太田述正コラム#0472(2004.9.14)
<世界の20大思想家(その2)>
このうち、ウォルストーンクラフトについては、前にとりあげたことがある(コラム#71。ちなみに、ルソーについて、コラム#64、66、71のシリーズでとりあげたことがある。)ので、ハズリットとウルフの二人をご紹介しておきましょう。
ウィリアム・ハズリット(William Hazlitt。1778??1830年)は、私がこれまで全く知らなかった人物です。
調べてみると、ハズリットは達者な随筆家であり、またイギリス最初の演劇評論家であり、イギリス最初の偉大な芸術評論家であり、最上の文学評論家の一人であり、練達の政治ジャーナリストであり、哲学者であるようです(http://www.spartacus.schoolnet.co.uk/PRhazlitt.htm。9月13日アクセス)。
しかもその文章たるや、英国の文豪サマセット・モーム(Somerset Maugham。1874??1965年)をして、「私は彼の英語が好きだ。自然で溌剌としており(racy)、雄弁さが求められる時はあくまで雄弁であるし、読みやすく、明晰にして簡潔であり、取り上げている話題に応じて文体の重さを使い分けており、その話題が特別に重要であるかのごとくきどった言葉使いをするようなこともないからだ。だから彼は私のお気に入りであり、私が範とすべき先達であり、私自身が書くものに直接影響を与えた唯一の人物なのだ。」と言わしめています(http://www.ourcivilisation.com/smartboard/shop/prstlyjb/hazlitt/以下。9月13日アクセス)。
ハズリットが多才な人物であり、同時に稀代の名文家であることは分かりましたが、一体彼の思想はいかなるものなのでしょうか。
残念ながら、彼の思想に関しては、「ウィリアム・ハズリットは、その生涯を通じてトーリー系の新聞から批判され続けた」(上記spartacus・サイト)、等々という次第であり、ホイッグ系の論陣を張っていた人物らしい、ということくらいしか分かりません。
それもそのはずです。
英国の作家のプリーストリー(John Boynton Priestley 。1894??1984年)が「ハズリットがわれわれに提供するのは、一体性・調和・抑制・沈着ではなく、多様性・率直・一途・豊饒、それに、精神の分裂状況の表出・反対極間の緊張だ。それは、われわれの生きている世界が広大無辺で豊饒であり、その統一的把握が困難なことの反映なのだ。」と指摘している(上掲ourcivilisation・サイト)ように、ハズリットは複雑怪奇な人間世界の混沌と矛盾をそのまま、情熱をもって描き切った「思想」家だったようです。
こんな「思想」について、簡潔に解説してくれるサイトがないのはあたりまえかもしれません。
岩波文庫にハズリットが入っていないのも分かるような気がします。読者が極めて限られそうだからです。
しかしだんだん、ハズリットの著作と「対決」しない限り、アングロサクソン通とは言えないのではないかという気になってきました。
それこそ、’On the Pleasure of Hating’(http://www.blupete.com/Literature/Essays/Hazlitt/Hating.htm)あたりから始めなければなりますまい。どなたか挑戦される方はおられませんか。
次ぎにバージニア・ウルフ(Virginia Woolf。1882??1941年)です(注3)。
(注3)世界の20大思想家のうちウォルストーンクラフトとともに一割にあたる2人が女性だ、という点ではペンギン社に諸手を挙げて喝采を送りたい。
作家のウルフは前から知っていましたが、思想家でもあるとは初耳でした。
(続く)