太田述正コラム#3200(2009.4.7)
<核廃絶を目指すオバマ>(2009.5.22公開)
1 始めに
 オバマの打ち出している政策で一番注目されているのは不況対策でしょうが、今回は、彼の核廃絶政策に触れたいと思います。
2 オバマのプラハ演説をめぐって
 「4月5日、<プラハで>オバマ大統領は彼の政権が「核兵器のない世界」の実現に向けて努力する、と言明した。
 もちろん、我々は核兵器のないところの、そんなに昔でない世界を知っている。例えば1939年がそうだ。
 この年に始まった戦争が、核のない世界における核兵器開発のための緊急計画をもたらした。
 そしてこの戦争は、米国による核兵器の行使とともに終了した。
 オバマは、このことについて、「核大国として、そして核兵器を行使した唯一の核大国として、米国は行動する道徳的責任を負っている」と述べた。
 このオバマの声明が、我々の1945年の核兵器行使の否定<的評価>を示唆したものであるかどうかははっきりしない(注1)。
 (注1)このコラム筆者の、米ウィークリー・スタンダード誌編集長ウィリアム・クリストル(William Kristol)のこの不愉快そうな勘ぐりは正しい。もちろん、オバマは、彼が私淑していたライト師の薫陶よろしく、広島、長崎への原爆投下を戦争犯罪であり、かつ不必要な愚行だと思っているに違いない。また、だからこそ彼は、核廃絶をかくも声高に唱え続けているのだ(コラム#省略)。(太田)
 いずれにせよ、オバマが、彼のこのプラハ演説において、第二次世界大戦に一切言及しなかったことは銘記すべきだ。
 その代わり、彼は、何千もの核兵器が存在することが、「冷戦の最も危険な遺産」であると指摘した。
 この枠組みからすれば、冷戦が終わったのだから、核兵器の廃絶について考えることが可能となったと言えるわけだ。すなわち、「今日、冷戦は姿を消して久しいが何千もの核兵器はまだ姿を消してはいない」と彼は述べた。
 しかし、核兵器なき世界を正当化するためには、オバマは、本当のところ、戦争のない世界、あるいは戦争の脅威のない世界を心に思い描かなければならないはずだ。
 これは昔なじみの理想論だ。
 これこそ、米国の何人もの大統領達が世界中に自由民主主義と責任ある体制を普及することを助長せんと試みてきた一つの理由なのだ。・・・
 しかし、このような平和で自由な体制からなる世界を実現するまでには長い道のりが待っている。
 ジョージ・W.ブッシュが望んだ専制(tyranny)なき世界は、核兵器なき世界<実現>の必要条件・・ただし十分条件とまでは言えまい・・なのだ。
 何が危険かと言えば、核兵器なき世界の魅力が、現実の核脅威に対する行動を怠らせたり、場合によっては行動をしないことの口実にされたりする恐れがあることだ。・・・
 オバマが核兵器なき将来について語っているまさにこの現在、世界は核と弾道ミサイルを持った北朝鮮とイラン、そして一層危険な世界へと向かいつつあるのだ。」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/06/AR2009040601602_pf.html
(4月7日アクセス。以下同じ)
 「・・・このアイディアはもとより、レトリックもまさにオバマのものだった。
 彼のこれまでの軌跡を見よ。
 彼の上院議員としての短い任期の間、彼が自分の名前を掲げた数少ない外交政策イニシアティブの一つは核不拡散のための予算の増額だった。
 また、上院議員時代に彼が行った数少ない外遊の一つはロシア、ウクライナ、アゼルバイジャンへの核視察旅行だった。・・・
 <オバマがこれほど核廃絶にこだわるのは理解できない。>
 ・・・核兵器は抽象的には恐るべきものだけれど、イランからのものでさえ、欧州または米国にとって直接的な戦略的脅威ではない。
 生物兵器の方が潜在的にはもっと致死性が高い(lethal)し、化学兵器ははるかに安価に製造できる。
 米国内においても、在来型の爆弾とならず者が操縦する航空機が、既に山のような被害をもたらしている。・・・」
http://www.slate.com/id/2215493/
 「・・・<それほど心配することはない。というのも、オバマはちゃんと条件をつけているからだ。すなわち、彼は、>核兵器が存在する限り、米国は「安全できちんと保管され、かつ効果的な」核兵器群を維持するだろう、と<プラハ演説で>述べている。・・・
 <それに、そもそも核廃絶は、核保有国たる米国の義務とも言える。>
 核不拡散条約(Non Proliferation Treaty=NPT)・・第6条には・・・「Each of the Parties to the Treaty undertakes to pursue negotiations in good faith on effective measures relating to cessation of the nuclear arms race at an early date and to nuclear disarmament, and on a treaty on general and complete disarmament under strict and effective international control.」とあるからだ。・・・
 <ちなみに、現時点での各国の>核弾頭<保有>数<は、>ロシア2800、米国2200、フランス300、中共180、英国160、イスラエル80、インド60、パキスタン60、北朝鮮10未満<、となっている(注2)。>・・・
 (注2)これは、多弾頭を一弾頭とカウントしていると考えられる。英語ウィキペディアによれば、ロシア5,200(就役数。保管総数8,800)、米国4,075(就役数。保管総数5,535)、フランス350未満、中共160~400、英国160、イスラエル100~200、インド100~140、パキスタン60以下、北朝鮮0~10、となっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_with_nuclear_weapons
 <なんだ一般論、理想論だけじゃないかと思われるかもしれないが、決してそうではない。>
 欧州を訪問する前に、既にオバマは、米国自身の、いわゆる「信頼できる更新核弾頭」に係る核兵器開発予算を凍結した。
 これは、余りに長らくそのままであったために、科学者達がその信頼性に疑問符を付け始めた現在の核弾頭を更新しようというものだった。
 また、オバマは、これまで米国が単に非公式に遵守してきたところの、包括的核実験禁止条約を米上院が批准するように努力することを誓約した。
 彼は更に、ロンドンでロシアのメドヴェージェフ大統領と会談した後、米国とロシアが、今年末までに、核弾頭と恐らくはその運搬システムとを減少させる新たな条約について合意に達する意向であることを明らかにしたところだ。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7984149.stm
 「<オバマの核廃絶演説にいちゃもんをつけている者がいるが、>・・・核廃絶という目標を放棄してしまえば、核保有可能な国々が核武装国家になるのを思いとどまらせるという核不拡散条約の力を弱めてしまうだろう。・・・」
http://voices.washingtonpost.com/postpartisan/2009/04/why_not_a_world_without_nukes.html?hpid=opinionsbox1
3 終わりに
 オバマは、米国を、そして世界を作りかえるポテンシャルを持っている、と思います。
 日本にオバマに匹敵する政治家が出現する可能性は当分の間、皆無でしょうが、せめて、オバマが何を考えているかを理解できる人間が日本で少しでも一人でも二人でも増えて欲しいと願う今日この頃です。
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太田述正コラム#3289(2009.5.22)
<歌舞伎観劇記(その1)>
→非公開