太田述正コラム#3433(2009.8.2)
<私の防衛庁(内局)改革案(1987年)(その2)>
2.生じている具体的問題点
あえて多言を要しない。例えば、次の諸点を指摘できる。
(1)正面・後方のバランスが悪化してきていること。
歳出予算でみた正面・後方比が一貫して低下してきており、(正面、後方(注7)の定義そのものに問題のあることも否めないが、)戦う力という観点からみて、自衛隊はますますいびつなものになってきていると言えるのではないか。(隊員の生活関連施策面の立ち後れは、たまたま目につきやすいため、改善の手が講ぜられているが、問題は余り目につかない分野である。)
(2)陸・海・空自衛隊間の資源配分が硬直化していること。
陸・海・空自衛隊の予算(歳出予算、後年度負担)のシェアは、(見かけの上はともかく、)基本的には全く手がつけられないないまま一定に維持されてきている。(もっとも、これは、「大綱」を前提とする限り、致し方のない面もある。)
(3)三自衛隊の連携態勢が極めて不十分であること。
せいぜい、各自衛隊と米各軍種との連携態勢が確保されていれば十分との考え方は、十年前までしか通用しない。米軍の不在といった最悪シナリオを想定するまでもなく、災害派遣時ですら、三自衛隊間のインタ-・オペラビィティの確保は不可欠。今や国民は、「役に立つ」自衛隊を求めている。
(4)付属機関のアウトプットのレベルが期待水準をはるかに下回っていること。
防研(注8)の研究水準の低さ、技本(注9)の自主研究の水準の低さ、防大生の質の低下等には憂うべきものがある。
(5)庁内資源の総合的な有効活用態勢が欠如している分野が多々存在すること。
ソフトの研究業務(注10)を例にとれば、防大、技本、防研、各幹部学校、各システム分析部局等が、相互に殆ど連絡調整の無いまま業務を推進しているため、研究内容に非生産的な重複が多数生じている。また、情報調査業務については、重複が生じること自体は本来決して排斥すべきことではないものの、調査成果の総合的評価態勢が著しく弱体であることは否めない。
(6)一部装備の性能等に問題があること。
ハイ・ロ-ミックス(注11)と言えば聞こえはよいが、国産のものが多い「ロ-」の装備には、米軍とのインタ-オペラビィティ(注12)の無いものが少なくなく、又軍事合理的な費用対効果比の観点から最適であるものが必ずしも選択されていないことも多い。
3.とるべき方策
(1)内局(防衛庁)には、頭脳にあたる部局が現実には存在しない。PPB(注13) プロセスで言うならば、Planning の機能が著しく弱体である。そこで、内局に政策企画課を設け、その中に予算・国会業務から基本的に解放されたセクションを確保することを提案したい。(設置に当たって、対外的に公表する程度は、例えば別紙1<(省略)>のとおり。)
ア.各部局が自ら企画立案を行っていくのが筋であり、総合的な政策企画担当課は必ずしも必要ではないとの議論があるが、防衛行政の単一性に鑑みて、かかる考えには賛同しがたい。
イ.防衛改革委員会のような委員会方式は、責任の所在が明確ではなく、エネルギ-を注いだ割には、平板かつ総花的な結論しか出てこない。
ウ.防衛局防衛課の年度班や防衛局計画官は、防衛力整備に係るコントロ-ルを行っているのであり、総合的企画立案を行っているとはいいがたい。
なお、年度班を拡充することは、経理局との間の、業務分担上の modus vivendi(注14) を悪い意味でぶち壊す恐れがある。一方、計画官室を拡充することは、「大綱」のものの考え方が抜本的に変更されない限り、生産的であるとは言い難い。日米共同の実態について、計画官室が最も疎い(前述)という現状を踏まえれば、なおさらである。
エ.防衛課政策班は、渉外、国会関係業務等に追われ、総合的企画立案を行う余裕が無いのが実状。(なお、防衛諸計画中、統長(注15)から中期防衛見積りまでは、どちらかと言えば、Planning に属するにもかかわらず、Programming 担当部局である計画官が所管しているのは座りが悪いのでは。)
オ.少なくとも、防衛研修所の研究所への改組の当初のねらいを生かすためには、内局内に、防研の受け皿としての、名実相伴った政策企画担当課の存在が不可欠。
カ.政策企画課の当面の指導理念は、例えば、日本を、「セ-ルスマン(商人)国家」から「ステ-ツマン(士)国家」へ脱皮させる(天谷直弘)ための、防衛庁としての戦略を立てる(少なくとも、その態勢造りをする)、といったところであろうか。
キ.当面、具体的に実施すべき業務としては、戦略広報関連基本業務(後述)、庁内(外)における戦略的な各種研究の総合調整、「大綱」の見直し関連業務(「大綱」に代わる国内外向け戦略の構築、三自衛隊等のシェアのあり方、陸上自衛隊のあり方等の検討)、自衛隊戦力化関連業務(自衛隊の能力の総合的把握、三自衛隊連携強化のための基本方策、有事態勢(防衛関連諸施策を含む)整備の基本的あり方の検討)、国際関係基本業務(日米関係における防衛関係の位置づけ、日米防衛協力の今後の基本的あり方(日米装備技術交流、SDI(注16)等をも射程に入れたもの)、自衛隊を使用する場合(航空機、艦船等の遠方派遣等)の対処方針及び実施基本要領等の検討)等が考えられよう。
ちなみに、防衛課年度班と計画官は合体し、計画課とすることが考えられる。(最善の方策とは必ずしも考えないが、内局全体の再編成は、当面実行不可能であろうから、やむを得ない。その場合、2名程度の OR(注17) 要員の定員化が必要。)この計画課が、(研究)開発にあたっての要求性能の決定、新規装備の機種決定等を行うこととなろうが、政策企画課は、シナリオ設定やシステム分析上の支援を積極的に行うこととする。
(なお、組織いじりやカネの確保よりも先に、人材の実質的な確保を図った上で、実施すべき業務を推進することを、まず先行させるべきであるとの主張がしばしばなされるが、「やる気さえあれば、できる」という精神論であり、難きを強いるものである。そもそも、30 年以上にわたって、内局の組織が基本的には変わっていないことこそ異常ではないのか。)
(続く)
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(注7)自衛隊の調達するもののうち武器システム以外のすべて。
(注8)防衛研究所
(注9)技術研究本部
(注10)装備等ハードに係る研究以外のすべての研究
(注11)性能が高度で高価な武器システムと性能は劣るが安価な武器システムを組み合わせて調達し、運用する考え方。「性能は劣る」の中には、以前に調達した、世代の古い武器システム・・私の言う「老旧化」した武器システムを含む。
(注12)interoperability=相互運用性。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E4%BA%92%E9%81%8B%E7%94%A8%E6%80%A7
(注13)Planning Programming Budgeting=企画・計画・予算
(注14)暫定的妥協
(注15)統合長期防衛見積もり。当時の統合幕僚会議事務局が原案を作成したところの、日本にとっての長期的な軍事的脅威の動向の見積もり。
(注16)Strategic Defense Initiative=戦略防衛構想。米レーガン政権が打ち出したミサイル防衛構想。中期防衛見積もりは、この中期版であり、中期業務見積もり(当時の防衛力整備5カ年計画)策定の前提となるもの。
(注17)Operations Research
http://en.wikipedia.org/wiki/Operations_research
私の防衛庁(内局)改革案(1987年)(その2)
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