太田述正コラム#14668(2024.12.28)
<木村敏『人と人との間』を読む(その1)>(2025.3.25公開)
1 始めに
今度は、浜口恵俊『間人主義の社会 日本』内での言及からその存在を知り、既に部分的には取り上げてきているところの、木村敏(コラム#14596)の『人と人との間』(1972年)、を、シリーズで取り上げます。
2 『人と人との間』を読む
「・・・ドイツ人は・・・、けっして「われわれドイツ人は」というような言い方をしないのだそうである。
「ただし、ヒットラーの時代とか、東西ドイツの統一問題にからんだ政治家の発言ならば別だがね」、と<、そのドイツ人>はいった。・・・
⇒語るに落ちたのはこの「ドイツ人」の言でしょう。
反論するには、例えば、英国には、『われわれ英国人(WE BRITISH)』という本があって、
https://archive.org/details/webritish0000marr
その中で、著者のAndrew Marr が ‘explores British history and identity through poems’ を行っている、
https://www.bbc.co.uk/sounds/series/b06h40h7
という一例を挙げるだけで十分ではないでしょうか。
要するに、ドイツにはナチスドイツという悪のイメージがこびりついてしまっているため、戦後のドイツ人は、「われわれドイツ人は」という言い方をするのを躊躇してしまうところ、そのことを直截的に明かしたくないので、他国人が「我々〇国人」と言おうものなら、とりわけそれが「アーリア民族」以外から発せられた場合は、それにイチャモンをつけても不思議ではない、と、私は思うのです。(太田)
<いずれにせよ、>「われわれ日本人」に表わされている日本人の集合的アイデンティティー<は>、西洋人のそれと違って個人的レベルのものではなく、超個人的な血縁的、それも血縁史的なアイデンティティーであるということ、これが・・・最初に押えておきたい一つの眼目である。
この血縁史的アイデンティティーは、実に多くの「日本固有」の現象を説明する鍵になる。」(2、12)
⇒「<「日本固有」の>血縁史的なアイデンティティーは、実に多くの「日本固有」の現象を説明する鍵になる」というのは、木村の思い込み的謬見です。
上述したAndrew Marrの『われわれ英国人』本は英国史と英国人のアイデンティティを探求する内容ですからね。
これぞ、「血縁史的なアイデンティティー」が「日本固有」でもなんでもない証左です。
木村は、。「ミュンヘン大学精神科(1961 – 1963)<と>ハイデルベルク大学精神科(1969 – 1971)」に勤務的留学経験らしきものがあり、「1981年 西ドイツよりシーボルト賞<、>1985年 スイス・エグネール財団よりエグネール賞<、>1999年 国際哲学・精神医学学会表彰(フランス・ニース)、を受けている、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E6%9D%91%E6%95%8F
といった具合に、欧州文明とは大変ご縁はあっても、アングロサクソン文明とすら無縁であったようであり、海外について極めて偏った認識を持つに至った可能性があります。
その結果、欧州文明に関してさえ、自分にとって都合がいい部分だけをつまみ食い的に認識しているのではないか、そんな人物に西洋(欧米)全般について断定的なことを言って欲しくない、と、私は思うのです。(太田)
(続く)