太田述正コラム#4128(2010.7.13)
<映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その4)>(2010.8.13公開)
この際、暴君チャベスが牛耳ってきたベネズエラにも、若干言及しないわけにはいかないでしょうね。
「・・・ベネズエラ沿岸からわずか40マイルに所在する米国の軍事拠点に苛立ち、ヒューゴ・チャベス大統領は、<オランダ領>キュラソー(Curacao)島の防衛問題を所管しているオランダ政府が、ベネズエラを攻撃しようかと考えて計画を練っている米国政府に同島を基地として使用させていると繰り返し主張し、同島の<住民の>神経を逆なでしている。
かかる主張は、何世紀にもわたってベネズエラとの貿易に依存してきたキュラソー島が、この秋に<同島がその一つである>オランダ領アンティル諸島(Netherlands Antilles)が、オランダ王国からより大きな自治権を獲得し、統一した政治的存在としては解消される、わずか数ヶ月前からなされ始めた。・・・
米軍機<(いずれも非武装という触れ込みのE-3早期警戒機とP-3C哨戒機)>は、<同島の>飛行場を2000年に調印された協定に基づいて使用してきた。
この協定は今年期限を迎えるが、オランダは、それを5年間延長する計画であると言明してきた。・・・
カリブ海上の監視飛行は、<毎日>約12時間続けられ、コカインを運んでいるところの、船や小さい飛行機をレーダーで探知する、猫がネズミを追いかけるようなゲームだ。
この地域では、米国の麻薬阻止プログラムは、エルサルバドルと<やはりオランダ領アンティル諸島の一つである>アルバ島(Aruba)にも飛行機基地を置くとともに、ホンデュラスのソト・カノ(Soto Cano)空軍基地も使用しており、最近、コロンビアのいくつかの基地の使用も認められた。
もっとも、麻薬に対する戦争において米軍が果たしている役割に対する不安感を抱いているのは中南米でベネズエラだけではない。
エクアドルは、最近、同国の太平洋沿岸の基地から米国の軍事要員が活動することを認めてきた協定を終了させた。・・・
<いずれにせよ、米国やオランダと>チャベス氏の政府との若干の軋轢は避けられないのかもしれない。
というのも、近年、ベネズエラは、麻薬の主要積み替え拠点の一つになったからだ。
国連は、先月、ベネズエラが、探知されたところの、船による<中南米から>欧州へのコカインの出荷量の半分以上を占めている、と発表したところだ。・・・
<チャベス>が上述のようなことを言っているのは、ベネズエラの国民の目を、彼の政府がもたらした諸問題から逸らせるための国内向けのものである可能性が高い。・・・」
http://www.nytimes.com/2010/07/12/world/americas/12venez.html?src=me&ref=world
(7月13日アクセス)
→オモテの経済とウラの経済(麻薬)に関し、地理的に近接している北方の超大国米国に依存していることによって、中南米諸国の大部分は、米国に対し、不可避的に愛憎ないまぜた強いコンプレックスを抱いています。
このような背景の下、反米を標榜して国内支配をするか、親米を標榜して米国から経済的・軍事的援助を引き出すことによって国内支配をするか、が中南米の支配者達の思案のしどころです。
もっとも、前者で行った場合、米国から袖にされる結果、ベネズエラのように強力な一次産品(ベネズエラの場合は石油)でも持っていないと経済的にも軍事的にも行き詰まりかねないないことから、キューバのように、イデオロギーによって国内支配を固めるところのスターリン主義化の道を歩みがちです。
しかし、その場合、冷戦時代であればソ連圏から経済的・軍事的援助が得られたものの、冷戦が終わった今はそれが得られないのが泣き所です。
そこに最近、中共という、新しい経済的援助の主体が出現した(後述)ってわけです。(太田)
「<これまでの>ベネズエラにおける私企業の政府による接収の主なもの全てと同じく、ヒューゴ・チャベス大統領は、ビール・食品大企業たるポーラー(Polar)の<ある都市の>諸施設の接収は同国の貧者の社会主義への前進におけるもう一つの勝利を意味することになろうと宣言した。・・・
その一週間後、<その都市>圏の産業区域の中にあるポーラーの倉庫群と事務所群の収用布告(edict)への署名がなされた。
<チャベスは、大統領就任以来、12年間にわたって国家の経済への介入を増やしてきている。>
チャベスは、全国に工場と流通拠点を持つこの会社全体を国有化するかもしれないということまで示唆している。
しかし、今回に限っては、この大統領の計画はひどいつまずきを見せている。
石油会社群、スーパー群、工場群が国によって接収されるという政策が、政府の役人達のコントロールの下で失敗を重ねてきたことから、全国民的な反対のうねりに直面しているのだ。
ポーラーが最高裁に持ち込んで反攻しているだけでなく、その従業員達も立ち上がり、チャベスの布告への反対運動を展開し接収を防ぐための寝ずの警戒を行っている。
蹶起に加わった者には、かつてのチャベスの同志で、企業群の国有化の<悪しき>長期的結果を大統領は考慮していないと述べているところの、ララ(Lara)州の人気が高い知事・・・もいる。・・・
チャベスの任期中、食糧生産は大幅に減少し、輸入が急角度で増大している。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/08/AR2010070802795_pf.html
(7月13日アクセス)
→ベネズエラのチャベス政権は、まだ本格的にスターリン主義化する一歩手前といったところでしょうか。
しかし、同政権の社会主義化政策は、既に同国経済をマヒさせつつあります(改めて後述)。(太田)
(中米のハイチについては、大地震で30万人もの死者を出し、その後の復興が遅々として進んでいないことからも、とりあげてしかるべきなのですが、元フランス領であるということと、その数奇な歴史をかつて詳しくとりあげたこともあることから、今回触れるのは止めておきましょう。)
(完)
映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その4)
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