太田述正コラム#6625(2013.12.10)
<日本の暴力団(その5)>(2014.3.27公開)
「2011年、暴力団が大きく注目されました。その理由は、8月にタレントの島田紳助が暴力団との交際を理由に突然芸能界を引退したこと。そして10月に東京と沖縄で暴力団排除条例<(注10)>(以下「暴排条例」と略します)が施行され、これで全都道府県が足並みをそろえて暴排条例の施行になったこと<です>。・・・
(注10)現在、山口組の系列組織が存在しないのは広島県と沖縄県だけ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E7%B5%84 前掲
だが、暴排条例の施行が広島県(2004年4月)から始まり、沖縄県(と東京都)(2011年10月)で終わった、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E5%9B%A3%E6%8E%92%E9%99%A4%E6%9D%A1%E4%BE%8B
というのは偶然の一致ではないのかもしれない。
<かつては>暴力団<は>・・・少なくとも理想としては「堅気に迷惑は掛けまい」と思っていた・・・が2011年から以後は、平気で一般人を撃つ事件が起きています。・・・
<また、>警察官にも牙を剝くほど凶暴になっ<てきました。>・・・
やはり全国で施行されるようになった暴排条例の影響が大きいと思われます。・・・公共工事から暴力団を排除する、暴力団に利益を供与してはならない、などはどの条例でも共通して定められてい<て、>・・・暴力団の経済はこのところ急激に締め上げられている<から>です。・・・
こうした事情を背景にして建設業者や元警官が暴力団によって血祭りにあげられているのです。・・・
とはいえ、暴力団による一般人の殺傷事件は福岡県<(注11)>が目立つ程度で<す。>・・・
(注11)福岡県には、工藤會、道仁会等、5つも指定暴力団が存在するが、指定暴力団は全国で22しかないので、異常な多さであり、本部の数だけで言えば、4つしか存在しない東京都を上回っている。本部はそれぞれ別の市にあり、県庁所在地の福岡市には4番目の規模(構成員数)の暴力団の本部があるだけだ。また、明らかに在日と分かる名前の代表者がいるのは2つだ。(全国では5つなので、この点でも福岡県に「集中」している。)
http://www.police.pref.fukuoka.jp/boutai/sotai/007.html
http://www.boutsui-aichi.or.jp/tebiki/list01.html
→(溝口自身が示唆していますが、)福岡には特殊事情(後述)がある、と考えた方がよい、というのが私の見解です。(太田)
<彼らは、>耐えているのです。・・・<しかし、>貯えなりコネなりが・・・なくなれば、何をするか分かりません。・・・
みかじめ料を・・・出さなければヤクザに殺される<ようになる可能性だってあります。>・・・
<しかも、>今、暴力団は組員に警察との接触を禁じ、まして情報提供は厳罰に処します。バレたら組員<を>・・・殺しもするでしょう。だから警察に情報は流れません。警察は犯人を逮捕できないわけです。・・・
これは完全にマフィアへの変質であり、住民の敵、公共の敵へと変質しようとするヤクザの脱皮です。・・・
警察は暴力団の存在を認める暴力団対策法(以下「暴対法」と略します)を改め、暴力団を非合法化<しなければならなくなるでしょう。>・・・
<このところ、さすがに、>暴力団<員>の数は減<り始めました。>・・・
被災に今も苦しむ東北3県だけは、暴力団や暴力団系業者にとってはシノギのネタがあるという点で別天地です<が・・。>」(『続・暴力団』(以下同じ)3~4、8~15、18)
→溝口は、ここでは、暴力団側もそれなりの「投資」を被災地に対して行ってきたことを記すべきでした。
「東日本大震災の発生直後、山口組と住吉会は、東京都の事務所を帰宅困難者に開放し、同時に支援物資を自ら調達し被災地にトラックで送っている。稲川会神奈川ブロックは茨城と福島の放射線汚染地域に70台の救援物資を満載したトラックを送り込んだ。このときは防護服やヨウ素剤なしに身を挺して汚染地域に入っていったことになる。同時に閉鎖された高速道路を使わずにトラックでひたちなか市へ50トンの支援物資を市役所に届けるなどのボランティア活動を展開した。この際、暴力団であるというだけの理由で、篤志が受け入れられないことを危惧し、身分を明かさないといった気遣いに努めている。このような災害支援は1995年の阪神淡路大震災から始まっており、この当時は国民による災害ボランティアも一般的でなかったが、山口組は最も早い時期に態勢を整え被災地で支援を開始している(神戸市の山口組本部が炊き出しを行った、など)。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E5%9B%A3 前掲 (太田)
「<マフィア化もさることながら、>彼らはまずは暴力団から別の組織への脱皮、衣替えを考えています。別の組織としては、今に始まったことではありませんが、株式会社、政治団体とりわけ右翼団体、宗教法人、半グレ集団などが候補に挙がっています。・・・
宗教団体は憲法の「信教の自由」や「政教分離」原則をタテに、警察や税務署の攻勢をかわしています。・・・
韓国やアメリカなど外国に本部を置くキリスト教系新興宗教<に>・・・入会<し、>・・・大きな観光船を買い、公海上に浮かべてカジノにし・・・女はよりどりみどり、麻薬、覚醒剤の吸引も思いのままという”秘密パーティー”を開<き、>・・・警察がつべこべ言ったら、教団本部の力で外交問題にする・・・<といった>構想を実現すべく<動いている暴力団幹部もいます。>・・・」(42~43)
→話半分としても面白いですね。
「麻薬、覚醒剤」は「大麻」くらいにとどめてもらうとして、カジノについては実質的にも、そして売春については形式的に、日本で解禁していないことが、暴力団に生き延びる隙間を与えているのです。(太田)
(続く)
日本の暴力団(その5)
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