太田述正コラム#14602(2024.11.25)
<浜口恵俊『間人主義の社会 日本』を読む(その6)>(2025.2.20公開)
「・・・<昭和>56年<(1981年)〉夏以来、故大平総理が設定した政策研究会の報告書が、各グループごとに9冊刊行された。・・・
ここでは、その中の2冊(『文化の時代の経済運営』『科学技術の史的展開』)を取り上げて、日本の組織原理とそれを解明するための方法論を検討する手掛かりにしたい。・・・
実質的な経済成長を続けるにはどのような経済運営をはかればよいのか<、について、>・・・<前者の報告書>が結論として見いだしたのは、日本の「文化的特質に十分に配慮することが必要であり、有用である」という、ある意味ではきわめて平凡なことでしかなかった。・・・
⇒日本の政府や企業等が「配慮する」しないに関わらず「日本の「文化的特質」」から日本国内の企業等は逃れることなど事実上不可能である一方で、日本が「実質的な経済成長を続ける」ためには、日本を米国から独立させて再軍備し、主体的に戦争を行ったり行わなかったりの意思決定ができるようにする必要があるのであって、それをやらない限りは日本政府は脳死し、企業等も成長しなくなってしまう、ということを、この報告書は「結論として見いだ」さなければならなかったのであり、この報告書は、後出しジャンケンではないか、という誹りは甘んじて受けますが、落第答案であったのです。
(もちろん、私自身の「「日本型」経済体制論」も、この報告書と結論部分においては大同小異であるところ、その限りにおいては同じく落第答案であった、と言わなければなりません。)(太田)
日本は幸いにも、「豊かな社会」がもたらした多くの社会=経済的病理現象、すなわち、いわゆる「先進国病」<(注6)>にかからずに済んでいる。・・・
(注6)「成熟した資本主義国において、出生率の低下による社会の高齢化、社会保障費の膨張、産業の空洞化による失業率の上昇などを背景に低成長が続くこと。」
https://kotobank.jp/word/%E5%85%88%E9%80%B2%E5%9B%BD%E7%97%85-678649
⇒失業率(注7)を除けば、現在の日本が深刻な「先進国病」にかかっていることは明らかであり、この前者の報告書がかくもひどい間違い・・書かれた当時にはそう見えたということは全く言い訳にはなりません!・・を書いてしまったのは、「実質的な経済成長」の最大かつ根本的な要因を前述のように見誤っていたからです。(太田)
(注7)「日本の失業率は、2.60%で167位となっている。G7のなかで失業率はいちばん低い。」(2024年10月10日付記事より)
https://eleminist.com/article/3737
<この>報告書によれば、「人間」を中心に据えた日本の経済運営は、長期安定雇用制と年功序列制に具現化されているが、「この両者の巧みな組み合わせによって、『なかま』的組織体の内部に、連帯感、安心感の上に立った昇進競争のダイナミズムと組織体の活力を生み出してきた」とされる。
しかもその日本型組織は、互いにからみ合った人脈としてのリゾーム(根茎)構造をもち、その構成員は、「柔軟な職務構造の下で、組織目標の達成のために協力して働いていくのである」。
このような日本の構造特性が時代の要請にマッチすることは確かであろう。
欧米において近代化を支えていた「個(人)」は、今や孤独で疎外された「個」に成り下がっており、社会の活力を低下させ「先進国病」にかからせる原因ともなった。
こうしたことから欧米では、「個と個」「個と全体」の関係を重視して、人間性を組織の中で回復させようとする考え方が出てきた。
だが日本の組織風土の中には、人と人との間柄を大切にする価値観が、もともとそなわっている。
日本の組織形態がこれからのモデルとなりうるのもむべなるかな、というわけだ。」(15~17)
⇒1982年に発足した中曽根内閣の頃から、自民党政権は、宗主国米国の指導の下、新自由主義経済政策を採用してきており、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9
その結果として、例えば、派遣労働者が増大し、大企業においては「長期安定雇用制と年功序列制」
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4cc3f7db915f43759b3293fb36021b436dd7e333
が崩れつつあります。
「日本の組織形態がこれからのモデルとなりうる」ことはついになかったわけです。(太田)
(続く)