太田述正コラム#7986(2015.10.22)
<米海兵隊について(その6)>(2016.2.6公開)
 (5)先の大戦後の「危機」
  ア 総括
 「・・・海兵隊は、第二次世界大戦後、解隊の危機に瀕した。
 陸軍の将軍達の見解では、二つも地上軍はいらない、というのだ。
 すなわち、海兵隊は、18世紀に彼らの任務であったところの、海軍の諸艦艇の上での護衛達へと立ち戻らさなければならない、と。
 誇るべきことに米陸軍で勤務したトルーマン大統領も、大統領にして元陸軍大将のアイゼンハワーも、小さな海兵隊、ないしは海兵隊が存在しないこと、を良しとした。
 それに対抗すべく、海兵隊は、公衆と議会の中で同盟者達を求めた。・・・」(C)
  イ トルーマン大統領への抵抗
 「・・・オコンネル氏は、それがどのように、海兵隊の小さな選良集団であるチャウダー協会、及び、米議会に対してゲリラ戦を敢行したところの、伝達者達(communicators)やシンパたるジャーナリスト達、並びに文官達は、トルーマン大統領の諸攻勢(initiatives)を打ち負かすに十分なほど、議院内で人心を収攬した。
 彼らは、この戦い(battle)における弱者達(underdogs)であったかもしれない。
 (この本のタイトルの『弱者達』は、恐らくは、黙示録的な「悪魔の犬(Devil Dog)<(注15)>達」をもじったものだろうが、これも、海兵隊の、自分達自身のイメージについての見事な操作の一事例であると言えよう。)
 (注15)’Devil Dog’は、’Teufel Hunden’((注2)参照)というドイツ語の訳語である、ということになっているが、当時の米マスコミがそう報道していただけであって、ドイツ兵が、実際に米海兵隊のことを、’Teufel Hunden’と呼んだことがあったのかどうか、定かではない。
 そもそも、’Teufel Hunden’は、ドイツ語としては文法的に誤りなのであり、正しくは、’Teufelshunde’でなければならない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Devil_Dog
 しかし、海兵隊は、戦争の諸戦場で、弱者達であった場合を含め、常に勝利を収めたところ、<今回も、>武器の数において大いに遜色があったにもかかわらず、彼らは、目覚ましい(resounding)勝利を議会という戦場において収めたのだ。・・・」(C)
 「・・・「ゲリラ戦」を行うことで、海兵隊は、議会の支持者達、及び、影響力あるジャーナリスト達、帰還兵達、並びに、防衛専門家達を、自分達の大義へと結集することによって、1947年の統合法(unification bill)<(注16)>とこの法への1949年の諸修正<(注17)>に対して、政治及び文化の2正面において戦った。
 (注16)National Security Act of 1947。陸軍省と海軍省を国防省の前身へと統合するとともに、陸軍、海軍と並ぶ空軍を創設した。
https://en.wikipedia.org/wiki/National_Security_Act_of_1947
 (注17)国防省を創設し、陸海空軍長官は、準閣僚的地位を失い、国防長官に完全に隷属することとなった。また、国家安全保障会議及び中央情報局を創設した。(上掲)
 「・・・「政治前線では、海兵隊の戦略は、欺騙、遅滞、そして、不正規戦、という代物だった。 
 <他方、>文化前線では、彼らは、大統領と陸軍に対して直接攻撃を仕掛けた。
 両方の諸戦略が成功を収めた。」
 <前者を担った>ゲリラ達は、ちいちゃな男達のチャウダーと行進の協会(Little Men’s Chowder and Marching Society)として知られるところとなった。
 これは、海兵隊がその組織抹殺の危険に直面しているという確信を共有していたところの、思想家達、ロビイスト達、及び、戦争の英雄達、が緩やかに提携(affiliation)したものだった。
 <各軍>統合の際の喧嘩(fight)において、海兵隊は、彼らの諸敵に恵まれていた。
 敵の筆頭はハリー・トルーマン大統領だったが、彼は、魔がさしたのか、思慮のない率直さでもって、「私が大統領でいる限り、海兵隊は海軍の警察力なのだ。…彼らは、スターリンのそれに殆んど匹敵するような情宣機関だ」、と記した。
 蜂の巣を叩いたような公的批判に晒されたトルーマンは、公的に謝罪する羽目になった。・・・」(F)
⇒米国の世界の警察官役からの撤退、及び、対テロ戦争の戦線縮小、に加えて、中共や北朝鮮に近過ぎる、といった背景から、日本、就中、沖縄本島への実働部隊の配備は廃止、ないしは最低限大幅縮小するのが自然である上に、(永遠の課題みたいな話ですが、)海兵隊そのものを存続させる意義が存在しないというのに、かてて加えて、沖縄の人々の敵意に直面しているというのに、在沖海兵隊の廃止ないし撤退をオバマ大統領が決断できない理由が、いやというほどよく分かりますよね。(太田)
(続く)