太田述正コラム#6088(2013.3.16)
<映画評論37:ゼロ・ダーク・サーティ(その4)>(2013.7.1公開)
ここで、米国の対テロ戦争における拷問に係る事実を押さえておきましょう。
米国政府自身が組織的に行ったと言っても過言でない拷問について、イラクでの実態を推測させる事実が、最近、英ガーディアンとBBCの共同取材により、以下のように明らかになったところです。
「ペンタゴンは、叛乱者達から情報を得るための拘置・拷問センター群をイラクで設立したところの、特定宗派<(シーア派)>の(sectarian)警察コマンド部隊群を監督するために、中央アメリカにおける「汚い諸戦争」の米軍の帰還兵を送り込んだ。
これらの部隊は、米国による<イラク>占領の間、拷問の最悪の諸行為を実施し、この国が全面的な内戦へと堕ちて行く過程を促進した。
・・・<当時の>ドナルド・ラムズフェルト<米国防長官>によって、退役特殊部隊帰還兵の58歳のジェームズ・スティール(James Steele)<(注1)>大佐がスンニ派の叛乱を鎮圧しようという目的で指名された。
(注1)ベトナム戦争で戦い、エルサルバドル内戦では1984~86年の間、米特殊部隊の一員としてエルサルバドル軍の顧問を務めた。イラク特殊警察コマンド(下出)の顧問(Counselor)を務める。
http://en.wikipedia.org/wiki/James_Steele_(US_Colonel)
ペンタゴンが、シーア派の民兵が治安部隊に入ることを解禁した後、特殊警察コマンド(Special Police Commandos=SPC)<(注2)>のメンバーは、次第に多く、バドル諸旅団(Badr brigades)<(注3)>といった暴力的なシーア派集団から集められるようになった。
(注2)イラク内務省所属。後に、イラク国家警察の中核の一つとなる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Special_Police_Commandos#Special_Police_Commandos
(注3)シーア派過激派の武装組織。イラン・イラク戦争(1980~88年)でイラン側についてフセイン政権と戦った。イラク戦争に至る20年間、イランに拠点を置いていた。
http://en.wikipedia.org/wiki/Badr_Organization
二人目の特別顧問たる、ジェームズ・H・コフマン(James H Coffman)<(注4)>退役大佐は、スティールと共に、米国が何百万ドルもの資金を出して設立した拘置センター群で働いた。
(注4)1972年に米陸軍入隊、1978年に米陸軍士官学校卒。米海軍大学(Naval Postgraduate School)修士、更にボストン大学イタリア分校で修士号取得。殊勲勲章(Distinguished Service Cross)受賞。
http://en.wikipedia.org/wiki/James_H._Coffman,_Jr.
コフマンは、デーヴィッド・ペトレイアス(ペトラユース)大将から直接指揮を受けたが、彼は、イラクの新治安諸部隊を組織し訓練するためにイラクに2004年6月に送り込まれたものだ。
スティールは、イラクに2003年から2005年の間とどまり、米国に2006年に帰国したが、彼はラムズフェルト<国防長官>から直接指揮を受けた。・・・
このイラクでのパターンは、1980年代に、米国が助言し資金を提供したところの、良く記録されている、中央アメリカ準軍事分隊群によって犯された諸人権侵害事例と不気味なほど似ている。・・・
ペトレイアスとスティールが2005年9月にイラクを去る直前に、ジャブル・アル=ソラハ(Jabr al-Solagh)が<イラクの>新内相に任命された。
暴力的なバドル諸旅団民兵と緊密に関わっていたところの、ソラハの下で、このコマンドによる拷問と暴虐の噂が高まった。
この<警察コマンド>部隊群は、暗殺分隊群へと変身した、と広く信じられたものだ。
<米国による>イラク侵攻の後に米国と一緒に仕事をした高位のイラク人達は、ソラハを任命したらどうなるかをペトレイアスに警告したが、この彼らの懇願は無視されたのだった。・・・
エルサルバドルでスティールと共に働いた、米上級麻薬取締庁(Senior Drug Enforcement Administration)の工作員のセレリーノ・カスティロ(Celerino Castillo)は、「初めて、私が、ジェームズ・スティール大佐がイラクに行くと聞いた時、私は、サルバドル的選択肢をイラクで実施しようとしている、と言ったが、まさにその通りになった。
我々がエルサルバドルで起こったことを知っているところの、諸残虐行為がイラクで起ころうとしていることを私は知っていたので、<当時、>途方に暮れたものだ。」と語っている。」
http://www.guardian.co.uk/world/2013/mar/06/el-salvador-iraq-police-squads-washington
(3月7日アクセス)
(続く)
映画評論37:ゼロ・ダーク・サーティ(その4)
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