太田述正コラム#0458(2004.8.31)
<両極分解する米国(続)(その2)>

 (8月20日にメーリングリスト登録者が1113名になったとご報告してから、登録者数の伸びが止まってしまい、一時1119名を記録したものの、8月30日現在1116名にとどまっています。改めて、お知り合い等へのお声かけ等をお願いします。)

 米国の両極分解ぶりは、現在のブッシュ・ケリーの大統領選挙からもうかがえます。
 前回の2000年のブッシュ・ゴアの大統領選挙の時に両者がデッドヒートを演じ、総得票数ではゴアがブッシュを上回りつつも、フロリダ州でのブッシュの「勝利」によって、ブッシュが当選したことは記憶に新しいところです。
 今回もゴアがケリーに代わっただけで、2000年同様のデッドヒートが続いています。
 しかし、これは共和・民主党のそれぞれの大統領候補者が甲乙つけがたいからではありません。
 米国民が保守派とリベラルにきれいにほぼ1対1に両極分解しており、候補者がどんな人物であろうと、保守派は共和党の候補者を、リベラルは民主党の候補者を無条件に支持するからなのです。
 しかも、ちょっと信じがたいことですが、両者は同じ町や近所に一緒に住んではいません。いわば米国民は、自発的に政治的相互隔離(political segregation)を行っており、同じような政治的信条の持ち主としか同じコミュニティで一緒に住もうとはしないというのです。
 この結果、米国は「るつぼ」ならぬ「パッチワーク」の国に成り果ててしまい、南部とプレインとロッキー山脈の諸州は保守派=共和党支持者、西海岸と旧工業地帯(rust belt)とニューイングランドの諸州はリベラル=民主党支持者の牙城となっています。
 (以上の二段落はhttp://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1245321,00.html(6月23日アクセス)による。なお、州別の詳細情報は、(http://www.time.com/time/election2004/battleground/?cnn=yes(8月28日アクセス)参照。)

 以上から、マイナスの材料にことかかないというのに、ブッシュがほぼ一貫してケリーと互角以上の勝負を続けている理由が説明できます。
 ブッシュにとってのマイナスの材料を並べあげてみましょう。
 第一にイラク戦争です。
 イラク戦争を開始し、フセイン政権を打倒したものの大量破壊兵器は発見されず、かつ、政権打倒後のイラク占領政策についての事前の準備が不十分だったためにイラクの治安状況が乱れに乱れ、米軍の死者も1000名に達しようかという状況です。しかも、アブグレイブ虐待事件が公になり、ブッシュ政権の面目は大いにつぶれました。
 ところが、ブッシュ大統領への支持率はフセイン政権打倒後低落を続けたものの、支持率が50%近くまで落ちたところで低落傾向に歯止めがかかり、マイケル・ムーア監督のブッシュ批判ドキュメンタリー映画が大ヒットしている昨今、ブッシュの支持率には反転の兆しすらうかがえます。
 これは、ともにイラク戦争を戦ってきた英国のブレア政権の支持率のひどい低迷ぶり・・ブレア政権は当面総選挙がないのでかろうじて生き延びている・・と比べて、異常としか表現のしようがありません。
 第二に米国経済の状況です。
 ブッシュ政権になってから、米国における雇用者数は減り、実質平均賃金は減り、この二年間では実質平均国民所得も減少しています(コラム#428)。貧困者の数も、これとオーバーラップする無医療保険者の数も増大しています(http://www.nytimes.com/2004/08/26/national/26cnd-cens.html?hp=&pagewanted=print&position=。8月27日アクセス)。しかも、ブッシュ政権による大減税の結果、高額所得者が最も得をし、その一方で史上最大の財政赤字がもたらされています(25日付ガーディアン。http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/08/25/2003200170(8月26日アクセス)から孫引き)。その上、唯一の取り柄であった経済の「高度」成長にもかげりが見えてきました(http://news.ft.com/cms/s/c5c50110-f827-11d8-8b09-00000e2511c8.html。8月28日アクセス)。
ところが、クリントン政権の頃までは、大統領選の帰趨を決するのは国民一人一人が日常的に関わりを持つ経済問題だ、というのは常識だったというのに、その常識がいまや通用しないのです。国民が経済問題でブッシュ大統領の政策に不満があろうがなかろうが、それが大統領の支持率にもはや大きな影響を与えなくなってしまったのです(台北タイムス上掲)。

 このように米国は、国民の半数を占める保守派がキリスト教原理主義化することによって、昔日の米国とは様変わりしてしまい、通常のアングロサクソン諸国とは似ても似つかない国になりつつあるのです。

(完)