太田述正コラム#7047(2014.7.9)
<欧州文明の成立(続)(その11)>(2014.10.24公開)
 ファシズムとスターリニズムについては、ナショナリズムの時のような韜晦をイギリス人がする必要がないので、英語ウィキペディアの記述は、どちらも、明快かつ辛辣そのものです。
 ファシズム(Fascism)については次の通りです。
 「自由主義、マルクス主義、及び伝統的(traditional)保守主義に・・・反対するところの、急進的かつ専制的なナショナリズムの一形態。・・・
 ファシスト諸運動が共有している諸様相には、国家の尊崇(veneration)、強力な指導者への帰依(devotion)、そして、超ナショナリズム(超国家主義)と軍国主義の強調、等がある。
 ファシズムは、政治的暴力、戦争、及び帝国主義を国家的回春(national rejuvenation)を達成するための諸手段と見、より強力な諸国家は、より弱い諸国を押しのけて(displacing)自分達の領域を拡大する権利を持つと主張する。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Fascism
 要するに、このウィキペディアの筆者(達)は、ファシズムは広義のナショナリズムの一環であって狭義のナショナリズムの急進形態だと言っているのであり、ここから、狭義のナショナリズムそのものに対する侮蔑意識についても、はっきり見て取れる、というものです。
 それは、私の言葉に置き換えれば、自由主義、すなわち、アングロサクソン文明の立場からの、狭義のナショナリズムやファシズムといった民主主義独裁を生み出し、それに絡めとられてしまったところの、欧州文明に対する断罪なのです。
 (ここで、筆者(達)が自由主義と言っているのは、広義の自由主義であって、その含意は、イギリスの自由主義と保守主義を包摂したものであることに注意が必要です。
 「伝統的保守主義」と「保守主義」の前に「伝統的」を付けることによって、イギリスの自由主義的保守主義と、他国における通常のそれとを区別しているのです。)
 ついでに、ナチズム(Nazism)については次の通りです。
 「人種的階統制と社会的ダーウィニズムに賛同する(subscribe to)・・・ファシズムの一形態であると通常特徴付けられ、アーリア支配人種(Aryan master race)の優越(superiority)を主張し、そのどちらもユダヤ的唯物論(Jewish materialism)と結び付いているとして、資本主義と共産主義を批判した。
 <そして、>人種的に均一な社会の全ての部分が、国家的一体性(national unity)と再生(regeneration)とより劣等であるとされる近隣の諸国家の犠牲の下での領域的拡大を確保するために協力することによって、社会的諸分裂(divisions)を克服することを目指した。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Nazism
 ナチズムは、広義のファシズムの一環であって、狭義のファシズムの一極端形態である、というわけです。
 繰り返しを厭わず申し上げれば、それは、私の言葉に置き換えれば、資本主義、すなわち、アングロサクソン文明の立場からの、狭義のファシズムやナチズムといった民主主義独裁を生み出し、それに絡めとられてしまったところの、欧州文明に対する断罪なのです。
 最後に、スターリニズム(Stalinism)については次の通りです。
 「ヨセフ・スターリン(Joseph Stalin)によって考え出され(conceived)て実施されたところの、社会主義を建設し共産主義社会に到達(develop)させる方法に関する一つの政策。
 ソ連におけるスターリニズム的(Stalinist)諸政策には、国家的テロ(state terror)、専制主義、急速な工業化、一国社会主義理論、中央集権国家、農業集団化、ソ連共産党の諸利益への外国の諸共産党の従属が含まれた。・・・
 スターリニズムは、通常、一つの政府及び一つのイデオロギーの型(style)を意味する。
 彼は、ウラディミール・レーニン(Vladimir Lenin)とカール・マルクス(Karl Marx)の諸理念(ideas)の完璧な信者(adherent)であると主張し、従って、それは、単に政府の一つの型であると主張したけれど、彼の諸政策と諸信条の多くはレーニンとマルクスのそれらとは異なっているか明白に(direct)背馳する代物(opposition)だった。
 スターリンの一国社会主義の諸理念、彼による資本主義の多くの側面(aspects)の採用、及び、彼による完全にして恒久的な独裁制への転換は、全て、レーニンないしマルクスによって提示された諸イデオロギーとは甚だしく矛盾していた。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Stalinism
 これらのウィキペディアは、ことごとく英語圏中のイギリス人によって書かれた、と私は想像しているのですが、彼らの記述から、共産主義/マルクス主義/マルクス・レーニン主義に対する甘さが伺える、と思うのは私だけではありますまい。
 これは、アングロサクソン文明の誤解的歪曲を行った、どちらも欧州人たる、啓蒙主義者達と共産主義者達へのイギリス人の憐憫の情を込めた優しさがしからしめた・・例えば、マルクスは、イギリスの社会を見聞しつつロンドンで資本論を書き上げた・・ことに加え、先の大戦において、ファシズムと戦ったことは良しとして、イギリスがソ連と手を組んで戦ったことへの罪の意識を、当時、スターリニズムを、マルクス主義の本来の姿からの一時的逸脱と見誤っていたからである、として軽減したいからではないか、と私は勘繰っています。
 いずれにせよ、筆者(達)のスターリニズムに対する嫌悪は、このウィキペディアの記述からはっきりと伝わってくるのではないでしょうか。
3 終わりに
 長くなったので、とにかく、このあたりで中締めにしたいと思います。
(完)