太田述正コラム#3180(2009.3.28)
<テポドン狂騒曲(その1)>(2009.5.12公開)
1 始めに
 表記について、事実関係を押さえた上で、それぞれについて所見を述べ、最後に総括をしたいと思います。
2 事実関係
 「北朝鮮が長距離弾道ミサイル「テポドン2」とみられる機体の発射準備を進めていることを受け、政府は27日、<本来開く必要のない>安全保障会議(議長・麻生首相)を開き、ミサイルが日本の領土・領海に落下する場合に備え、自衛隊法に基づく「弾道ミサイル破壊措置命令」を初めて発令することを決めた。これを受け、浜田防衛相は自衛隊に対し、破壊措置命令を発令した。
 発令は4月10日まで。北朝鮮は4月4~8日の午前11時~午後4時の間に、「人工衛星を運搬するロケット」の発射を予告している。
 河村官房長官は安保会議後の記者会見で「通常は領域内に落下することはない」との見方を示したうえで、「国民には通常の生活を送っていただきたい。万万が一に備え警戒態勢をとる」と述べた。
 破壊措置命令には(1)「日本に飛来する恐れがある」時に閣議決定を経て防衛相が命じる(自衛隊法82条の2第1項)(2)「日本に飛来する恐れがあるとは認められない」が、事態の急変に備え、あらかじめ防衛相の判断で原則非公表で命じる(同第3項)――の2種類がある。
 政府は今回、飛来する恐れは認められないが、「事故が発生したら≪・・ミサイルの1段目は正常に飛行した後、2段目が故障し、失速して・・・落下するなど、偶然が重なる、極めて限られたケース<だが>・・≫<日本の領土・領海に>落下する場合がある」(河村氏)と判断し、3項を選択。河村氏は非公表としてきた3項による破壊命令を公表した理由について(1)北朝鮮の事前通知があった(2)国民の不安を和らげるためできるだけ説明する必要があった――の2点を挙げた。
 迎撃や情報収集に備え、政府はイージス艦「ちょうかい」「こんごう」の2隻を日本海に、イージス艦「きりしま」を太平洋に配備する。日本海に配備される2隻は、迎撃用の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載済み。
 迎撃用の地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)は首都圏とミサイルが上空を通過するとみられる東北地方の計5カ所(陸上自衛隊の秋田、岩手、朝霞各駐屯地、航空自衛隊の習志野分屯基地、市ケ谷基地)に配備する。・・・」
http://www.asahi.com/politics/update/0327/TKY200903270033.html
(ただし、≪≫内は
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090327-OYT1T01328.htm
による。3月28日アクセス。以下同じ。)
→米軍は三沢、首都圏、沖縄本島に駐留していますが、最初の2箇所を航空自衛隊のPAC3で、最後の1箇所については、嘉手納地区に配備されている米陸軍のPAC3
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%ABで対処する、ということです。これは、テポドンならぬ、ノドン(後述)が一部核弾頭付(?)で日本の米軍基地めがけて撃ち込まれる場合を想定した大規模演習をやろうというわけです。(太田)
 「<残骸を撃墜しても破片が散らばるだけではないか、との質問に対し、>・・・浜田靖一防衛相も「そのまま落ちてきた方が被害は大きい。宇宙空間で当たれば燃え尽きてほとんど落ちてこない。まず破壊することで規模を小さくするのが重要だ」と強調し、理解を求めた。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090326/plc0903261851015-n1.htm
→爆弾を積んでもいないミサイルないしその残骸を撃墜するなんてそもそもばかげています。あてられた側の破片が生じるだけでなく、迎撃ミサイルの破片も生じますし、一発必中とはいかないので、複数の迎撃ミサイルの破片が降り注いできます。迎撃ミサイルが命中ないし爆発した高度にもよるでしょうが、そのかなりの部分は、燃え尽きずに地上に落下すると考えられます。もっと政府は丁寧に説明すべきです。(太田)
 「・・・政府筋は23日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合に備える日本のミサイル防衛(MD)システムについて、「(事前予告がなければ、ミサイル発射から)7、8分たったら、浜田靖一防衛相から麻生太郎首相の所に報告に行ったら終わってる」と述べ、政府内での迎撃手続きに時間がかかると、撃ち落とすチャンスがなくなるとの見方を示した。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090324/plc0903240020000-n1.htm
 「・・・河村建夫官房長官は24日午前の記者会見で、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合に備える日本のミサイル防衛(MD)システムに関連し、政府筋が「いきなり撃たれたら当たらない」と発言したことについて「政府としては国民の安全を確保することに最善を尽くす。そういう懸念は持っていない」と強調した。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090324/plc0903241054002-n1.htm
→「今週初め、鴻池祥肇内閣官房副長官が、予め分かっていない軌跡をとる、残骸のような場合、これに<迎撃ミサイルを>命中させられる可能性は極めて低いと言った」と報じられており、
http://edition.cnn.com/2009/WORLD/asiapcf/03/27/north.korea.us.ships/index.html
最初の二つの政府筋も、どちらも鴻池副長官ではないでしょうか。
 最初の二つの発言は不勉強丸出しの間違いですし、最後の発言だって言うべきことではありません。
 そもそも、彼のダブル不倫疑惑問題
http://www.zakzak.co.jp/top/200901/t2009011426_all.html
はどうなったんでしょうね。政府はぶったるんでいます。(太田)
 「・・・北朝鮮が<ミサイルを>発射した場合、米国は≪早期警戒衛星<で>発射を探知し、日米<韓>のレーダーで<ミサイルを>追尾<し、>≫5分程度でこれが脅威となるかどうかを決定でき、必要があればこれを打ち落とそうとするだろう。・・・」
 (CNN上掲。ただし、≪≫内は、
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090327-OYT1T01328.htm
による。)
 「・・・韓国軍・・・は・・・、「北朝鮮のテポドン2号の発射が迫っているのに伴い、韓国海軍初のイージス艦“世宗大王艦”(7600トン級)を<日本>海に急きょ派遣することを決めた・・・また、米国はテポドン2号を追跡するため、韓米連合軍事演習「キーリゾルブ」が終わった後も<日本>海にとどまっているイージス艦「チャフィー・・・」と「ジョン・S・マケイン・・・」を投入した・・・日本は・・・イージス艦「こんごう」と「ちょうかい」を<日本>海に配備した。<これらのイージス艦は、>レーダー「SPY-1D(V)」を搭載し、最長で1024キロ離れた地点を飛行する弾道ミサイルを追跡でき<、また、>スタンダード艦対空ミサイル「SM3」を搭載し、弾道ミサイルを迎撃する能力を有している・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20090327000014
→今回、米国の「指揮」の下、史上初めて米日韓三カ国の軍隊が連携して対処を行うわけであり、これは画期的なことではないでしょうか。(太田)
(続く)