太田述正コラム#6100(2013.3.22)
<映画評論38:ダブル・ジョパディー/陪審員(その2)>(2013.7.7公開)
3 疑問の解明へ
(1)序
日米間にこのような違いがあるとして、それは簡単に説明がつくのではないか、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
日本の方が米国よりも女性差別が甚だしいことから、活劇においては、日本では大人と子供とを問わず男性が主人公になることが当然視されているのに対し、米国では、フェミニズムの観点から、機会あらば女性を主人公にする、ということではないか、また、米国は銃社会なので、男女間の膂力差を飛び道具で克服することができ、女性を活劇の主人公にしても日本におけるほど不自然ではないからではないか、という説明です。
しかし、膂力差を飛び道具で克服しなくても、他の男性や組織の助けを借りたり利用したりすることによって克服することもできます。
実際、表記の米国の2本の映画の主人公の女性だってそうしています。
それぞれが正当防衛で相手を射殺するわけですが、その最終場面に至るお膳立ては、決して自分一人でではなく、他に協力を得つつ整えています。
ですから、説明は、それ以外に求めなければならないでしょう。
ここで、誤解のないように申し上げておきますが、私は、活劇一般を問題にしているのではなく、親子活劇を問題にしているわけです。
親子活劇に関し、どうして、米国では実の母親と息子であるのに対して日本では実親子ないし養親子ないし親と痴人の子であるところの父親と息子なのか、ということを私は問題視しているのです。
より噛み砕いて言えば、どうして、第一に米国では主人公は女性で日本では男性なのか、第二に米国では親子が異性なのに日本では同性なのか、第三に、米国では実の親子なのに日本では必ずしもそうではないのか、に疑問を抱いた、ということです。
(既に示唆したように、極めて少数の、しかも偶然得られたサンプルでもって全体を推し量ることが危険であることは重々承知しています。
日本の方だって、私は、『天国と地獄』は、映画そのものを見たわけではなく、当時のこの映画の紹介をかすかに記憶していた程度ですし、『子連れ狼』についても、誰かが読んでいたマンガを2~3回斜め読みし、TV番組をこれまた数回チラ見した程度なのですからね。
私のやった「全体の推し量り」が誤りであるのなら、ぜひ複数の具体例でもってご教示ください。)
(2)近親相姦
一体唐突に何を言い出すのか、と面食らわれてしまうかもしれませんが、ここで、近親相姦のことを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
近親相姦、より一般的にして価値中立的な言葉に置き換えれば近親交配は、「両親が同じ劣性遺伝子を持つ可能性が高いため、その劣性遺伝子が子に伝わって発現する可能性が高まる。端的に言えば先天性の病気や障害が起きやすくなる」
D:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E8%A6%AA%E4%BA%A4%E9%85%8D
ことはよく知られており、そのために人間の場合、近親相姦はタブーとされている、と思っている人が多いでしょう。
しかし、「品種改良において望ましい形質が頻度の低い劣性遺伝子に基づいている場合、その遺伝子のホモ接合によって、形質を顕在化して固定する効果があるために、近親交配が有効な手段となる」(D)ということからも明らかなように、近親交配は悪いことばかりではありません。
そもそも、近親相姦は、人間界ではタブーかもしれませんが、動物界では必ずしもめずらしいことではなさそうです。
人間に最も近い霊長目たるチンパンジーの例でも、近親相姦をするよりはそうでない異性の方を好む、という程度のことです。
E:http://en.wikipedia.org/wiki/Incest
人間界でも、歴史を遡れば、下掲のように、近親相姦はタブー視などされていませんでした。
「古代エジプトの皇位継承権は、第一皇女にあった。しかし、実質的な君主(ファラオ)は第一皇女の夫である。古代エジプトの王家で見られた兄妹・姉弟間の婚姻は、本来女系皇族が継承する皇位を、男系皇族が実質的に継承する機能を果たしていた。例えば、エジプトの女王、クレオパトラが弟のプトレマイオス13世と結婚して殺した後、さらにその下の弟のプトレマイオス14世と結婚し<、エジプトを共同統治>ている。・・・
<また、>聖徳太子は欽明天皇の息子である用明天皇と娘である穴穂部間人皇女の間から生まれたと「記紀」共に認めているのだが、聖人として認められている。・・・
<更にまた、欧州>の大貴族であったハプスブルク家は血縁が近い者同士でしばしば結婚を行って<おり、>・・・スペイン王フェリペ2世は姪のアナ・デ・アウストリアを、フェリペ4世は姪のマリアナ・デ・アウストリアを妻にしている。」
F:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E8%A6%AA%E7%9B%B8%E5%A7%A6
若干補足しましょう。
クレオパトラと結婚した2人の弟は全員互いに同母姉兄弟であった可能性すらあります。
なお、クレオパトラの父親も、彼の妹ないし従姉妹たる(クレオパトラの)母親と結婚して、エジプトを共同統治しています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Cleopatra
http://en.wikipedia.org/wiki/Ptolemy_XII_Auletes
また、聖徳太子の父母たる兄妹は異母子ですが、この兄と妹のそれぞれの母親は蘇我稲目の娘たる姉妹です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%BD%E6%98%8E%E5%A4%A9%E7%9A%87
つまり、日本でもどこでも、王家や大貴族においては、入り組み過ぎていてわけのわからなくなるほど近親相姦が当たり前であったことが分かります。
王家や大貴族の場合は、近親相姦を繰り返すことで、外戚をつくらない、あるいは外戚が増えるのを抑えることによって、権力が分散することを避ける、という実利を伴っていたと考えられています(典拠失念)が、そんな実利とは無縁の一般庶民においても、近親相姦は広く行われていたようです(F)。
(続く)
映画評論38:ダブル・ジョパディー/陪審員(その2)
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