太田述正コラム#3116(2009.2.24)
<アカデミー賞報道(その1)>(2009.4.6公開)
1 始めに
今年のアカデミー賞について、各国の主要メディアがどのように報じているかをご紹介しましょう。
2 韓国と中共
「・・・日本とアカデミー賞の関係は50年以上の歴史がある。既に1950年代に外国語映画賞の前身である名誉賞に『羅生門』(黒沢明監督)など3作品が選ばれたほか、2002年には長編アニメ賞に『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)が選ばれるなど、日本はアカデミー賞で複数の受賞歴がある。・・・一方、韓国作品では1991年に申相玉(シン・サンオク)監督の『真由美』が出品されるなど、複数の作品が挑戦したが、一度もノミネートすらされていない。今回出品された金泰均(キム・テギュン)監督の『クロッシング 祈りの大地』も同様だった。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090224000028
(2月24日アクセス。以下特に断っていない限り同じ。)
例によって自虐的な持ち上げ方をしていますね。ノーベル賞とアカデミー賞のどちらかを早く韓国も受賞して欲しいものです。
「第81回アカデミー賞の受賞作品が米国西部時間の22日発表され、滝田洋二郎監督の「おくりびと」が外国語映画賞を受賞した。日本映画の受賞は54年ぶり4度目の快挙。日本の短編アニメ「つみきのいえ」も短編アニメ賞を受賞した。・・・
「スラムドッグ$ミリオネア」が予想通り8つの「オスカー」を獲得したのに対し、「おくりびと」の受賞は人々の予想を反し、今年のアカデミー賞最大のブラックホースとなった。・・・」
http://j.peopledaily.com.cn/95952/6599968.html
日本ヨイショに精を出している中共当局の意向を受け、またまた肩に力の入った長文の記事を掲げた人民網。独自取材ネタも載っています。
2 米国
「・・・スター抜きの、部分的に字幕付きの地球を半回りした世界からやってきた映画<「スラムドッグ$ミリオネア」がアカデミー賞を受賞したのは>依然息をのむような話だ。・・・
英国人の監督の、インド人の俳優達の、そしてフランスからも資金提供を受けた映画がオスカーを8つもとったことの意味するものは理解するに難くない。・・・
<もっとも、>「スラムドッグ」はどこか他の場所で魔法で創り出されたかもしれなが、そのDNAは骨の髄までハリウッドだ。・・・
そして、この映画の出所についてはまだ話があるのだ。短編ドキュメンタリー分野で受賞した、「微笑めピンキ(Smile Pinki)」もまた、インドで撮影されたのだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/02/24/movies/awardsseason/24bagg.html?8dpc=&_r=1&pagewanted=print
「・・・<「スラムドッグ」で>作家のサイモン・ビューフォイ(Simon Beaufoy)は・・・ヴィカス・スワラップ(Vikas Swarup)の小説をもとにした脚本で・・・脚本賞を受賞した・・・。・・・
<この映画を>米国で配給したフォックス・サーチライト(Fox Searchlight)社にとって配給映画が最優秀映画賞を授与されたのは初めてのことだ。・・・
主演女優賞は、「The Reader」で十代の若者と恋に落ち、後に自分がホロコーストで果たした役割を隠蔽したドイツ人女性を演じた<英国人の>ケート・ウィンスレットに与えられた。・・・
助演女優賞が「ヴィッキー・クリスティーナ・バルセロナ」に出演したペネロープ・クルスに与えられた後、彼女はスピーチをスペイン語で行い、楽屋でこれはスペインの俳優達やスペインの人々に捧げられたものだと語り、映画は米国の物語の枠外へと成長して行くべきことを示唆した。「我々はすべて混ざり合っており、このことが映画に反映されなければならない」と彼女は語った。・・・
「スラムドッグ」が一本の映画で獲得した8つのオスカーは、2004年に「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」が11個のオスカーを獲得して以来の最多記録だ。・・・
<授賞式の>数少ない驚きとして、最優秀外国語映画賞が「おくりびと(Departures)」・・日本からやってきた、失業したチェロ奏者についての物語・・に与えられたことが挙げられる。予想者の多くは、イスラエルのアニメ<入り>物語であるところの、同国の過去のレバノンでの戦争を描いた「Waltz With Bashir<(邦題は「戦場でワルツを」。コラム#3107参照)>」がこの賞をとるものと見ていた。・・・
自分の口蓋断裂(cleft palate)を直す物語であるところの「微笑めピンキ」を演じたピンキ・ソンカール(Pinki Sonkar)も<「スラムドッグ」に出演した子供達>同様、インドからやってきた子供だった。この映画は短編ドキュメンタリ部門で受賞した。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/02/23/movies/awardsseason/23oscar.html?pagewanted=print
ここで、注意すべきは、「スラムドッグ」は、英国で制作されたところの、監督も英国人の英国映画であるという点です。
より正確にはこの映画は、舞台がインドの、英連邦、というか「英帝国」映画であると言うべきでしょうか。
主演女優賞が英国人のケート・ウィンスレットに与えられたことと併せ考えると、英語圏における、アカデミー賞主催国米国・・映画の国米国・・の不振、英国の活躍、という見方もできるのかもしれません。
もう一つ顕著なのは、インドと日本が脚光を浴びたことです。
インドの場合は、高度経済成長が続くけれどまだまだ発展途上国であるところのインドの陽と陰がインスピレーションを英米の映画関係者に与えている、ということでしょうし、日本の場合は、日本のソフトパワーの全般的充実が映画面でも現れた、ということなのでしょう。
(続く)
アカデミー賞報道(その1)
- 公開日:
太田閣下の映画論評も達者で関心した次第でありまする。
今度機会があれば「お笑い」についても太田閣下の論評を見たい次第でありまする。