太田述正コラム#4308(2010.10.11)
<ジョージ・ワシントン(その3)>(2011.1.25公開)
(3)そんなワシントンはこうやって英雄になった
「・・・彼が金持ちの未亡人のマーサ・ダンドリッジ・カスティス(Martha Dandridge Custis)と結婚した<ことは彼を大いに助けた。>・・・」(D)
「・・・政治家としての本能でもって、ワシントンは、異なった人々に対しては異なった声で語りかけた。他のバージニアのプランテーション経営者達に演説する時は、冷たく固い実務的な声で語り、革命の同志達を相手にする時は、彼は利他主義者へと花開いた。・・・」(A)
「・・・真のワシントンは、戦術的能力がほとんど欠如した将軍だったが、洞察力ある戦略的眼力に満ちた政治家だった。こういう意味で、(イギリス人たる、あるいは反革命的な)批評家の眼からは、ワシントンは、<実物より>はるかに巨大な人物として立ち現れてくるのだ。・・・」(B)
「・・・戦争が終わった時に司令官職から降りたことほど、当然のことだが、彼に尊敬をもたらしたものはない。
彼が、容易に掌握できたところの権力を辞任によって擲<って、彼が米国王的な存在にならなかった>たことが共和国を救ったのだ。
彼は、憲法制定会議(Constitutional Convention)を主宰するために1787年に公的生活に復帰するが、ここで彼は概ね儀式的な、しかし、にもかからわず枢要なる役割を演じた。
ワシントンは、儀式的であること(ceremony)と尊大であること(pomposity)との違いをわきまえており、そのうちの一方<(前者)>に徹し続けた。
彼は大統領選挙人の全員一致の票を得て大統領に選出された。・・・
ワシントンは大変良い大統領であり、かつ幸せな大統領だった。
自分の行政府の内と外における次第に募る派閥主義の横行、とりわけハミルトンとジェファーソンとの間の諍いとジェファーソン主義者達の反対運動の出現にひどく心を悩ませたため、彼は大統領をしぶしぶながらもう一期務めた。・・・
ワシントンは、アダムスのような感情丸出しの意地悪ではなかったし、ジェファーソンのような矛盾の飾り箪笥のような人物でもなかった。
<他方、>彼は、フランクリンのように愉快な人物(funny)ではなかったし、マディソンのように包容力ある人物(capacious)でもなかった。・・・」(C)
「・・・ワシントンの「国を率いる曰く言い難い(uncanny)能力」<は、>「誤ることなき判断、純正なる人格、清廉さ、断固たる愛国主義、たゆまぬ義務感と市民的精神といった「例外的な諸徳」を彼が備えていた<ところにあった。>・・・」(E)
「・・・ジョージ・ワシントンは、<米国にとって>不可欠な建国の父だった。
彼は、4度続けて大陸軍の司令官に全員一致で選出された。
<そして、>憲法制定会議の議長を努め、連続2期米大統領を務めた。・・・
彼は、上流郷紳(gentry)の家に生まれたわけではなく、大学にも通わなかったけれど、自分だけで人となった男では必ずしもない。
彼は色んな意味で良心的かつ自学自習的だったが、時ならぬ彼の父親と半兄弟の死、そして自身のマーサ・カーティスとの結婚が、彼をバージニアのプランテーション社会の最上級階層へと押し出して行ったのだ。・・・」(E)
「・・・あなたは、自分自身のイメージを管理することが新しい現象ではないことを<この本を読んで>発見するだろう。
ワシントンは、このことについてのこの上もない達人だった。
ワシントンは、他人が自分のことをどう思っているかについて強迫観念を持っており、自分の死後の評判についてさえ、注意深く準備をした。・・・
白馬に乗った自分がどんなに映えるかを意識し、彼は、ある時、友人に「完全に白いのがいい」と指定して馬を買うように頼んだ。…
…一点の汚れなき軍馬にかくもこだわったワシントンは、厩務員達に、夜、白いペンキを塗り、衣で包み、新しい藁に上に寝かしつけよと命じた。
朝になると、固まった白いペンキがきらりと光ったが、この白さは、馬の蹄に施された黒い光沢液によって更に引き立てられた。
彼を司令官らしく見せるため、馬の口の中は水ですすがれ、歯は磨かれた。・・・」(F)
「・・・他の建国の父達は自分達の知性を顕示することを誇りとしたが、ワシントンの戦略はその正反対だった。
彼を知らない人ほど、より、彼が何事も達成しうると思い込んだ」とチャーナウは記す。
「不透明さが、彼が自分の権力を高め出来事に影響を及ぼす手段だった」と。
他の建国の父達全員・・ベンジャミン・フランクリン、ジョン・アダムスその他・・は、書き物または公会場において、議論に勝ち点数を上げることで光り輝いた。
ワシントンは、それとは対照的に、コンセンサスを形成すること、<他の人々の間の>議論を俯瞰する高みから操作すること、星座を自分のものにしてその中の北極星たること、に専念した。・・・
ジェファーソンとアダムスは啓蒙主義の諸観念を代表していたが、ワシントンは、自分自身を公衆の意思の地味な保管人(humble depository)であるかのように演出したのだ。・・・」(G)
(続く)
ジョージ・ワシントン(その3)
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