太田述正コラム#7126(2014.8.18)
<英米性革命(その9)>(2014.12.3公開)
元米国のファーストレディー・・単なる元ファーストレディーではないのであって、いいかい、1970年代の曙において、米国の極め付きの貴族的人物、我々のオートクチュールの女性高僧として屹立していたところの、隠遁者的で、超高貴な(dignified)女性が、公の場所で、ソフト・ポルノ映画をもったいなくも享受遊ばされたのだよ。
これが、かつて「猥褻」と呼ばれていたものの勝利を画するものでなかったらなんだろうか。」(F)
(3)批判
『性爆発』というこの本の最初の文章は、我々に、1970年代における性的に負荷されたエンターテインメント的課題(fare)の増殖についての「10年間本群の一つとして始まった」ことを教えてくれる。
この10年単位でのアプローチだけでも、ホフラーの人を力づける見解の軽薄さ(frivolity)の徴表(mark)だ。
若干の諸面談を行い、マイクロフィルム図書館に飛び込んだ後になって、初めて、大「性爆発」が実際にはそれに先立つ10年間・・ホフラーは、どちらかと言うと恣意的に、まあまあ興行的に成功したアンディー・ウォーホルの見ていられない(unwatchable)「実験的」映画である『チェルシーの女達』が出た1966年・・に始まったことを自覚した、ということの著者による開示によって我々は勇気づけられるべきでもない。
本件について粗略な考えを巡らせた者なら、映画やそれ以外における、米国の諸道徳や諸流儀(manners)の緩和(loosening)に関し、1960年代の影響力がいかに大きかったかを最初から知っているはずだと思わないか。
実のところ、「性爆発」の真の触媒はエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)<(注59)>・・1950年代のあの画期的な人物・・であると主張できるかもしれないところ、この本ではついでにしか・・X指定の最初にして唯一のアカデミー賞最優秀映画賞に選ばれた映画である1969年の『真夜中のカーボーイ』の中でジョン・ヴォイト(Jon Voight)が演じた破滅型のペテン師の配役でMGMの幹部が最初に白羽の矢を立てた人物として・・言及されていない。
(注59)1935~77年。「<米国>のロックンロールミュージシャン、映画俳優・・・ロックンロールの誕生と普及に大きく貢献した<、>いわゆる創始者の一人であり、・・・キング・オブ・ロックンロールまたはキングと称され<た。>・・・初期のプレスリーのスタイルは黒人の音楽であるリズムアンドブルースと白人の音楽であるカントリー・アンド・ウェスタンを掛け合わせたような音楽といわれている。それは深刻な人種問題を抱えていた当時の<米国>ではありえないことであり、画期的なことであった。・・・歌いながらヒップを揺らすその歌唱スタイルから<も>・・・保守的な視聴者の抗議を<受けた。>」高卒。「熱心なキリスト教プロテスタントの信者であり、9歳の時に洗礼を受けた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC
<また、>ホフラーは、どうして、我々の性的諸境界線の拡大に関する本が、英国の演劇評論家のケネス・タイナンが1965年11月にBBC-3に登場して、TVでファック(F-)爆弾を投下した・・タイナンはこの言葉を動詞として使うことさえしなかった・・最初の人となった事実を間違いなく含めつつ、1968年の、ウィリアム・シャトナー(William Shatner)とニシェル・ニコルズ(Nichelle Nicols)の恋愛的な人種間キッスを省いたのか、について、どこにも説明をしていない。
恐らく、『スタートレック(Star Trek)』<(注60)>は、この著者の、誰が、或いは何が「叛乱的」であったかのあらかじめ考えた諸観念に合致しなかったのかも。
あるいは、恐らく、ホフラーは、性的諸規範の進化よりも、社会の次第に増進する猥褻性の許容度の年代記を記すことにより関心があったのかも。
(注60)「SFテレビドラマシリーズ。1966年の放映開始・・・ジーン・ロッデンベリーにより創作された。・・・<彼は、>SFの形をとることにより、当時のアメリカの社会問題を検閲されずに物語に盛り込み、指摘できると考えた・・・
<なお、>ウィリアム・シャトナー<は>ジェイムズ・T・カーク[宇宙パトロール船USSエンタープライズ号<の白人>]船長役<を務めた>・・・」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF ([]内は下掲による。)
また、ニシェル・ニコルズは、[地球のUnited States of Africa(アフリカ連合と訳されることがある)生まれの<黒人の>人間女性<で>宇宙艦隊士官・・・<の>ウフーラ<の役を務めた。ちなみに、>・・・ウフーラという名は、スワヒリ語で「自由」を意味する uhuru から来ている。]
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%A9
ロッデンベリー(Gene Roddenberry。1921~91年)は、「ロサンゼルス・シティー・カレッジ卒業。第二次世界大戦では<米>軍の爆撃機B-17のパイロットを務めた。戦後はパイロットの腕を活かして、パンアメリカン航空で働く。またこの時生存者数名という墜落事故に遭遇、現地住民の協力を得て幸運にも帰還し表彰もされたが、これで人生が変わったとも語っている。・・・<その後、>ロサンゼルス市警に就職しながら、テレビドラマの脚本家を目指した。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC
なお、彼はテキサス州エルパソ生まれだが、警察官の両親の下でロサンゼルスで育ち、大学入学直前のIQテストで上位5%に入り(ranked at or above the ninetieth percentile)ながら、自分のルーツに即し、かつブルーカラーの政治学を学ぶために、上記コミュニティカレッジに進学、卒業したもの。
http://en.wikipedia.org/wiki/Gene_Roddenberry
ちなみに、「<米国>のコミュニティ・カレッジは大部分が公立や州立であり、コミュニティという表現にあるように、その地域の住民、税金を払って住んでいる人たちへの高等教育及び生涯教育の場として設けられている2年制大学」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8
(続く)
英米性革命(その9)
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