太田述正コラム#7550(2015.3.18)
<「個人」の起源(続)(その1)>(2015.7.3公開)
1 始めに
本日遭遇したコラムの中で、
http://www.theguardian.com/books/2015/mar/13/john-gray-steven-pinker-wrong-violence-war-declining
ジョン・グレイ(John Gray)が、再び、表記のシリーズと密接に関連した話をしているので、並行して、取り上げることにしました。
2 人間主義は普及しつつあるのか?
「ピンカー(Pinker)<(コラム#1117、5031、5039、5041、5055、5069、5091、5104、5561、5806、5954、5978、6907、7479)>が率いる、新しい正統派は、先進世界では戦争と暴力は減少しつつある、としている。
しかし、この数字群は誤解を生じさせる・・・<上、人類が>道徳的進歩を遂げてきたとの観念は希望的観測であって明らかに誤りだ。・・・
この正統派を推進したのはピンカーが最初ではない。
NYタイムスでピンカーと『戦争は本当に廃れつつある(War Really Is Going Out of Style)』<というコラム>を共同執筆した、国際関係論の学者であるジョシュア・L・ゴールドステイン(Joshua L Goldstein)<(注1)(コラム#4795)>は、『戦争との戦争に勝利して–世界中での武力紛争の減少(Winning the War on War: the Decline of Armed Conflict Worldwide)』 (2011年)の中で類似の見解を提示した。
(注1)現在、アメリカン大学(首都ワシントン)及びマサチューセッツ大アマースト(Amherst)校で教鞭をとっている。
http://www.academia.edu/8972746/International_Relations_2013-2014_Update_10th_Edition_by_Joshua_S._Goldstein_Jon_C._Pevehouse
彼のその他の著書には以下のようなものがある。
Long Cycles: Prosperity and War in the Modern Age(1988年)
Three-Way Street: Strategic Reciprocity in World Politics(共著。1990年)
War and Gender: How Gender Shapes the War System and Vice Versa(2003年)
The Real Price of War: How You Pay for the War on Terror(2005年)
http://www.goodreads.com/author/show/65091.Joshua_S_Goldstein
それより以前では、(その著作をピンカーとゴールドステインが引用しているところの)政治学者のジョン・E・ミューラー(John E Mueller)<(注2)(コラム#3963)>が、『終末の日からの撤退–主要な戦争の時代遅れ化(Retreat from Doomsday: The Obsolescence of Major War)』(1989年)の中で、戦争という制度が消滅しつつあり、最近の諸内戦は、まるで犯罪ギャング達の諸紛争みたいになってきている、と主張した。
(注2)1937年~。国際関係論及び舞踏史が専門。シカゴ大卒、同大修士、カリフォルニア大ロサンゼルス校で2つ博士号取得。現在、ジョージタウン大学教授。
http://en.wikipedia.org/wiki/John_Mueller
自由民主主義が勝利を収めたように見えた1989年の夏に声明されたところの、フランシス・フクヤマ(Francis Fukuyama)<(コラム#4688、4696、4743、4775、6828、7244、7308、7389)>の『歴史の終わり』・・競争相手たる政治諸体制間の大規模な暴力的紛争の消滅・・なる宣言は、同じメッセージの<もう>一つのヴァージョンだった。・・・
長き平和のもう一人の主導者は、<ピンカーの>『我々の本性のうちのより良い天使達(The Better Angels of Our Nature)』を「この上もなく重要な本…見事な業績であり、ピンカーは、説得力ある形で暴力の劇的な減少が続いてきたことを証明するとともに、その現象の諸原因についても我々に首肯させる」、と褒めたところの、良く知られた功利主義哲学者たるピーター・シンガー(Peter Singer)<(コラム#5258、6371)>だ。
近々刊行される本である『あなたが行うことができる最も良いこと(The Most Good You Can Do)』の中で、シンガーは、利他主義を「出現しつつある運動」と描写し、それが人類が生きる形を根本的に改変する可能性がある、とした。
利他主義のこの突発の諸要因に関し、ピンカーとシンガーは、啓蒙主義的思考の隆盛(ascendancy)に格別の重要性を付与する。・・・
⇒米国での現在の識者の正統派は、近代以降、人類は、次第に、非暴力的にして利他的になってきていて・・私の言葉に置き換えれば、人間主義的になってきていて・・、それは啓蒙主義の賜物である、と考えている、というわけです。
先回りして申し上げておけば、この正統派に対して、イギリス人であるグレイが、異議を唱え、そのグレイに対して私が更に留保を加える、という形でこのシリーズは進行します。(太田)
(続く)
「個人」の起源(続)(その1)
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