太田述正コラム#0420(2004.7.24)
<トラディショナリズム(その5)>

 (本篇は、コラム#413の続きです。)

3 後書きに代えて
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 (2)チャールス皇太子
 セッジウィックが英国のチャールス皇太子をトラディショナリズムの影響を受けた人としているのは、彼の以下のような考え方(2001年11月15日付)を見ればうなずけます。
 「・・我々はイスラム教徒あるいはキリスト教徒として、単一の神聖なる神、我々の初期の人生のはかなさ、我々の行為の責任、そして第二の人生への確信、という精神的信条の強力な核心部分を共有している。我々はまた、知識と正義への敬意、貧しい人々やめぐまれない人々への同情、家族生活の重要性に対する敬意、といった多くの社会的価値観を共有している。・・・西側世界にいる我々がイスラム世界をよりよく理解すべきであると同時に、イスラム世界に関する知識の一環として、多くのイスラム教徒がわれわれ西側の物質主義と大衆文化が彼ら自身のイスラム文化と生活様式に対する恐るべき挑戦であると心の底から恐れていることもまた理解する必要がある。」(http://www.princeofwales.gov.uk/speeches/religion_15112001.html。7月23日アクセス)
 このような考え方の下に、9.11同時多発テロの後、チャールスは英国のイスラム教徒達に対し、暴力と過激主義(extremism)拒否するように訴えました。そして、暴力と過激主義は無知と恐怖から生まれると指摘しました。(http://www.ananova.com/news/story/sm_439068.html。7月23日アクセス)
また、2002年にチャールスは、様々な宗教やコミュニティー間の敬意と理解を増進するキャンペーンを立ち上げています。そして、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教、シーク教徒、仏教等英国の23の宗教の指導者達を集め、様々な宗教が共通の部分が多いというのにかくも分裂状態なのは悲劇だ、と語ったところです。(http://www.ananova.com/news/story/sm_577836.html。7月23日アクセス)
 このあたりまでなら英国民はチャールスの言動をぎりぎり黙認する(注6)ものの、彼がトラディショナリストばりの近代の否定にまで踏み込むと、左翼サイドが辛辣な批判を投げかけてきました。

 (注6)ただし、2002年の発言は一部メディアから、パレスティナ紛争における自爆テロの横行やフランスの大統領選挙で反イスラム移民政策を掲げる極右政党である仏国民戦線のル・ペン(Jean-Marie Le Pen。1928年??)党首がシラク大統領との決選投票に残った(http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/1942612.stm。7月23日アクセス)といった情勢下において、このようなキャンペーンを立ち上げたことは、(パレスティナ側や仏国民戦線を非難したに等しく、)極めて不適切だ、という批判を浴びた。

 今年6月下旬にもチャールスは、英国の左翼サイドの逆鱗に触れる発言を二つも行ってしまいました。
 まずチャールスは教育政策について、最近の学校教育について、英語及び歴史教育が英国の文化的伝統を身につけさせる内容になっていないとこきおろした上で、ブレア労働党政権が推進している大学進学率50%政策に挑むかのように、「実用的な職業教育にもっと力を入れなければならない」と言ってのけたのです。
 次に彼は、よりにもよって癌の専門家達の前で、効果が科学的に検証できないため米国で禁止されていて、その上カネがやたらかかるGerson Therapyという自然療法を口を極めて推奨した講演を行いました。
 チャールスはダイアナとの結婚後も人妻との不倫を続け、これが主たる原因でダイアナと離婚し、英国民の顰蹙をかっていることもあり、チャールスの人気は最近がた落ちです。
6月末の世論調査によると、エリザベス2世の後、英国の元首として、選挙で選ばれた人がいいか、チャールスが国王に就任するのがいいかを問うたところ、チャールス「国王」に賛成した人は55%しかいませんでした。しかも年齢が若くなればなるほどチャールス賛成派の割合は少ないことから、英国の王制は危機に瀕している、と言っていいでしょう。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1250430,00.html(7月1日アクセス)による。)

(続く)