太田述正コラム#0351(2004.5.16)
<アングロサクソンバッシング(その7)>
3 世界覇権国への敵意
(2) 第二次世界覇権国英国・米国
モンゴル帝国の始期を1234年の金(Jin)の征服、1368年の元(Yuan)の滅亡・明(Ming)の建国を終期とみなせば、モンゴルによる世界覇権は134年続いたことになります(http://www.allempires.com/empires/mongol/mongol1.htm以下。5月16日アクセス)。
アングロサクソンの世界覇権については、英国がフランスとの抗争にけりをつけた1815年を始期とみなせば既に189年、英国が自由貿易政策を採用した1846年を始期とみなしたとしても(http://www.mtholyoke.edu/acad/intrel/ipe/gamble.htm及びhttp://89.1911encyclopedia.org/B/BR/BRITISH_EMPIRE.htm(5月16日アクセス))、既に158年も続いており、その終期はいまだ視界の中に入ってきていません。
アングロサクソン、すなわち英国や米国が世界中から嫌悪の対象となるのはごく自然なことだと言うべきでしょう。
4 アイルランド人の敵意
(1)敵意の表れ
最後に、最も長期間にわたる執拗なアングロサクソンバッシングの例をご紹介しましょう。
それはアイルランド人によるアングロサクソンバッシングです。
1921年にアイルランド共和国が英国から独立した時に英国領のまま残った北アイルランドで、1970年代に入ると少数派のカトリック信徒(すなわちアイルランド人)中、北アイルランドの「本国」アイルランド共和国との即時合併を目指す過激派(シン・フェーン党/IRA)による、多数派のプロテスタント(アングロサクソン等)と在北アイルランド英軍・警察に対する武力闘争が始まります。
そして両者の間での相互殺戮(注11)が、過激派が武力闘争を終える1994年(下述)まで続きました。もっとも、1998年に和平協定(The Good Friday Agreement)が締結された後も、なお緊張状態が続いています。
(以上、http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/ira/etc/cron.html以下(5月16日アクセス)による。)
(注11)相互殺戮とは言っても、過激派に殺された人数はカトリック信徒(すなわちアイルランド人)の方がプロテスタント等より多い。内ゲバというやつだ。
この過激派を、アイルランド共和国の人々のほか、米国在住のアイルランド系の人々が支援してきたこと、これを米国政府も黙認してきたことから、アイルランド人は反英ではあっても、反米ではないというイメージを持っておられる方も少なくないと思います。
しかし、アイルランド人の反アングロサクソンぶりは徹底しており、米国もまた英国と並んで嫌悪の対象となっているのです。
その証拠に、アイルランド共和国は英米が主導した連合軍側に与することを潔しとせず、先の大戦には参戦せずに中立を維持しましたし、戦後も米国を盟主とするNATOに加盟していません。(他方、仏独主導のEUには早い時期から加盟しています。)
また、1991年の湾岸戦争戦争の時、アイルランドは多国籍軍に参加しなかったばかりでなく、いかなる支援も行わず、わずかに米空軍の輸送機がアイルランド内の一カ所の飛行場を中継地として使うことだけを認めてお茶を濁しました。しかも、アイルランドの主要なマスコミは、イラクの民間人数十万人が多国籍軍の攻撃によって死亡したという誤った報道を流し続けました。
更に、1994年にクリントン米大統領が仲介して北アイルランドの過激派が武力闘争を止めたのですが、この仲介は米国内のアイルランド系の人々の票目当てにだけ行われたものだ、という冷笑的な論陣をアイルランドの主要なマスコミは張り続けました。
2001年の9.11同時テロが勃発した時も、自業自得だと言わんがばかりの報道がなされましたし、今回のイラク戦争にあたっても、アイルランドは「中立」の維持に腐心したところです。
(以上、http://observer.guardian.co.uk/international/story/0,6903,1212721,00.html(5月10日アクセス)による。)
一体全体、21世紀にもなってなおアイルランド人をかくも執拗にアングロサクソンバッシングに駆り立てる原因は何なのでしょうか。
(続く)