太田述正コラム#6230(2013.5.26)
<日進月歩の人間科学(続x31)>(2013.9.10公開)
1 始めに
 陰謀論についての記事が出ていた↓ので、ご紹介しておきましょう。
http://www.nytimes.com/2013/05/26/magazine/why-rational-people-buy-into-conspiracy-theories.html?ref=magazine&pagewanted=all
(5月26日アクセス) 
 (以前は、一つのテーマで複数の記事が集まらない限り、「日進月歩の人間科学」コラムには仕立てなかったところ、最近では、この「基準」を緩めていますが、あしからず。)
2 陰謀論
 「<ある人が>陰謀論(conspiracy theory)を信じているかどうかを予測する最も良い方法は、他の諸陰謀論を信じているかどうかだ。・・・
 なぜなら、陰謀論は、一つの出来事に対する反応というよりは、<それを信じる人の>中心的な(overarching)世界観の表現だからだ。・・・
 この種の理論化<、すなわち陰謀論を抱懐すること>は、社会の辺境にいる人々に限定されるものではない。
 完全に正気な頭の人でも、諸物語をでっち上げる、信じられないほどの余地があるのであり、最も途方もない諸陰謀論が理性的思考に立脚していることがあって、その場合、それらは一層有害なものとなる。・・・
 <実に、>米国の登録有権者の63%が、少なくとも一つの政治的陰謀論を信じているのだ。・・・
 陰謀論信奉者達は、世界について一般的に、かつ、政治についてはとりわけ、冷笑的でありがちだ。
 諸陰謀論には、とりわけ、この世界全体の中での<自分の>力(agency)についての認識に関して、<取るに足らないと思い、そのために、>自分の価値を低いと思っている者が、どうやらより惹きつけられるようだ。・・・
 もし、自分が真実を知っていて他の人々が知らなければ、それは、自分が力を持っているとの感覚を再び主張することが可能となる一つの方法だ。・・・
 <そもそも、>自分の研究を行うことは、それが欠陥のあるものであっても心地よいものだ。
 羊の群れのなかで賢明なる老いた山羊であることは良い気持ちにさせるものなのだ。
 驚くべきことに、<ある研究は、>陰謀論者と民主主義諸原理の支持者との間に相関関係がある、という結果を叩き出した。・・・
 <それもそのはずであり、>諸陰謀論は、本物の諸陰謀が存在しない世界には存在しえないからだ。
 <米国では様々な陰謀がこれまであったけれど、>ウォーターゲート(Watergate)事件やイラン・コントラ(Iran-contra)事件は、しばしば、民主主義的過程の操作や迂回を伴った<ことを思い起こして欲しい。>・・・
 <情報化社会となり、>高品質の情報にアクセスできることになったと言っても、残念なことだが、<陰謀論を巡る論議>を簡単なグーグル検索で容易に解決できる時代が到来したわけではない。
 それどころか、インターネット<の発展>は、むしろ物事を悪化させてきた。
 確認バイアス(confirmation bias)・・自分が既に信じている事柄を支持する証拠により注意を払う傾向・・という、きちんと説明されているところの、人間共通の短所<を我々は持っている>からだ。・・・
 <また、>「逆火(さかび=backfire)効果」と呼ばれている現象<があるが、これは、>・・・不正確な政治的情報の正体を暴露すればするほど、そうされなかった場合に比べて、人々は、より間違った情報<が正しいという>確信を持つに至らしめられる、というものだ。
 <だから、陰謀論者にその陰謀論を廃棄させることは容易なことではないのだ。>」
3 終わりに
 それにしても、米国人の63%が陰謀論者であるとは驚きです。
 日本においては、そもそも陰謀論が殆んど存在していません。
 例えば、ユダヤ人陰謀論は、世界的に流布しているけれど、日本人でこの説を信じている人は微々たるものでしょう。
 米国が日本を属国にしたという米国陰謀論も、ごくわずかの論者が主張してはいるけれど、そもそも、日本が米国の属国であるという意識が大部分の日本人にはありません。
 創価学会陰謀論もあるにはあるけれど、吹けば飛ぶような存在です。
 強いて言えば、特ア陰謀論・・これを更に、中共陰謀論や韓国陰謀論や朝鮮総連陰謀論等に分けることが可能・・がネトウヨ等の間で信奉されていることが目立つくらいでしょうか。
 この点でも日本は文明度が高く米国は低いと見るべきなのか、それとも、戦後の日本は米国の属国なるが故に本来の政治が存在せず、従ってまた、政治的な陰謀によって国内外において政治的目的を達成しようとするところの、米国でのウォーターゲート事件やイラン・コントラ事件に相当するような本物の陰謀が存在しないために「偽物」の陰謀論もまた存在しえないと見るべきなのか、悩ましいところです。