田述正コラム#14438(2024.9.3)
<映画評論119:赤い闇 スターリンの冷たい大地で>(2024.11.28公開)
1 始めに
昨日、Amazon Primeで映画を物色したところ、そそられるのがなくて、2巡目にしょーがないという思いで鑑賞したのが表記の2019年の映画です。
「原題:Mr. Jonesは、2019年のポーランド・ウクライナ・イギリスの伝記映画<で、>・・・1930年代、スターリン時代のソビエト連邦に決死の潜入取材を敢行した実在のイギリス人ジャーナリストガレス・ジョーンズの姿を描く。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%84%E9%97%87_%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%86%B7%E3%81%9F%E3%81%84%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E3%81%A7:α
https://en.wikipedia.org/wiki/Mr.Jones(2019_film):β
という映画でしたが、あにはからんや、デュランティNYタイムス・モスクワ支局長も重要な役割で登場する(α)ところの、ウクライナでの1930~33年の400万人前後が犠牲になったホロドモール
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB
を世界で最初に報道した人物の話であり、私にとっては大当たりでした。
2 ワルター・デュランティ
デュランティ(Walter Duranty。1884~1957年)が、もともとはイギリス人であってケンブリッジ大卒、というのは意外でした。
「日本のユニークさと普遍性–世界史の観点から(続)」の中でもとりあげたこのデュランティの長期にわたるスターリン主義礼賛虚報群によって、ローズベルト政権が動かされ、米ソ国交樹立が1933年にもたらされた、と、言っても過言ではありません。
https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Duranty
もちろん、このことについては、彼の記事を掲載し続けたNYタイムスも、彼にピュリツァー賞を与えたところの、「新聞出版業で財を成したハンガリー生まれのアメリカ人、ジョーゼフ・ピューリツァーの遺志に基づいて1917年に創設され、・・・ニューヨーク市のコロンビア大学・・・運営<の>」ピューリッツァー賞理事会
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%BC%E8%B3%9E
の責任もまた大きいと言わなければなりますまい。
3 ガレス・ジョーンズ
肝心の、ジョーンズ(Gareth Jones。1905~1935年)についてですが、ウェールズ生まれであり、父親は小学校の校長で、母親は、ウクライナの現在ロシア占領下にあるドネツク(ドネツク州の首都)・・ウェールズの鉄鋼業者が作った・・でその業者の家庭教師を務めたことがあった人物であり、最終的に、デュランティと同じケンブリッジ大を卒業したところの、仏独露語の達人です。
彼は、元首相で下院議員だったロイド・ジョージの秘書を務めた後フリーランスのジャーナリストになり、ヒトラーを取材した後、1930、31、33の都合3回ソ連入りをして取材し、タイムス、ガーディアン、ニューヨーク・イブニングポスト、等にホロドモールを報じる記事を書き続け、その結果、ソ連への再入国は不可能になります。
このため、彼は、取材対象を極東に変更し、1934年に日本、北京を経て内蒙古入りをし、徳王(デムチュクドンロブ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%83%96
へのインタビューを行うも、その後、山賊に捕まり、身代金を要求され、日中両政府の努力にもかかわらず、ジョーンズは銃殺された遺体で発見されるのです。
この殺害がソ連のNKVDによるという説や、日本によるという説があるといいます。
https://en.wikipedia.org/wiki/Gareth_Jones_(journalist)
デュランティのようなジャーナリストなら戦後日本のジャーナリストにもいそうですが、ジョーンズのようなジャーナリストは、戦前も含め、皆無なのではないでしょうか。
軍人や探検家はもちろんですが、ジャーナリストも、本来、弥生人ないし縄文的弥生人がなるのが最適任なのかもしれませんね。