太田述正コラム#3636(2009.11.9)
<アイン・ランドの人と思想(その3)>(2009.12.15公開)
(4)米国等において永久に生き続けるランド
「・・・ランドは、1982年に亡くなった・・・」(F)「<が、>ランドの本は・・・それからも大量に売れ続けた。
そして、米国の左旋回・・2006年の民主党による米議会の多数確保とその2年後のバラク・オバマの大統領選出・・は、彼女を政治的論議の中心へと連れ戻した。
保守主義的抗議者達は、「ジョン・ゴールト(John Galt)は誰だ」と書かれたポスターを掲げる。
ジョン・ゴールトとは、ランドの<創り出した>英雄達の一人だ。
保守的な議論好き達は、オバマ氏は、いくつかの銀行、及びGMのような産業的巨獣の救済に乗り出すことで、ランドが警告を発したところの、集団主義的逆ユートピアへと<米国を>先導しつつある、と示唆している。
<ランドの小説である、>’The Fountainhead’と’Atlas Shrugged’の売れ行きが更に好調になった。
’Atlas Shrugged’に立脚した映画が制作されつつあるという噂も飛んでいる。・・・」(B)
「・・・アイン・ランドは、<上記の二つの>毎年ベストセラーになってきた小説の著者として最も良く知られている。
この二つの小説は、米国で合計で1,200万部以上売れた。
これらの本は、三世代にわたって読者達を惹き付け、リバタリアン運動の基礎を形成し、レーガン時代とそれ以降のホワイトハウスの経済諸政策に影響を与えた。
<彼女は、>自由放任資本主義と個人的諸権利の情熱的な擁護者だった。・・・」(D)
「・・・<ランド同様、ロシア出身のユダヤ系の>アラン・グリーンスパン<(コラム#751、1145、2069、2075、2559)>は、彼女の最も強力なカルト的追従者達の一人であり、フォード政権に彼が参加した時の宣誓式に、彼女をホワイトハウスの大統領執務室に招待したほどだ。
皆さんは、彼がランドの哲学を1990年代を通じてどのように実行して行ったかご存じだろう。・・・
<ランドの哲学の>諸理念とその衝動が、人間の最も低次元な諸本能に注入されることによって、米国の二大政党のうちの一つ<(共和党)>を捕らえたのだ。・・・」(A)
「・・・’Atlas Shrugged’は52年前に出版されたが、オバマの時代にあって、ランドの怒りのメッセージは、いまだかつてないほど反響を生んでいる。・・・
1990年代初頭の・・・世論調査では、米国人達は、‘Atlas Shrugged’を、聖書に次いで二番目に彼等の人生に大きな影響を与えた本であると答えた。
ランド特有の知的貢献、すなわち、彼女が、かくも人気を得、かくも米国的なのは、エリート主義を大衆に売り込むことに成功した、そのやり口にある。
それは、かくも多くの人々、とりわけ若い人々に、彼等が具体的な形においてはいかなる意味でも傑出していなくても天才になれる、ということを確信させたことにあるのだ。
と言うよりも、ランドの教えに熱情的に入れ込むことによって、彼等は自分達自身を傑出させることができた、と言ってよいのかもしれない。・・・
ランドはドルを形取ったバッジを身につけて彼女の資本主義への愛を宣伝したけれど、ヘラーは、この作者がドルそれ自体には本当の意味で愛着など感じていなかったことをはっきりさせている。・・・
根本的には、彼女の個人主義は、アダム・スミスよりもニーチェに負うところがはるかに大きかったのだ。・・・」(C)
「・・・彼女が’Atlas Shrugged’において示した、企業家達や革新者達に自由を与えない限りは社会は繁栄しない、という洞察は、先見の明があることが証明された。
仮にジョン・ゴールトが欧米で再び脅威の下に置かれているとしても、彼は中共とインドのビジネスにおいて復帰を果たしているのだ。・・・」(B)
3 終わりに
しごく単純化して申し上げれば、アイン・ランドのようなリバタリアン・・それが自称であるか他称であるかはともかく・・の市場原理主義(ないし裸の個人主義)が、米国の過半の人々の心をとらえ、レーガンやサッチャーらを通じて一時アングロサクソン世界における政治の公的イデオロギーとなり、世界に大きな影響・・例えば、ロシアにおいては国家破綻寸前の状況をもたらし、日本においては小泉旋風を巻き起こした・・ということになりそうですね。
しかし、英国においては、メッキされた市場原理主義がすぐに剥がれ落ちたのに対し、米国においては、市場原理主義こそ国是であってニューディール時代は逸脱期であるという認識が強く、いまだに過半の米国人がこれを信奉しているのであり、オバマ政権下における医療皆保険制導入がかくも抵抗にあっているところをみると、改めてその感を深くします。
市場原理主義も、欧州文明由来の政治的宗教の一つであり、他の政治的宗教ともども、そして、(米国において市場原理主義と一対をなしている裸の個人主義を支えているところの)キリスト教原理主義ともども、排撃されなければならない、と私は考えています。
既に累次申し上げているように、人間主義を掲げ、あらゆる宗教原理主義及び政治的宗教と戦うことは、日本の世界史的使命である、と私は信じているのです。
(完)
アイン・ランドの人と思想(その3)
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はじめまして。ジョン・ゴールトを検索してたどり着きました。
ちょうど昨日2011年12月8日に「肩をすくめるアトラス」読み終えたところです。
私がこの本から読み取った思想。
1.利己主義 個人主義
能力を持った個人が、能力を持たない人を支える必要はない。自分の利益を追求することは悪ではない。
2.個人の利益を追求する者は道徳律を持つので、自然とバランスがとれる。
3.考える人は頭脳労働者。宗教団体や多くの組織は考えないで従うことを強要している。自由のないところで頭脳労働者は考えることができない。
ドルマークのついたタバコ、アトランティス独自の銀行、ゴールトという名前が暗喩で示していることに気づいている人はいるのだろうか?
私の考え。
イエス・キリストがマタイ伝の中でこう言っている。
「思い悩むな。空の鳥をよく見なさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めることもしない。」
地球という環境の中で、いったい人間が何をつくったというのだろうか。資源を浪費しつづけているだけのような気がする。
地球に家賃を払う必要があるのか?
紙切れの通貨や、単なる数字にすぎない借金に金利を払う必要があるのだろうか?
福祉や税金や計画経済を嫌うのはわかる。私も嫌いだ。
ジョン・コールトは頭脳労働者がアトラスのように多くの人を支えていると言う。
しかし、実際には生活保護に支払われる以上のお金が、金融安定化という名のもとに、金融機関に支払われている。
誰が一番多く税金を負担しているのか考えればわかるはず。
悲しいことにアトラスは考えることができないらしい。
気づかずに背負っている方が幸せなのかもしれない。
税金をなくし、通貨を金融機関にまかせず、地元の自治体ベースで地域通貨を発行し、すべての人にベーシックインカムを支給することが可能なのに。